第19話 -前に進む決意-

 暗い病室。

決して外の光がとどかないわけじゃない。でも、私達を取り囲んだ環境はまさに暗くなるようなものだった。


シンタ、全治5カ月。ユウキ、全治6カ月はかかるだろうなんて医者は言っていたらしい。本当なら神経が切れていたのではないかと思われるような傷が治りつつあるが、麻痺も残り5カ月を療養に費やしたとしてもリハビリが必要になるだろうと言われたみたい。


「ごめん、シンタ。ユウキ……私、何もできなかった」


シンタの横で泣き崩れているユキは、見ていて苦しい。


「俺も……守れなくてごめん……」


力なくつぶやいたシンタは俯き、目に光はなかった。


一方、ユウキはベッドの上で難しい顔をしていた。

「なあ、シンタ。俺たちのチーム……ここで終わりにしないか?」


「ユウキ……あんた────」


「もう3人消えてんだぞ? 俺もシンタも動けないで、医者からは治るのに半年、リハビリにどれだけ時間を費やすかもわからないってさ。笑っちまうよ……」


何も言えなかった。チームってこんな簡単に終わっちゃうの? いつも、だって卒業したときに私達、異界探索員になって頑張るって……いっぱいお金稼いで冒険するんだって……


たった一度の失敗。一人は死んで、二人は重症。生き延びた私とユキは、選択を迫られていた。


二人が治るのを支えて待つか、他のチームへと再び加わって探索をしに行くか。


待つなんて私には……非常かもしれない。本当は、まだみんなで探索をしたかった。

みんなを置いて私は行くなんて言えない。ほかのチームに加わるなんてもっと……


でも……現実は、みんなで冒険をしていたいという些細な望みをたやすく奪う。

生活費に治療費。この場にとどまるには重すぎる程にのしかかる二つの現実が心を痛くして追い詰める。


沈黙は続き、その静寂を破ったのはリーダーのシンタだった。


「ユウキの言う通りだ。俺たちのチームは終わってしまったんだ」


「そんなの……いやだよ」

力ないユキの声がかすれている。


私だっていやだよ。頬を伝ったものが首元へと零れ、体を熱くする。


ここで、フォンっと空気を読まずに鳴り響く私のiFunが通知を知らせた。私達を助けてくれたお面さんのチームの紗雪さんからだった。


夜空 紗雪:「もすぐで着きますので、着いたら連絡します」


秋永 玲奈:「ありがとうございます。病室はB棟の603号室です」


お見舞いに来てくれるということでお面の人と二人で来てくれるみたい。あの二人は私達なんかよりずっとベテランだと思うから……今の私達でも希望を持てるようなことを言ってくれたりしてくれるかな。


そんなの、多分できない。だって、現実は変わらないし受け止めなくちゃいけない。


「俺だっていやだよ。でも区切りはつけないとね。だってユキとレナは……まだ、やれるんだから。俺は……二人の枷(かせ)にはなりたくない。だから! 俺たちのチームは、今日をもって解散する」


ここまで言われちゃ反論なんてできないや。だって、シンタは私の状況を知ってああ言ってくれてるんだから……


前に相談したときに「いつかは、俺たちも1級探索員になって最深部へと冒険に行こう! その時は、もうお母さんの治療の心配もないくらいに稼げてるさ」なんて言ってたのを思い出し目頭が熱くなった。


「ごめん……」


こんな言葉しか出ない。

けれど、シンタは、「ありがとう。今まで俺がリーダーでもついてきてくれて……」


感謝したいのは、こっちの方だ。高校生時代に非力なくせしてハルバードを手に持ったお荷物を班に加えてくれてたくさん迷惑をかけても皆でカバーし合おうって言ってくれた優しさは、忘れない。


ユキも、ユウキも……


病室は、暗い。

ユキは泣き崩れシンタのベッドに顔をうずめている。ユウキも腕を顔に当て震えていた。


そして私も、涙は止まらなかった。


その後、20分程経って紗雪さんがお見舞いに来てくれた。

もう一人のお面をかぶっていた人も来ているのだけど、病院はペット禁止だからお留守番しているのだそうだ。


ペット禁止って……


ちょうど隣に面してる大きな公園で待っているらしく窓越しに見えるかなと覗いてみたら、案の定すぐにわかった。


紗雪さんは、探索員の装備を身にまとっている。これから探索をしに行く予定だからこの格好でごめんねって最初に言っていた。


「今日は、お面をかぶってないんですね」


「ああ……地上であのお面をずっとつけっぱなしだと目立つから外してくださいって約束をしたんです……」


「ああ……」


なんか納得してしまった。なんでお面をつけているのか、なんで背には赤黒い三日月模様の黒い羽織を着ているのか。


疑問が尽きない。


そして、あれは何をしているんだろう。


連れている白い柴犬の腰をわしづかみにしてなんかしている。


「あれって、何をしているんですかね?」お面さんを指さした。


「え? ああ、わからないです……」ちらっとみた紗雪さんは、何かを感じ取ったようにそっぽを向いた。


「ですよね……」


振れてはいけない何かに触れてしまったのだろうか。


お見舞いに来てくれた紗雪さんは、みんなに探索員としての生命は終わってないことや続けていればまた一緒に冒険できること。


チームなんて自由に組めるから、また一緒に歩み始めてもいいことを教えてくれた。


だから、がんばって傷を治して早くリハビリを終わらせるんだよって二人にエールを送ってくれた。


なんだか、二人とも美人な人に応援をしてくれたおかげか何だか顔が赤い。

だけどさっきまでのお通夜のような空気とは一転して、今はこれからのことが少し楽しみになってきた。


私は、先へ進む。


目的のために。


進んでしまうけど、嫌なこともあったけど、またいつか……みんなで探索をしたいな。


さあ、前に進もう。

いつかみんなとまた、冒険をするために。

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