第17話 -暗がりを行く者-
さあ、本来なら中層攻略も順調に進んでいたはずの夕方。
自身の身体能力向上と刀に秘めた力を引き出せ始めた今日この頃は、以前と比べてとても成長したという満足感と供に異界探索を終えていたに違いない。
なのに……
「今回死者1名、重傷者2名。まあ、異界で起きた事件の大半は監視の行き届いてないがために起こるものばかりだ。異界で採れた希少なアイテムや鉱石の窃盗。暴行や殺人、脅迫に至るまで犯罪の温床となっている事実は、世間ではあまり知られていない。なぜかって……そんなことに巻き込まれておいて帰ってくる人の方が少ないからね」
俺は、何を聞かされてるんだろう。
あの後、地上へと上がって救急車と警察を呼んだ。紗雪と秋永、滝流も事情聴取を受けることになってパトカーに乗ったのだけど……俺だけ機動隊の車に乗せられた。
そして、ここは事情聴取を受ける個室。
「心は痛まないか?」
いや、確かに倒れてる探索員に心を痛んだ覚えはあるけれども。
「いえ、あの……ネットでもよくそういう話聞きますし……免許を取った以上は常にリスクを据えて────」
「そんな成りでまじめな事を言うんだな?」
そんな成りって失礼な!
「私はね。ここの課に勤めてもう5年以上は経つ。異界事件特別調査課。我々は異事課ってよんでるけどね」
警察組織ってよくわからない。
今どういう状況なんだろう。
「あの……事情聴取ながくないで────」
「世間だと旭日隊がまるで英雄のように事件を解決してもてはやされたりするが、彼らの絶対数は少ない。全国にあんな英雄染みた強さを持つ人達なんてそうはいない」
「いや、まあ……」
「だからな。私達がいるのだよ」
「そうですよね。日本全国をカバーするなんて旭日隊の人達じゃできないでしょうし……」
「さて、本題だ。あの場所であなた。白縫春人(しらぬい はるひと)26歳は何をしていたんですか?」
フルネーム年齢付で呼ばなくても……
「いや、だからシルクハットの男ともう一人の探索員に誰かが襲われているのが見えたので助けに入って地上まで行くのを手伝ったのですって!」
ほら出た。なんか胡散臭いものを見る目。
「それで、どうしてあんなに血まみれでいたんだ! 私は胡麻化されないぞ」
「いやいやいや! あれは爪ねずみを一刀両断したときに被った返り血で────」
「私を探索員に関しては素人とでも思っているな? あんなでかい化け物を一刀両断できるわけがないだろう?! そもそも、ぐちゃぐちゃになっていたんだ。爆発に巻き込まれていたと考えるのが妥当だろう。さて、誰を斬ったんだ? あの場には、君らの証言していたシルクハットの男の物と思われる痕跡と一人の探索員の遺体だけだった。隠してもすぐに事実は────」
取調室の扉が開いた。
眠たそうな警察官が冷たい視線でこちらを見る。
「お疲れ様です~。事情聴取終わりです。大体は取れたんで帰って大丈夫ですよ~」
「あ、それじゃ失礼します」
「いや、待て! まだ話は」
「いやいや、待つのはあなたですよ~。今長谷(いまはせ)さん? その人見た目あれですけど普通の初級探索員でしたし、見た目あれでしたけど彼らを助けたのは事実です」
見た目あれって2回も言ったぞこの人! そんなに変か?! 異物を排除しようとする島国日本怖いわ!! 俺も日本人だけど!!
「だが……そうだな。悪かったね白縫君。捜査にご協力ありがとうございました」
ビシッとした敬礼は、なんだか納得行ってないという表情を浮かべその場を後にした。
ここ嫌いだ。
トイレへ行って、お面を綺麗に拭いてからしまう。
羽織を着て、回収されたリュックを受け取り警察署を出る。
「待ちくたびれましたよ!」
「わん!!」
「きゅぅう!!」
紗雪の肩に乗っていたビーは勢いよくジャンプしてシュルリとマフラーになる。
シロはなんだかご立腹の様子だ。
「ごめん、ん? ごめん?!」
なんで謝ってるんだろ。変な疑いをかけられて長引いた事情聴取……あの異事課の人のせいじゃないのかな……
「どうしました?」
「あ、いや……なにも。というより、なんか殺人事件を起こしているんじゃないかって疑われてめっちゃ質問されました!」
「ああぁ」
紗雪の目が横を流れる。
「え、なんですかそれ? なんか察したくないんですけど?!」
「そ、そんなことないですよ! はるさんの個性ですし、ほ、ほら秋永さんはかっこいいって言ってたじゃないですか!」
「そうですかね……」
「そ、そうですよ!」
「ということは探索員としての存在感がここまですごいものになるなんて思わなかったです……やっぱり日々、刀と向き合った修行の成果がどうしても滲みでて回りを委縮させてしまうんですね!」
「え?」
なんとなくわかった。お面だけでそんなに怖がられるはずがない。そんなことが起きてしまえば夏祭りに売られてるお面をかぶった子供たちのせいで絶叫パレードを引き起こすに違いない。
考えすぎてたんだ。
私は変じゃない……
「よし! 明日からまたがんばりましょう!」
「ああ……がんばりましょ!」
その後、すっかり暗くなってしまった夜の道を歩く。お腹が鳴ったので夕飯をどこかで食べて行こうかと話しながら異界食の食べ物について話し合い。
引かれるのだった。
けれど、ここであることに気づく。
首にはカワウソ、後ろには柴犬。
ペット同伴でも大丈夫なお店ってあるのかということに……
暗くて寒い廃墟の一角。
シルクハットの男は、そこへと訪れた。keep outと書かれた黄色いテープを潜りゆっくりと階段を上がっていく。
シルクハットの男の目の前にいるのは、2人。一人は長い髪が肩にかかるほどで手入れはあまりされていなさそうではあるが綺麗な髪をした男とスーツ姿の女がいた。
長い髪の男が口を開く。
「来たね……」
「ただいま戻りました」
「例の回復魔法つかうって娘は取れたか? 決行は今日だって聞いているぜ」
「いえ……」
すると溜息をしはじめ後頭部を掻き始める。
「ああ、おまえ……なんのために呼んだと思ってるの? ただの三下どもじゃ使えないからってんで呼んだのに、なんで失敗してんの?」
言いえない気配を感じ取るシルクハットの男。月明かりに照らされてうっすらと姿が見える。背には長剣が2本、腰に短剣2本、40階層や50階層を根城にしている。ワイバーンの鱗で作られた防具と被膜のコート。
それに何より、発達した犬歯が人を辞めているのを物語る。
まるでバンパイアのような姿は暗闇では美しい。
黒い影がこちらへと不自然に伸びる。
「せっかく俺が地上に来てるってのに計画は進まねぇ、任務には失敗した。ああ!! あぁ、ほんっと………………まあ、ここで言っても仕方のないことだがな。ここに来たってことは何か面白い話の一つや二つ持ってきてんだろうな?」
「ええ、戌刻の武器と思われてる物を見つけました」
「ほう……見つかってないやつがまだ、この国にあったんだなぁ。戌刻ってことは、やっぱり刀の見た目してたのか?」
「刀でしたね。白い刀で赤い稲妻を帯びており中級探索員にしては並々ならない力を持っていましたので確かめる価値は、あるかと……」
「っふ、月嶋の首を取れる日も近い。竜が先か、蛇が先か……この件はあいつらに行ってもらおう。似たような案件でぶつかってたのと同じかもしれない」
「すぐに依頼をします」
その言葉を残しカラスと供に女は消えた。
「待ってください! どうか私に、私に挽回を────」
「落ち着けって、何焦ってんだよ。むしろ好評だぞおまえ? どのみち、あと10本集めるんだ焦るなよ。兄弟?」
「はい……」
「今日は良い月だ」
「月ですか? 出ているようには……」
「おまえには、見えないんだな……あの気持ち悪い程に美しい月がさ。ってことで……ハバさんには、今まで通り回復魔法使いを使う女の収集を続けてくれ。4番隊の奴らもなぜか感づいていやがるみたいだからな、場所は変えることだ」
「しょ、承知しました。次こそは……必ず」
月の光もささない廃墟で彼は暗闇へと歩き出す。
「あと1人、後1人で8っつの贄が揃う。考えただけでぞくぞくするな。ああ……俺が次の災厄になるんだぁ……」
うごく暗闇は腕の形を取り、高揚するボスの背中を見つめて私は、身震いしついていくべき背中。追っているわけではない。だが、利害と目的が一致した関係であるにもかかわらず畏怖の念を込めて尊敬する。
さあ、仕事に取り掛かるとしましょう。
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