第15話 -謎の男達-

 突然現れたのは、謎の男だった。

黒く赤色のリボンが巻き付いたマジシャンが使うようなシルクハットと丸い黒ぶちの眼鏡、ヨーロッパでみたような髭と腕にはプレートアーマーを装備しているが、スーツのような恰好をして黒いリボンネクタイがとても不気味だ。


そんな不気味さを増長させるのは、なぜか爪ねずみを二匹後ろに待機させているという魔物が誰かに付き従うかのような不自然さが物語っている。


「なんで、魔物が……」


「おっっと?! 今見ましたね?! 私たちの大切な努力の結晶を!! 見ちゃったかぁ!! 見てしまいましたね? 変態!!」


っとわざとらしく私たちがそれらを見たことを派手なパフォーマンスでもって騒ぐ。


「っということで皆さん……ここで死にましょう!!」


「いいですね!」


「リュウスケお前?! 俺たちよりそんな変態に着いたっていうのかよ!!」


「変態とは失礼なクソガキですね。本当のところは殺す予定なんてなかったのですが……雄はいりませんね」


その時、謎の男はくるっと一回転した。「やっちゃってください!」その掛け声とともに指さした方へと爪ねずみが駆け寄る。


「おいおいおい!」


動揺するユウキ、そして爪ねずみが大きく太い爪を振りかぶった。


「え」


振りかぶった先は、私にだった。


そして、素早い攻撃と共にユキのいたところへと突き飛ばされる。


目の前に広がっていた光景に目を疑う。

「ユウキ!!」血が止まらない……回復をしないと……手をかざして回復魔法を行使しユウキを治そうと必死に淡い光を注ぐ。


「ほほう、あの娘が……」


「そうです。あの娘です」


「かわいい、かわいいねずみちゃん!……もうちょっとで…………あの娘を殺すとこだったじゃないかぁああああ!!!」


激怒した謎の男は、腰に差したレイピアを取り出し攻撃してきた爪ねずみを真っ二つに斬り裂いた。


「いやいや、失敬……私としたことが。ごみを増やしてしまった」


「狂ってる……あなたは、狂ってる」


「ほえ?」


魔物だってそうだ、手懐けたからきっと後に控えていたんだ。なのに、そんな子をいとも簡単に殺して私の仲間を傷つけた……


「私は、あなたたちを絶対に許さない……」


「……まったく、俺もだぜ」


「ユウキ! だめ、動いたら」


そっと手のひらを差し出してくるユウキ。


「これ、持ってってくれ……俺のドッグタグだ」


「いや、そんな……」


「頼む。お前らだけでも逃げてくれ……お願いだ」


「嫌だ。私も」


「だがら!! 情けない男で終わらせないでくれ。せめて……盾になれるだけの勇気がなかった俺をチームメンバーを守れるだけのタンクにも変わる短剣士がいたってことを! 覚えておいてくれ」


「っく、うぅ……うん」


「おやおや、お涙頂戴のお芝居ごっこですか?! 私は大好きですよ? そういうのねぇ……ぞくっとします。だって全部壊すんですからね」


「おい、ゲス変態野郎!」


「クソガキがぁあ!! 私を呼ぶときは────おっとその手には乗りませんよ? 私は名乗らない。そういう約束でしたからねぇ」


「何が名乗らない……だ。俺の最期の相手になれるのを光栄に思えよ?!」


「良いでしょう……儚く、優雅に、そして派手に死になさい虫が」


爪ねずみとリュウスケがユウキに襲い来る。

死なないで……地上へ出て助けを呼ぶんだ。


「ユキ!! 立ち上がって!! ユキ!!」


「ごめん、レナ……私……」


そっとユキを抱きしめた。


「大丈夫、大丈夫だから。皆助ける。だから行こう」


走って立ち去る。


ユウキの作ってくれた時間を無駄にしないために、シンタを早く手当するために……


けど、逃走は長く続かなかった。

そう、マッピングだ。ここまで来た道のりはすべて、リュウスケが管理をしていた。


帰り道が……


「どうしよう。ユキ……道が……」


「大丈夫、ごめなさい。レナ、私はこういう覚えるのが得意なの。ここから左へ曲がって────」


あの不気味な足音が響く。


「あらあら、もう追いついちゃいましたねぇ。リュウスケさん?」


「馬鹿な奴らだ。このマップを記した手帳を管理しているのは俺だってのに、生きて帰れると思っていやがる」


すると、目の前に二つの何かが放り投げられた。


血まみれでもうわからない……わかりたくない。


「シンタ……ユウキ……」


ユキは、泣き叫び心が折れたような音がした。


「そのナイフを使う哀れな子は、最期に言ってましたよ?『あ……おれの……仲間には手をださせ……ない』ってうるさいんで殴り飛ばしたらこのありさまですよ。まったく、探索員なのに脆いですねぇ」


「おまえら!!!」


「あははは?! きれいなお顔が台無しですよ?? 回復魔法を使える娘よ。さて、追いかけっこも終わりです。最後の仕上げに取り掛かるとしましょうねぇ。約束通りおいしいところはあなたに差し上げましょう」


「はい! ありがとうございます!!」


「いい返事ですよ? リュウスケさん。けどあの娘を慰めるのは別に良いですが……ほどほどにして持ち帰りましょう。お金になる」


「お前たちの思い通りにはならない! この細い通路でのハルバードの力思い知らせてやる!!」


背にあるハルバードを構え覚悟を決めた。

こちらへと、盾と長剣を構えて歩いてくるリュウスケ。


「レナ……そのハルバードを下げてくれないかな? 今なら痛くしないよ?」


「リュウスケ君……私は最期まで抵抗するよ! あなた達の思い通りにはさせない!」


「うまく振ることができないくせに強がりはよくないなぁ?! まあ、いいさ。思い通りに転がさせてあげるよ」


地面を蹴りまっすぐと向かってくる。ハルバードの一撃は、思いのほかあっさりと盾に受け止められ横へと流され斬撃を食らい飛ばされる。


咄嗟に構えた持ち手に救われるが壁際に追い詰められてしまった。


「ああ、ようやく君らをこの手で……」


くそ、くそ!! くそ!! こんなやつに、こんなやつらに……悔しい。目の前が霞んでいく。泣きたくない。


あきらめたくない。


背中をぶつけたところがジンジンする。


ハルバードは投げ捨てられ、腕を掴まれた。


もう、ダメなの? なんで……今日までみんな頑張ってきてよくわからないうちに終わっちゃうなんて……努力してきたのにシンタだって、ユウキだって、ユキだって、私だって…………神様?!


誰か……助けて。


その時だった。


さっと勢いのある風が吹く。

その風と供に目の前にいたリュウスケは飛ばされ何が起きたのか理解ができなかった。


そして、突如として音もなくふわりと黒い羽織を靡(なび)かせ、舞い降りた。

狐の面の男がそこにいた。


お面の男は、こちらとあちら、周りを見てゆっくりと刀に手をかざす。


異様な姿は、あのシルクハットの男と同様に、変わった格好をしている。もしかしたら……敵かもしれない。


だけど……だけど、言わなきゃ……前に立ってくれているんだ。


「私たちを助けて!!」


「大丈夫ですよ……」


微かだが聞こえた。震える声で……おびえてる? 

いや違う。


抜き放った刀から赤い稲妻が零れ落ちる。


「あ、あなたは……あなたは一体何なんですか?! その刀……まさか?!」


シルクハットの男は慌てふためき、その刹那。飛ばされたリュウスケの隣にいた爪ねずみが、お面の男を襲おうと前に出る。


「奥義……富嶽崩天(ふがくほうてん)」


綺麗な赤い軌跡は、円を描き、爪ねずみを上段からさっと入り真っ二つに切り崩した。


噴き出る血飛沫、水風船が破裂したように爆発した。返り血は、お面の男を悪魔とも思えるような形相にする。


「う、うわぁぁああああああ!!!」


叫ぶリュウスケ。


男の首に巻いてあった茶色いマフラーがない。だけど、そんなことはどうでも……


「きゅ!」


手をあげて挨拶するちんまりとした謎の生き物がこちらを見ていた。

こちらへと寄ってきてそっと抱きしめられ、折れそうな心を治すように肉球が頬をぽんぽんっと撫でる。


「っ……ありが、ありがとう……」


今のうちに二人のところへと駆け寄り回復魔法をかける。

そして、怪しいお面の男のおかげで状況は一転した。


「リュウスケ! そいつを殺せ!!」


「は?! それより────」


「早くしろ!!!」


「くそぉおお!!!!!」


盾を前に出し、剣を後ろへと構えてどこから攻撃が来るかわからないようにする戦い方だ。私の知らない。リュウスケの戦い方だった……


だが、赤い稲妻を帯びたお面の男は、盾をお構いなしにシンプルに叩き押した。


そして、突き飛ばされたリュウスケと同じ速度……いや、速い。流れるように近づいて握っていたリュウスケの剣を叩き折り足で頭を蹴ったように見えた。


「く、くそ!! ここは……」


気付いたらシルクハットの男の眼前まで近づいている。

速い……そもそも音が無いので目を離してしまったら最後だ。


レイピア状の剣と刀がぶつかり合う。


金属が破裂するようなすさまじい音が洞窟を響かせる。

大きく振りかぶったレイピアと刀がぶつかり合った時両者は、間合いの外へと弾かれた。


「やりますね?!」


「4人……」


「は?」


「4人ですよ。あなたは4人殺そうとしたんですね?」


「ええ、そうですが?! なにか問題でも?」


「いや……よかった」


「何を喜んでいるのか、狂いでもしましたかな??」


「戦う相手は間違えてなかった……心置きなくあなたを半殺しにできます」


「っはっはっは! 私を?! 半殺しに?! なま言ってんじゃねぇぞ?! 中級探索員風情が!! 少しレアな拾い物をした程度で、この三黒の四暗器が一本の私に勝てると思ってんじゃねぇ!! もういい、お前をいたぶって助け出そうとした後ろの女二人を目の前で、みじめに殺してやる。その後でお前の付けてる薄汚い面をつぶしてやるからな!!」


「台詞が長い……俺の覚悟は、もうできているぞ。迷う必要などない」


その言葉を残し、赤い稲妻を帯びた刀がシルクハットの男に迫る。


刀とレイピアがぶつかる。互いの身体能力は、上も下も区別がないように駆け抜け間合いの外に行っては接近し、金属音が破裂する。


「刺殺、ミーリ・プリス!!」


その言葉と供に、鋭い突きが雨のようにお面の男を襲う。


「な?!」


いくつかの刃を刀で受け切ったが受け止めきれず後ろへと後退するお面の男。


「っはっはっは、全部的確にいい場所を狙ったつもりなのですが、私が殺しを行うことで腹を立てているように見えましたが……あなた、さてはたくさんの人を殺してますね?」


「俺は────」


「いえいえ、何も言わなくていいです。人は皆秘密を持つ者です。いくつかはあなたの身に刃は届きましたし……もう、私の技を防ぎきることなどかなわない。次で仕留めますよ?」


シルクハットの男が強い……今は、お面の男にこの場を任せるしかないけれど、でもあのままじゃあの人が殺されてしまう。


その時、後ろから「くぅん」っという寂しそうな犬の鳴き声がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る