第14話 -頑張りの中で-

 私は、一生懸命がんばった。だけど、どうしてこうなったのかはわからない。特別だから? 人より違うことができるから? 誰かを助けられる力はそれだけの魅力があるのかな……


ちょっと前の話だけど、災厄があってお母さんは、頑張って働こうとしてた。

でも病気になっちゃってお金が稼げない。


それに加えて全国的に被災が起きて、みんな支援が必要な状況では思うように国の制度を受けるのは難しいみたい。


お父さんは、知らない。今もどこにいるのか、何をしているのか。


お父さんのことを聞こうとしてもお母さんは、「さあ、けど玲奈(れな)は知らなくても良いことだよ」と話を濁される。


汚れを知らないのかもしれない。でも、そういう風に守られてきて育って今、私は病気の治療費と生活費を稼ぐために高校を卒業して探索員になった。


卒業前は毎日のようにバイトで入ってきたお金で何とか食いつないでいて正直しんどかった。

若くして、お金をたくさん稼ぎたいなら夜の街にいけばいいと思ってたけど。


あまり、それをするだけの勇気と自信はなかった。


あんな状況での日本の現実は体を売るか、命を売るかのどっちかしか、あの時は選択肢が残されていなかったんだなって今は思う。


小さいころ夢見たケーキ屋さんも災厄を受けた日本では実現しにくいのかな。けど、そんなことを言っていられるような状況じゃなかったのも確かだと思う……


そんな私に、探索員という世界は希望を与えてくれた。

どうやら、私は魔法が使えるみたい。


しかも、炎を出したり、水を出したりするような攻撃する魔法じゃなくて回復魔法。


私はハルバードという槍斧の武器と短剣を選んで装備した。


おかげで、背中にはハルバード、腰には短剣っていう前に立って戦いそうな格好だったけど、実際の私は後ろで傷ついた仲間を癒すゲームなんかで言うところのヒーラーだった。


誇らしい。

せっかく選んだハルバードは重くて、うまく扱えなかった私でも活躍できる場所がある。もしかしたら、この力でお母さんの病気を治せるかもしれない。


それにしてもなんで、こんな武器を選んじゃったんだろう。


異界へ出れば身体能力も上がるし、いつかはハルバードもうまく使いこなせられるかもしれないけど、強くなりたいっていう意思が前へ出すぎちゃったのもあるのかな。


そこからも一生懸命がんばった。

そして、一緒に探索する仲間もできた。


大剣を持って前へ出て勇敢に魔物と戦う飯田 信太(いいだ しんた)。少しお調子者だけどやるときはやる遊撃で短剣を使うのがうまい山城 勇希(やましろ ゆうき)。物静かで何を考えているのかはいまいちわからないけど盾と長剣を手にして戦う鷺風 竜介 (さぎかぜ りゅうすけ)。ちょっとあか抜けてるところに憧れるけど優しくて弓を使うのがうまい滝流 雪(たきながれ ゆき)。


この5人でどこまでも、私たちは一緒にがんばれるって信じてた。



 晴天、今日も今日で息が白くなる寒さの続く穏やかな冬空の下。

集合場所にみんなが揃って異界へと入場するために向かう道中。


「りゅうすけ! 鞄わすれてるぞ!」


「ああ、ごめん……」


「どうした? お腹でも痛いの?」


「いや、まあ……中層だから、そう中層行くからさ。ちょっと心配でさ……」


鞄を渡したのは、このチームのリーダーの飯田 信太(いいだ しんた)、みんなはシンタって呼んでる。

少しだけ心配性で挙動不審な彼は、鷺風 竜介(さぎかぜ りゅうすけ)。


「大丈夫! いざとなれば俺が盾になる。りゅうすけの鉄壁の盾は信頼してるし俺たちなら、もうやれるって」


「そう、かな……」


そこへ、長めのマフラーを深く巻いた低めの声が特徴の山城 勇希(やましろ ゆうき)が自慢の短剣を抜いて磨きながら二人を見る。


「まあ、9階層と8階層を狩場に何度もアラネアも倒した。10層に出るってアングラ・マウスもでかいだけで大した敵じゃないだろう」


「まあね。でも! 分厚い毛皮と硬い爪が特徴で気性は荒く見かけたら最後まで追ってくる危険度γの魔物だから、慎重にね?」


下準備はばっちりと長い髪と額当て矢筒にきれいな弓を抱える彼女は、滝流 雪(たきながれ ゆき)。チームを冷静にみて指示などをシンタの代わりにしてくれることがある副リーダー。


「油断はできないけど、脅威は爪ねずみだけじゃないしな! 最初に出くわす運のないやつにならないよう祈ろう!」


そして、今日もシンタの掛け声と一緒にみんなで頑張ろうって手を合わせた。


大宮異界入り口前へと着いた時、なんだかすごいものを見てしまった。


白い刀を腰に差して、狐のお面? のようなものをかぶり黒いだんだら模様っていうのかな……そんな羽織を身に着けた謎の人物……


真っ先に口を開いたのは、短剣のゆうきだ。


「あれは……やばくない?」


呼応したシンタ。けど彼の眼は不思議と輝いていた。


「最高にクールだと俺は思うけど、ああいう派手なのってあまり機能性は良くなさそうだよね」


シンタは、なんだかまともなことを言っているようだけど、あの見た目に機能性を求めるのってなんだか酷だと思う。


ちらっと眼を合わせないようして何度か見たけど、ちょっとカッコよさを感じてしまった自分がいるのがなんだか恥ずかしい。


「し! 本当にヤバイ人だったら、私たち目を付けられちゃうよ! 無視が一番!」


「ゆきの声聞こえちゃうかもしれないよ?」


「ああ!」


多分……聞こえていない。うん、多分……

狐のお面は、ゆっくりとマフラーをさすり……いや撫でてる?でも下を見ている。


よく装備の宣伝で旭日隊の隊長達も着物と刀とかペストマスクって言うのかな。あのとんがったやつを身に着けていたり、常に上半身裸のムッキムキのおじいちゃんと鎧の付いたスーツを身に着けていたりと奇抜な人たちがいるから……あれは、あれでありなんだと思う。


「ささ! まあ、やばかったら警備の人が放っておかないし先へいこう!」


こうして、早朝から集まった私たちの異界探索は、いつものようにいつも通りに始まる。


そして、いつものように探索は、順調に進んでいく。

王道のいつも決まった経路で侵入して、いつものアラネアを倒して、時々鎧ねずみを倒す。


途中で鎧ねずみの大群がいたけど、とりあえず避けて8階層と9階層でしばらくアラネアの狩を続けて体を温めた。


まとめるようにシンタ。

「いよいよ中層だね……」


物思いにふけるユキ。

「私たちもここまでこれたんだ! 長かったような短かったような」


「最初は……皆で取り囲んだニワトリに苦戦するレベルだったのになぁ」


赤羽にある異界が私たちのスタートだった。右も左もわからない探索員同士で始まって初めて出くわしたのが、羽が大きく足の爪も鋭くなくてちょんとしている不思議な魔物。


くちばしも鋭いのかと思いきや丸まっていて武器という武器が見当たらない魔物。


しかも、大きな羽があるのに飛べない。


完全に駆け出しの私たちのためだけに用意でもされたかと思うくらいの魔物だ。

思いのほかすばしっこくて、皆の武器も当たらないし、シンタの鎧に矢が刺さるしで大変だった。


「おいおい、ゆうきのせいで変な事思い出した! 俺、おまえが、あのでかいニワトリを短剣で抑えてて追いやった時にニワトリの尻とキスしちゃったやつ……」


「相当ディープだったみたいでシンタの鼻血とまらなかったもんね。初めての実戦ヒールがニワトリのお尻とのキスなんて私もなんだか複雑……」


「俺は、何もできなかった……」


「いや、まあ……りゅうすけは、解体頑張ってたじゃん。ユキとレナが『ひい!!』って悲鳴上げる中でさ」


いやいや、あれはグロいって……でも、そんなことを言ってるようだとこの先生きていけないんだろうなって頑張って見てたけど!


「料理は……得意だからね。そこで役に立てて良かったよ」


みんな、優しくていい人達だ。

時には、慰め合ったり励まし合ったり、良いチームだなって……けど。



────大宮異界、第12階層。


 中層攻略も順調に進んでいた。爪ねずみも皆対1なら問題なく倒せた。でも、ここで私たちのチームは、突然終わることになるなんて予想もできなかった。


「おい!! なんでだよ!! なんでシンタを刺したんだよ?!」


「いや……いやだ! レナ!! 早くシンタを回復して!」


泣き崩れるユキ。


怒るユウキ。


倒れたシンタに向かおうとした時、一本の剣を向けられた。


「お、おっと?! やっと……やっとさ、ここまで……これたんだ。君たちには感謝しているよ。だからそんなに苦しませたくはない気も……するんだ」


「どういうことだよ! りゅうすけ!!!」


盾を装備し、長剣の刃先を私たちに……その魔物に向けていた刃先を私たちに向ける。


「なんで何も言わないんだよ! 俺は……ずっと信じてたのに友達だって……仲間だって!」


「信じてた……ああ、信じてたんだ……俺は片時もお前らを信用してた覚えはないけどな! うす汚い友情……みんな仲良し、反吐が出る。俺は、お前らのような人種が一番嫌いなんだよ!!」


「なん……でだよ……」


「俺をハブって邪魔もの扱いして弄んできた連中と同じ目をしていやがる。それだけで苦痛だった。だけど、ようやく解放される!! ああ、長かったなぁ。俺は……これから認められるんだ!」


「認められる? 仲間を裏切って何が解放されるだ!! ハブっていたって? 俺たちは、お前を受け入れて仲間だとずっと思っていたんだぞ?!」


「お前らの言うことなんて誰が信用する? 俺は、お前らのそういう嘘に何度も……何度も何度も何度も!! 殺されてきたんだよ!……復讐だ」


やるぞ、という目が私を貫く。

ぽんっと肩を叩く優しい手が私を後ろへと動かした。


「ユウキ? そんな、私……」


「すまねぇ、隙を見てシンタを頼む。ユキはショックで動けそうもない」


そっとつぶやき前へと出るユウキ。


「リュウスケ、前までのお前は、そんな奴じゃなかった。いったい何があったんだ? 今ならレナの回復魔法でなかったことにできる。今ならやり直せる。だから、そこをどいてくれ!!」


「そんな短い剣で何ができるっていうんだ? 俺は間違ってない。全部……全部お前らが悪いんだ」


ユウキがリュウスケへの説得を試みる中でコツ、コツ、コツ……と不気味な足音が奥からして、見下すような? でもよくわからない……印象としては、とても冷たい声が響いた。


「そうですよ~? りゅうすけさん。あなたは正しいことをしている! 他人は誰しも受け入れがたい存在……僕は、そんな勇気あるあなたを評価したい」


洞窟から現れた一つの影が二匹の爪ねずみを連れて現れた。

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