第6話 -魔物が現れた-
家に着き、車を降りると待っていたといわんばかりの表情で迎える白い柴犬。もふんもふんと触れ合う度に名前を付けてやらねばと思うが冬の毛モフくりまわす、この欲望には逆らえない。
そして……
「きゅっきゅう!」
首元へと飛びつく胴長のちんまりとした生物。
丸くつぶらな瞳に白い髭、頭の両脇にちょんとした耳が可愛さを強調し撫でられるのに特化したかのような、滑らかなホルムの体と長いしっぽ。
体調は30センチくらいだろうか。茶色い毛並みに白いお腹と貴族のような白い眉が特徴的だ。
イタチ……?
────数日前。
退院してきて家に着いた時、同じように白柴が出迎えてくれた。
誘惑に負けた。
ゴロゴロと鳴らす喉元を撫でまわし毛並みを荒らし、蹂躙しつくしたあとに、そのイタチは現れた。
「きゅ! きゅ! きゅ!」
異界からあのイタチが現れたのかと思い身構えるが、フォルムがまったく違う。
魔物のイタチは目が黒いがとても大きい。
50センチから60センチはあるだろう体調で両腕の長い爪と発達しただろう大きい後ろ脚と腕が特徴的な魔物だ。
そんなのと比べるとフォルムはまるで愛玩用。
鳴き声も「ぐゅう!!!」から「きゅ!」に代わっている。
恐る恐る近づいて手を差し伸べる。
白柴は、静かにこちらを見つめる。いたって冷静だ。
すると異界のイタチ同様信じられない速度で首元へ来る。
咄嗟に身構えたその時。
マフラーのように首回りを温めていた。
「っな……なんだこいつ……?」
「きゅぅ~」
ああ、だめだ。これはだめなやつだ。
人をダメにするなんとやらが流行っていたころに、これが居たのだとするならあれだ。
人の首をダメにするマフラーと名付けていただろう。
とても暖かく、もふもふと冷たく冷えた四肢までをも温める保温力に驚いたのが最初の出会いだ。
こうして不自然なイタチと出会った。
とても不自然なので、このことを紗雪へと確認の連絡をしたところ……
白縫 春人:「こんばんは(^^)/」
白縫 春人:「いまいいですか?」
夜空 紗雪:「こんばんは!!(*'▽') いまいいですよ! どうしました?」
白縫 春人:「あの・・・なんだかうちの庭、動物が増えてるのですが何なのか知りません?」
夜空 紗雪:「あの可愛いイタチさんですか?」
夜空 紗雪:「あ」
何か知っている様子だった。
白縫 春人:「あの、これどういうことですか?^^」
夜空 紗雪:「いやぁ、それがですね。話せば長くなるのですが・・・いいですか?」
白縫 春人:「どうぞ^^」
鎧の石像と戦い倒れた後、地上へと向かう道中9階層の中心部にて、日が当たり川の流れる穏やかな空間があったらしい。
そこで、自然と私の首に巻き付いている黒い魔物がいるのを発見し、引きはがそうとしても逃げられ、ほっといたら自然とまた巻き付いてくる。
そんなイタチごっこを繰り返して折れたのが事の経緯らしい。
夜空 紗雪:「っということで、よく見るとかわいいですし害はなさそうなので、イタチさんが巻き付いたまま地上に連れて帰りました<(_ _)>」
白縫 春人:「そんなことが・・・」
夜空 紗雪:「そのあと救急車を呼んで、病院までずっと巻き付いたままだと邪魔だと思って、はがして送ったのですけど、すごく素早くてどこかに消えちゃったのでてっきり帰った・・・わけないですよねぇ(笑)」
白縫 春人:「(笑)じゃないですよ! 魔物が地上にでてきたのかとすっごい焦ったんですからね!」
夜空 紗雪:「すみません(。-人-。) ゴメンネ」
そして、今日の買い物の途中で退院する時に言うのを忘れてしまったという告発を受けた。
さて……不本意ながら珍妙な動物がまた増えてしまった。
喋った白柴犬とやたら首に巻き付いてくる茶色のイタチっぽい魔物。
柴犬は飼うと決めたがイタチは……
散々異界でばっさばっさと斬っていたから心が痛む。
だが、こちらを見つめるクリっとした瞳は傾げる。
たまらん。
家に入り、珍しく上がり込んでくる白柴を風呂場でイタチと供に洗い流し、久々に湯船にでも浸かろうと水を張った。
そして、溜まった風呂の水にイタチがダイブする。
「うおお?! 大丈夫か?」
少し慌てたが、なんということでしょう。
とても優雅に泳ぎ回っているではありませんか。
狭い浴槽をあっちこっち行ったり来たりして勢いをつけてジャンプし出てくるその様。
「おまえ……カワウソか?」
「きゅぅ」
どうやら泳ぎが得意なのでイタチではなくカワウソだと判明した。
よく見てみれば、若干カワウソの中でもコツメカワウソに似てなくはない風貌だ。
そして、ここでも白柴はいたって冷静に胸を張ってこちらを見つめていた。
採れた冷凍イノシシ肉を解凍して夕飯にする。
シンプルにステーキ様に焼いて乾燥わかめの味噌汁と先ほどコンビニで買ったサラダを合わせて健康面はばっちり? の夕飯を用意した。
きっと大丈夫だ。たぶん……
イノシシ肉のステーキを取り分け白柴とカワウソに分け与えてみた。
どうやら食べれるようで2匹ともよだれをたらしながら頬張った。
おいしかったらしくおかわりをねだられるも、その要求を却下して夕飯を食べ終えてからお風呂に入り、その日は終わりを告げる。
寝静まった耳に鋭い鳴き声が響く。
「わん!!」
「きゅ!!」
「わん!!」
「きゅぅ!!」
一度寝たのに二匹の鳴き声の合唱に目が覚める。
「静かにして……」
そして、白柴がLED電球を仕込んだわけでもないのにいきなり光始めた。
「な、なんだ?!」
飛び起きて白柴のところへと行く。
「っへっへっへっへっへ……わん!」
「いやわからない!!」
すると、置いてあった刀を咥えて外へとでてしまった。
「夢か……?」
違う、夢じゃない。
異界の方へと行ってしまう。
即座に古いほうの甲殻装備に着替えて、首にカワウソが巻き付く。
「きゅ!」
「おまえも行くのかぁ……」
大木の異界のある方へと急ぐ。
速い。
白い残像を残し異界へと入っていってしまう。
「ええ?!」
まずい、あの刀がないと探索員生命が尽きてしまう。
追いかけて行き異界へと入った。
────大木の異界 第1階層。
落ちていた鞘を拾い、白柴を追いかける。
白い光の残りを追いかけ、目の前で待っては素早く移動するのを繰り返して追いつくのを待つ白柴。
「いったい、何が目的なんだ……」
あの白柴は、実は人を誘い出して魔物に捕食させるようなそんな魔物だったりして……っという妄想が脳裏をよぎる。
白柴の元へと鎌のような長い爪を持つイタチが現れた。
そして、鞘から解き放たれた刀身は、綺麗な軌跡を描いてそれらを真っ二つにする。
「あの犬本当に何者なんだ……神様って言ってたけどしゃべらないのはなんでだろうか」
魔物を真っ二つに斬り裂いたところで先ほどの妄想は、どうやら間違えていたらしいとなんとなく疑ったことを心で謝る。
遭遇しては一刀両断するのを繰り返し、1階層、2階層を駆け抜けていく。
────大木の異界、第3階層。
崖をぴょんぴょんぴょんと駆け上がり、軽々と頂上まで到達する。
とてつもない運動力だ。
自分の速さ……いや、それ以上の脚力を秘めている。
それに負けず、崖を駆け上がっていくが、白柴がのぼった時間よりはるかにかかって頂上へとたどり着く。
いや、ここまでのフルマラソンで結構体力が……
白柴は容赦なく先へ進んだ。
────大木の異界、第4階層。
吹き抜ける風、爽やかな景色を行く白い光。
追いかけ小高い丘へと至る前の背の高い草原へとたどり着いた。
前みたいに石拳ゴリラがいる……
思えば紗雪はどうやってここを人ひとり担ぎながら通ったのだろうか。
そして、白柴は着いたのと同時に草むらへと大きくジャンプして飛び込んだ。
すると石拳ゴリラがいるだろう場所めがけ飛んだらしく次々と草の上を渡っていくように白柴の足元で何かが倒れていき、ジャンプして小高い丘へと着いていた。
きっと、あの倒れたやつってゴリラだろうな……
「あの犬ツールアシストでも使っているのだろうか……」
「きゅ?」
自然に巻き付いた首元のカワウソが何?っというように返事した。
「どうして首に巻き付いてくるのか話してほしいよ……」
草むらへと入り一直線に駆け抜け小高い丘を登り第5階層へと降りた。
────大木の異界、第5階層。
降りて、洞窟を走り鳥居のある所へと出た。
景色が違う。
だが、それ以上に雰囲気も違った。
鬱蒼としていた雑木じゃなく整えられた石畳と日が指す空間ではなくまるで月明かりが照らす夜の景色だった。
鳥居をくぐり渡りだすと両脇に置いてある灯篭に火がともされ、案内するように次々と灯っていった。
「すごい……」
そして、ひときわ大きい鳥居を潜り抜けたところで中央の木に季節外れの桜の花が咲いていた。
暗がりの中を照らす幻想的な景色。
紗雪と来たときは廃れた場所だったのがどうして……
白柴は、桜の前で立ち止まり、刀をそこにいた人物に渡した。
長い黒髪に白い肌。派手ではなく優雅に咲いた桜の花だろうか。そのような柄の黒い着物を身にまとい帯には刀が差してあった。
「こんにちは」
綺麗な声だ。透き通るような声であいさつをする。
「こんにちは……」
「どうして私なのでしょうね?」
問いかけられた謎の台詞に困惑する。どういうことなのかさっぱりわからない問いだ。
「どうして……とは?」
「わたくしは、何もできなかった無力な存在。研鑽なんてできなかった灯の一人」
言っていることがわからない。いきなり自虐に走ったが探索員なのだろうか?
「あの、よくわかりませんが……その刀、そこの犬が勝手に持って行っちゃったので返していただけませんか?」
「あなたは、どうしてこの刀を手にお取りになったのですか?」
「どうして……? ただ、その日を生きるため……いや後悔しないために、その刀を使っています」
「そうでしたか……私は、大切なものを取り戻したかったからですね」
「あの、理解できないのですが、あなたはいったい────」
「きっと、一番近い私を呼んでくれたのですね……」
さっと風が吹き桜が舞い散る。
黒い着物の女性は、髪をかき分け物悲しそうな表情で空を見た。
そんなときでも柴犬は、いたって冷静にこちらを見ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます