第24話 -ドロップアイテム-

 退院後、紗雪の上司を呼び車で家まで送って行ってもらうこととなった春人。

入院にかかった費用の請求書の額は、約13万円ということに身を震わせていた。


「13万……」


目に見えてどんよりとした雲を発生させるように病院を出る春人。


そして、退院当日。渡すものがあるということで紗雪も来て、ユニクロールの紙袋に入ったものを渡してくれた。


「退院おめでとうございます!!」

「これが、渡したいものなのですが……」


「これって……?」


「あの鎧のゴーレムが崩れ落ちた後に粉々になった胴体から出てきたものです」


「ドロップアイテムってやつじゃないですか!!」


「ん~、ゲーム風に言うとそうですね」

「なんでこんなものを持っていたのか不思議ですけど、すごい品なのは確かです」


「すごいというと?」


「たぶん持った瞬間実感できるかと思いますが、紙袋の音まったくしないですよね?」


「あ、ほんとだ」

「え、すごい何も聞こえない」


「そうなんです」

「防音効果がすごい品なんです」


「こんなすごい物もらってもいいんですか?」


「はるさんが倒したのですから受け取ってください!」

「他にもレイピアとか鎧とかありましたので後程、売るかどうか決めましょう!」


「あのあと大変だったと思うのにすごいですね」


「これでも探索歴ながいですからね!」

「あの後、死んじゃったかと思ったのにはすっごい驚きましたけど、すぐにか細い寝息が聞こえてきたので若干気が気じゃなかったですけど安心しましたし……」


「いや、ほんとありがとうございます」

「紗雪さんは、命の恩人ですね」


「私もあの時……足手まといになってしまって────」

「お互い命の恩人ですね」


笑いあったそんなやり取りの後に紙袋から黒い羽織を取り出す紗雪。


「ちょっと着てみてくださいよ!」


折りたたまれていたのでよくわからなかったが、黒い羽織は確かなのだが赤黒いだんだら模様と背には同じく赤黒い三日月の模様が施されていた。


「なんか……」

「すごい奇抜なデザインですね」


「そうですか?」

「かっこいいと思いますよ!」


「いや、確かにかっこいいけど……」


とても、なんというか……厨二の病を患ったような、そんな外観が着るのを拒ませる。

せっかく持ってきてくれたんだし……


決心し袖に手を通して羽織を着る春人。


「ど……どうですか?」


羽織は、若干大きいが胴体はぴったりで袖も手首までは長くなく、ちょうど良いサイズだった。

だが、膝下まである丈は、羽織というよりロングコートのようだ。


「お? おお……」

「な、なんだか似合ってますね!」

「コスプ……」

「様になってるというか……」

「すっごい、良いと思います!」


「今なんか止まりませんでした?」

「あと何か言いかけましたよね?!」


「なんの話でしょうかぁ?」


若干声が裏返り勧めてしまったからには後には退けぬという顔をした紗雪。

心中をどことなく察してしまった春人。

赤黒いだんだら模様が不吉に笑っているような沈黙が二人を包む。


「これで異界に行くんですね……」


足音を立てるように歩いてみた。

だが、驚くことに何も音がしなかった。


「確かに……足音とかの音が全くしません」

「なのに私の声はしっかり聞こえるんですね」


「ほんと不思議ですね……」

「魔物に気づかれずに忍び寄って暗殺とかできそうです」


「なんだか心がくすぐられますね!」

「刀なので侍じゃなくて忍者をコンセプトに装備を……」


「羽織が忍者っぽくない気はしますが、面白そうですね」


そんなやり取りをしていたら待たせている車から、前原さんが顔を出す。


「お二人さん、イチャイチャしてるとこ悪いけどそろそろ出発するよ」


「イ、イチャイチャなんてしてないですよ!」

「今行きます!」


「はいはい」


手を仰ぎながら車に乗る紗雪。

運転手は、やはりあの防衛相の前原さんのようだ。


「前原さん、お久しぶりですね」


「5年ぶりです白縫さん」


「もしかして、この前運転してたのって前原さんじゃなかったでした?」


「あはは、よく見てましたね」

「あの時は、うちの隊員が世話になりました」


「うちのということは今は、旭日隊に?」


「名前がコロコロと変わりましたけど旭日隊の一員です」

「役員という立場柄か隊毎の調整役をやらしてもらってます」


ここで会うのも巡り合わせというやつなのだろうか。

相変わらずスーツの上からでもわかる筋肉は、日々の鍛錬を怠っていない証拠であることを示唆しているように堂々としている。


だが、紗雪の上司が前原さんだったとは驚いた。

なぜ運転手をしているのかはとても気になる所。


車へと乗り出発する二人、目的地はそれぞれの自宅だ。


ようやく帰れる。


車が動き出し、病院を出る一向。


「いやぁ、白縫さんも探索員になっていたとは思いませんでしたね」


「え?」

「前原さん知り合いなのですか?!」


「昔いろいろあってねぇ」

「拳と拳で語り合った中さ!」


「そんな過去があったのですね……」


「ちょ、堂々と何を変な事言ってるんですか!」

「確か防衛相の未確認なんとかの誘いを断っただけじゃないですか!」


「そうとも言いますかな!」


「うわ、また騙された!!」


「夜空さんのリアクション面白いからついね」


「とんだ詐欺師です!」


騙されてそっぽを向く紗雪。

確かに面白いリアクションをとったのを横目に確認した春人と前原の5年ぶりの再会に世間話で盛り上がる車内だった。


防衛相未確認生物対策班は、当時数名の力ある高校生を中心に力を増したこと。

国の中枢が様変わりし、中身ががらりと変わり体制が著しく変わったこと。


そして、国の防衛機構が昔と大きく変わったこと。


「ええ!!」

「旭日隊って名前総隊長の彼女が考えたんですか?」


「そうそう、月嶋君の彼女が『日が上がりそうな感じでいいじゃん!』て言ってたの覚えてますよ」


今や警察、自警団に並んで国の秩序を保つ絶対の力の象徴とされている旭日隊が当時、女子高生によりつけられた名前とは思わなかった……


「幕末の新選組とかそういうのめっちゃ好きみたいでしたからねぇ」

「月島君の彼女はセンスあるよ」


『あぁ』


なんとなく想像がついた後部座席の二人は、頷く。


「そうそう、白縫さんは当時、職員として迎えるつもりだったけど今は、こちらの頼みごとを強力してもらいたいと思ってるんですよ」

「入って力を貸してください!」

「ってな感じじゃなくていいんで気が向いた時にとかで結構なんで」


「なるほど……」


「夜空さんも2番隊隊員として在籍はしているけど立ち位置としては、協力をしているといった感じだからね」


「ん~、そうですね」

「旭日隊独自のネットワークで連絡を取ったり、事務所で隊長とお喋りついでに事務作業でお給料もらったり、ゆっくりさせてもらってますね」


「国の機関だからもっと厳しくしてるのかと思ってたのですが結構ラフなんですね」


「犯罪を取り締まったり、未然に防いだりってやるときは、やらなくちゃいけないんですが探索員って職業柄働き方も自由なところが、また昔と違って面白いんですよね」


「あの異界の調査も依頼ですからね」

「けど、直で私のところに来たのはなんでです?」


「それは、夜空さんを信頼しての上からのお達しさぁ」


「なんか……」

「怪しいです」


その考えには何となく同感する春人。


単に近いから、昔通ってた職場に近いからというだけで選ばれたわけではなさそうだ。


そんなこんなで紗雪の自宅に最初につき見送る。


「はるさん……」


「はい」


 何かを溜めるように間ができる。


「あの────」


 ドアを開ける音がした。


「あ、お姉ちゃんお帰り~」


「うわぉ、結(ゆう)か」

「ただいま!」


不自然にびっくりする紗雪。


「紗雪さん?」


「あ、ん~」

「多分、はるさんなら大丈夫なので、なんでもないです!」

「また、連絡しますね」

「次は、はるさんのお買い物にいきましょう!」


「了解です!」

「それじゃまた」


車が走りだした時。

「ああ! お姉ちゃんが男二人も連れてる!!」


「いや!」

「違うから!」


「な~んだ二俣じゃないのかぁ」


というなんとも微笑ましい姉妹のやり取りが聞こえなんだか楽しそうだった。

言いかけたこともとくに深刻な事ではないだろう。


そして、家に着き、前原さんにお礼のあいさつを済ませ見送る。


とても帰ってくるのが久しぶりに感じる我が家。


「わん!」


「おう、ただいま!」


白柴も帰ってきていたようで挨拶を済ませる。


「そういえば名前決めてなかったなぁ」


頭を撫で喉元を指でくすぐる。


「んくう~ん」


随分と間の抜けたような声で癒してくる白柴。

ああ、癒される。

この時のために俺は狂犬病のリスクを背負ってでも戯れる覚悟を改めさせられる。


癒しタイムを終え鍵を取り出し、扉を開けた時。

目の前に現れた謎の影に驚愕する春人だった。

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