第23話 -駆け出しの覚悟-

 鎧の石像は腹から粉々に崩れ落ちる。残った上半身が小声で呟く。


「蠕�▲縺溘�……逕イ譁舌′縺ゅ▲縺溘h縺�□……」


崩れるように倒れる春人。


「はる!!」


意識が飛びそうなほど酷使した体は、指一本動かすのですらやっとなほどだった。


少しずつ亀裂が入るような音をたてて崩れる岩。

その時紗雪の足が解放されようやく、動けるようになり春人の元へと急いだ。


「だめ、だめ!!……」


十字に傷のついた腹部から流れる血を必死でポーションで濡らしたタオルで抑える。


「っん!」

「しみる」


「我慢です!!」


やがて抑えた個所の血が止まり、紗雪はほっと緊張を解き春人へと話しかける。


「大丈夫ですか?」


「なん、というか……」

「霧がかかってて朧気かな」


「無茶……」

「しすぎですよ」


「あはは……」


「おかげで助かりました」

「はるさんは、すごいですね」


「はる?」


「あ、さっき自然に声に出てきて呼びやすいから、そう呼んじゃってます」

「だめですか?」


「いや、はるひとより呼びやすくていいですね」


かすれる声で残ったエネルギーを絞り出すように言う。


「本当に、本当に……」

「死んじゃうんじゃないかって思いました」

「生きててよかった」


涙でかすれる声で春人を手を握る紗雪。


「うん、ごめん」

「俺も、紗雪が……」

「生きて……てよか────」


「え……やだ」

「はるさん! 春人さん!!」

「起きてください!」


薄れ行く意識の中で必死に呼ぶ紗雪を最後にゆっくりと目を閉じた。




 見慣れない……いや、どこかで見たことのある天井と白い壁の作り、窓があって外の景色がしっかりと見れる個室。


ツンとくる消毒の香りがここは天国ではなく病院であることを物語る。


ここは……そうか、助かったんだ。

この病室の作りは以前にも見たことあるような気がする。

医療研究センター東京総合病院、かつてお世話になったところだ。


不覚にも、そう馴染みはないはずなのにそこだと思う。


腕には点滴がさされ透明の輸液バッグからぽたぽたと流れる液体が管を通して入ってくる。


「なんだか、懐かしい」


ゆっくりと外を見て爽やかな晴れの天気である気持ちよさに心を落ち着かせ一呼吸おく。


あのあと、一体どうなったのだろうか。


俺が無事に生きて帰ってきているということは、紗雪さんも無事に帰ってこれてるってことなのだろう。

とりあえず、無事に帰れたことを喜ぼう。


だが……だけれども、病院の病床で点滴につながれどのくらい寝ていたのか。


「紗雪さん、大丈夫かな────」


そんな心配を遮るようにガラガラと扉の開く音が聞こえた。


「は!」

「ただいま先生を呼んできますのでそのままの姿勢でいてくださいね!」


「あ、はい」


その後、この前の人とは違う医者が来て入院までの状況を説明された。

内容は、異界で気を失った自分を紗雪が担いで上層まで戻り、ひどい出血だったため救急で搬送したとのことだった。


そして、三日の時が経っていた。


「死にかけの状態で運ばれる探索員は多い」

「その都度、仲間を失い立ち直れずやめていく人たちを何度も見てきた」

「これからは、無茶な探索を避けてしっかりと準備をして実力を磨いて挑むようにしてください」


との注意を医者より受け、3日も寝てたというのに問題なく歩けたため、とりあえず1日様子見で入院することとなった。


白縫 春人:おはようございます(^_^)/~

白縫 春人:紗雪さんのおかげで無事目覚めることができました!


日中だし、調査のために探索に出ているだろうからiFunをおいて再び横になろうとした時だった。


「ピコン!」


夜空 紗雪:ハルさん!! 目が覚めたのですね!

夜空 紗雪:よかった

夜空 紗雪:今お見舞いに行く途中だったので、また後程お会いしましょう!


白縫 春人:わざわざ、お見舞いありがとうございます(*'▽')

白縫 春人:気を付けてきてくださいね(/・ω・)/


既読を最後に20分ほどして病室の扉を開く音がした。

落ち着いた私服姿で長くストレートで下ろしていた髪は結っており、いつものイメージと違うギャップに驚く春人。


「はるさん!!」


「紗雪さん、三日ぶり!」


「昨日もお見舞い来たので1日ぶりです!」

「三日ですよ? 三日も寝てたんですからね!」

「すごい心配しましたよ」


「心配をおかけしてすみません」

「てっきり異界調査を続けていると思ってたので、そんな頻度でお見舞いに来てくれていたとは思いませんでした」


「あの異界での調査は、一旦隊長の判断で中断することになりました」

「なので今は、フリーでお休みをいただいてます!」


「なるほど……」

「中断ということは、そんなに危険な所と判断されたのですか?」


「そうですね」

「異界探索自体、複数名でやるのがセオリーですが私の探索階層が20層付近で5~10層までなら大丈夫だろうという判断の元で調査を本部から依頼されていたのですけど……」

「上層に出現するはずのないはるか上の難易度の魔物を観測してますし、あの鎧のゴーレムやら他の異界にはないような謎の遺跡の類も確認しましたので調査を見送ることになりました」

「私の知る限りだと、あの異界の上層難易度は日本で五本の指に入るくらいの難しさだと思います」


「そんな大変な所だったのですね」


そして、ゆっくりと悔いるような表情を浮かべ頭を下げる紗雪。


「春人さん、すみません!」


「え?」

「いやいや、私が謝るのならまだしも、なんで紗雪さんが謝るんですか」


「もっと速く撤退の判断を……」

「デーモン・ハウンドと戦った後にでも出せていたらこんなことにはきっとならなかったと思います」

「あの異界の異常な難易度は、その時点で気づいていたはずなのに続行してしまった私の落ち度です」

「本当にすみません!」


異界探索員、探索に出る自由を規制した資格。


それを取得し、いざ異界へと行って魔物と戦い未知のアイテムや未知の場所をめぐり日銭を稼ぐ。

そんな探索員にあこがれて命を落としてしまった者は少なくない。

その自由を突き破って異界へと入れる資格だからこそ、ここで紗雪が謝るのはとても不自然なことなのだ。


「頭をあげてください」

「私も異界探索員です」

「駆け出しとはいえ異界へと入場する資格を取得したからには自分の命を賭けて、守る責任と覚悟はできています」


「春人さん……」


「だから、そんな泣きそうな顔をしないでください」

「それに、あのあと私を背負って地上まで運んでくれたじゃないですか!」

「私の命が助かったのは紛れもなく紗雪さんのおかげです」

「命の恩人ですよ」

「後悔があるなら、次に行く時にでも活かしましょ!」

「ああしたらよかった、こうしたらそうはならなかったっていうタラレバは、終わりです」

「だって、私たちは生き残ったんですから」


ぺたりと床に座り、俯いて泣きじゃくる紗雪だった。


「今日も生き延びることができた」


お見舞いに持ってきてくれたフルーツを剥いてもらうという贅沢なことをしてもらい、久しぶりに食べる果物にテンションをあげる春人。


しかし、そのテンションをあげ、今日を生き延びた喜びをかみしめる探索員は、退院した時の請求書を見て気絶するのだった。


第一章 -異界探索、上層編- 


完。




あとがき

 第一章、ようやく完結です。


9カ月間追ってくれてた方いらしたらレジェンド級だと思いますが、ここまで読んでくださった方、ありがとうございました!


初めての連載、初めての物書き、初めての小説、設定を練る所以外はすべて初めての経験でとても楽しかったですが、初心者の物書き故にとても読みづらいところが多かったかと思います。


それに、序章といきなりの過去編と第一章で20万字は多いだろうと若干思ってますが、ご愛敬ということで!


お許しを(/・ω・)/


そして、第二章が始まりますが、今度はこれまで感じた反省点を踏まえて書きたいと思いますので、前よりも読みやすく面白くを目標に書いてみますのでよろしくお願いします!

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