第二章 -三黒の刀-
第1話 -吹かない綿毛-
綺麗だねぇ。
娘の無邪気な笑い声が静かな庭を楽し気な音楽で奏でるように明るくする。
「お父さん!」
「みてみて!」
「お花!!」
「おお、綺麗だねぇ」
「もうちょっとしたら綿毛になってまたふぅーって遊べるね」
「あのふわふわしたやつだったんだ!」
「またふぅーってやろうね」
「ああ、またふぅーってやろうな」
「約束だからね??」
「ああ、約束だ」
どうしてこの花は鼓草なんて言われていたんだろうな。確か、花言葉は『愛の神託』だったかねぇ。
好き。
嫌い。
好き。
嫌い。
さてさて、最後に残るのはどちらか。なんて若い子は占うんだろうけど最後には、ふぅって吹いてしまえば飛んで行ってしまう愛なのに神託を受ける必要なんてあったのか。
「ピピピ! ピピピ! ピピピ!」
「お父さんのアイファンなってるよ?」
「おお、ありがとう」
「んへへぇ」
っち、せっかくの親子水入らずの日にこれだ。
また眠れない日が続くのやら。
iFunを手に取りゆっくりと面倒くさそうに電話に出る。
「はい」
「ああ、仕事ですよね」
「わかってますよ」
「今支度をするから待っててください」
iFunを机に置きその場を日の当たるベランダとは対比的な寝室へと向かい装備を整える。
刀・・・っか。
細い高圧ボンベを鞘に取り付け射出の威力を極限にまで高めた思考の一品。
組織の力ってやつは恐ろしいもんだ。
それにこの刀のおかげで随分と狂わされたものだな。
「ふぁああ~あ」
寝たりねぇ。
深手の黒いコート、下には鎖帷子(くさりかたびら)で仕込んだ防具。
もはや奴らの攻撃など当たることなく屠れるから、あってもなくても同じか。
「悠貴(ゆき)~」
「な~に? お父さん」
ひょっこりと庭から顔を出す素振りは我が娘であるからこそなのかとてつもなくまぶしい。
ああ、また、この手を……
できるなら娘を撫でたり、一緒に遊んだりすることだけに使いたいこの手を……
人殺しに使わなきゃいけないなんてな。
「お父さん、ちょっと仕事がはいっちゃってな」
「今日は夕方には戻るから、その間家政婦さんとおとなしく家で待っててくれ」
「ええ~~!!」
「またお仕事?」
「ゆきつまらない!!」
「ごめんな~」
「ミスターケーキのチョコレートケーキまた買ってくるから、それで許してほしいな?」
「ん~~~」
「早く帰ってきてね」
頬を膨らませながらトコトコ歩いてくる娘は、俺の足を掴みぎゅっと抱きしめる。
「超特急で帰ってくるさ!」
ああ、もしもこの手に血がついていなかったんだとしたら、どんなに幸せだったか。
「それじゃ、行ってくるね」
ポンっと手の甲で優しく頭を撫でドアを開ける。
「いってらっしゃーい!!」
無邪気に見送る娘、この先行われることなど想像ができないだろう純真無垢な子供。
こんな父親でごめんな。
第3章 -三黒の刀-
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