第21話 -待つ者-

 剣をフォルスターへ納め、黒い耐火コートの下に軽装の甲冑、膝当てや腿当てのついたボトムス、コートの上から左腕に小手を装備し準備万端。


春人も凹んだ甲殻装備を身にまとい刀と脇差をしっかりと取り付け準備する。


「さて、行きましょうか」


「はい」


二人は石垣を上り、大きな橋のある所へと来て驚くことになる。

それは、砦の両脇に二体のエルフの像があり細やかな木々の装飾と石の花が飾られとても神秘的な空間を作り出していた。


「はぁ、すごい綺麗・・・・・・」


「これは、何かの文明ですかね?」


「何かあったのは確かですけどすごい興味深いものばかりですね」

「もう・・・・・・」

「こんな、どこだかわからない状況じゃなかったら心行くまで、この景観を楽しめたのになぁ」


少しご立腹な紗雪さん。

だが、言いたいことは何となくわかる。

大きく、盛大にして優雅な彫刻は、古代もしくは、ここの異界にエルフのような人種がいたことを示すのではないだろうか。


「もし、エルフがいたとしたらすごいことですね」


「エルフってあのゲームとかのキャラでよく出てくる妖精ですよね?」

「ん~、リヴァイアサンや化けクジラ、ケルベロスみたいなのがいるくらいなんですからきっとエルフもいるんでしょうね・・・・・・」


「え?」


「え?」


「ちょっといまさらっとすごいこと言ってません?」


「何がです?」


「リヴァイアサンと化けクジラ、ケルベロスがいるってマジですか?!」


「ああ、いや、名前上ではそう呼んでるんですけどその生物達と外観が本当に類似してる上にとんでもない強さを持ってて今も野放しじょうた・・・・・・」

「あ、もしかしてこれ非公開の情報だったりします?」


「いやいや、私に聞いてもだめですよ」


「ああぁ・・・・・・」

「あ、でもリヴァイアサンは、有名だと思います!」


「いや、全然聞いたことないですよ」

「ニュースチェックしてますけどそんなのいたらもう大騒ぎじゃないですか!」


「あれ、そうなんですか?」


「そうですよ!」


「ん~・・・・・・」

「聞かなかったことにできます?」


「そしたらもうちょっと詳しく!!」


「そんなキラキラした目で見つめないでください・・・・・・」

「ニュースをチェックしている春人さんが知らないくらいですから多分非公開情報だと思います」

「って、そんな情報を無造作にポイっておいてる隊長もどうかと思いますけど、今の石油危機はご存じですよね?」


「はい」

「ですけどそれと、リヴァイアサンと何が関係しているんですか?」


「今、その海上輸送経路で絶対立ち入り禁止区域が指定されているのですが、リヴァイアサンが輸送船や漁船を片っ端から襲い倒して大変なことになっているんですよ」


「マジっすか!」


「教えちゃってもいいのかなぁ・・・・・・」

「ま、大丈夫ですよね」

「とりあえず二人だけの秘密ってことで!」


「大丈夫です!」

「秘密にします! 秘密です!!」


「でも、近々討伐に向けて各国が動くがどうのこうのしてるらしいから公にはなると思いますけどね」

「と、とりあえず! 目の輝きを止めて先行きますよ!!」


「あ! は~い」


魔物、不思議な生物で龍のような生物やゴブリン、オーガもいる未知の存在に対する好奇心に触れて心が躍る春人だったがぐっと堪える。


崇高なほどに立派に彫られた彫刻の門を背に橋を渡る。

特に 魔物が現れたりするわけでもなく渡りきると大きな階段がより下層へと続いているのが見えた。


「うそ・・・・・・」


「これって、次の階層へ降りられる奴ですよね?」


「多分、そうだと思います」

「ここまで大きな造りで雰囲気も変わるとなると、もしかしたらここは10階層で次から11階層になるのかもしれませんね」


「まずい方向ですよね」


「もう帰る算段つけてるのにまずいですね」


「っということは、あの洞窟から流れる川を上るか、洞窟を遮る砦を通って帰るしかないってこと・・・・・・」


「川は確実に泳がなくちゃいけないので難しいですね」

「しかも流れに逆らってですし・・・・・・」


「となると、砦コースですね」


砦を通って帰る算段を立て、二人は元居た場所へと戻り大きな扉の前に立つ。

金属の頑丈な淵で覆われた石の扉だ。


鉄の柵でも木の扉でもなく石と鉄でつくられたとても重厚な扉。


「紗雪さん・・・・・・」

「これ、開けられると思います?」


「こう、なせばなる! じゃダメですかね?」


拳を前に突き出す、空手のようなポーズを取り石の扉に向かってちょんと小突く。

なんだろう、とても突っ込みづらい見てはならない何かを見てしまったような、この言い表しがたい感情はきっと、ペットがなんかよくわからないことをしている可愛さに通じると思う。


どう返せばいいか言葉を選ぶ沈黙の中で心の底から、湧き出る言葉があった。


「・・・・・・」

「賢い」


「・・・・・・?」

「いま若干下に見ませんでした?!」


「いえ、頭が良いと思います」


「いや、言い方変えてもだめです!」

「春人さん絶対、私のこと馬鹿とかあほの類だと思いましたよね?!」


「いやいや、現にそれしか選択肢はなさそうなので力技が正解ですよ」


「これは、ユーモアですよ」

「さすがに私でもこれ押せる自信ないですよ?!」

「ちょっと緊張感ありそうな所だったから体の無駄な力を抜こうという粋な計らいです」


「なんというか、確かに粋な計らいだと思います、はい」

「なにか開ける仕掛けか何かないかなぁ、なんて見回していたのですが見当たらないですし、試しに押してみましょうか」


「くぅ・・・・・・」


掛け声とともに大きな扉を押す紗雪、思いのほか鍵もかかっていないのか石の扉がきしむ音と供にすんなりと開いた。


「ち、違います!」

「怪力とかじゃないですからね!」


そんな言い訳もむなしく扉が開き大きなホールが目の前に現れた。


まるで西洋のおとぎ話にでも出てくる舞踏会場のような優雅さを匂わせる場所だ。

どこも、ボロボロでその面影などないように見えるが、しっかりとした苗木のような装飾があちこちに残っていたり、天井を支える長い柱がいくつも等間隔にある。


「おおぉ」


言葉にできない声が口から零れる


純粋に、その光景を目にしてでた言葉は、感嘆以外で表せるほどの語彙が見当たらないほどの芸術が目の前にあった。


「すごいドストライクな場所です・・・・・・」


その横で探索を忘れるように趣味を楽しみ感想を吐露する紗雪。

隅々をよく見るため地面の埃っぽさを気にせず歩いていく。


一通り見終えた後に、さらに奥へと延びる通路へと向かう二人。

両脇に飾られた錆びた燭台と破られた絵画と思わしき飾りが雰囲気を作り出し次の大きな空間へと続く途中で微かに流れる水の音が聞こえてきた。


そして、水の流れる音のするところへとたどり着いた。

天井は白く輝き部屋全体を照らす。


壁には8角形になるように天井を支える柱が部屋の形を形成する。

地面には水が流れどこかへとつながっているのだろうか、高い壁に備え付けられた謎の生物の装飾からあふれ出る水を中央の大きな円形の台座の下へと水が流れていった。


大きな円形の台座は半径50mはあるだろう広さでその周りには14本の柱が天井へと延びる。


零れ落ちる光が水面を白く照らし、まるで水晶にあてた光がきらきらと回りを照らすようなそんな美しさがあった。


「なんて観光名所でしょうか?」


「すごい綺麗で見入っちゃってましたけどこんなにも綺麗な場所があるなんて・・・・・・」


そして、中央には何かの石像か、銅像なのかよくわからないが謎の石像の背中が見えた。


耳は長く、軽装ではあるが特徴的な鎧を身に着け、背に2本の剣がクロスするように備え付けられていた。


「あれは・・・・・・」


「身に着けている装備は本物そうですけどなんでこんな部屋の中央に?」

「ん~! この謎がまた、まらないんですよね!」


「確かにロマンありますよね」

「ここで一体何が行われていたのか、何をしていた空間なのか」

「その謎の一端を見ると結構気になりますね」


「ですよね!」


二人は、中央の鎧を着た耳長の石像の周りをぐるりとし、名残惜しさもあるが早々に立ち去ろうとしたその時だった。


「蠕�▲縺ヲ縺�◆」

「縺薙%縺ク縺ィ閾ウ繧後k繧医≧縺ェ閠�r遘√�縲∝セ�▲縺ヲ縺�◆」


「なに?!」


揺れる地面、動き出す壁、広がる台座。


「鬲比ココ縺ォ邇�>繧峨l縺溘が繝シ繧ャ縺ョ螟ァ鄒、縺ォ關ス縺ィ縺輔l縺滓�繧峨�鬲ゅ�」

「謌代i縺ョ蜉ェ蜉帙�邨先匕繧呈焔縺ォ縺吶k縺ォ蛟、縺吶k莠コ迚ゥ縺玖ヲ句ョ壹a繧九∋縺丞ョ溯。後☆繧�


「もしかして、あの石像・・・・」

「しゃべってます?」


「反響しててよくわからないですけどあれがしゃべっていますよね?!」


「讒九h」


その短い言葉とともに二人は、剣と刀を抜き構えた。


「なんで?」


「でも、体が戦わなくちゃって気が────」


中央に仁王立ちしていた石像が動き背の剣を同時に抜いた。

綺麗なレイピアだ。


右手に白いレイピア、左手に黒いレイピア。

凝った装飾が鍔に施され一級の芸術作品とも呼べるその美しさとは裏腹に何もかもを貫かんとする気迫が春人と紗雪に襲い掛かる。


静寂に包まれる空間。


そして、一滴の滴る水の音を合図に時は動き出した。


 駆け出す鎧の石像。

兜からはうっすらと赤く光る目がこちらを覗く。

その鋭い眼光が指し示す先にいた二人に目にもとまらぬ速さで繰り出されたのは、両手に持つレイピアの突きだった。


丁寧にガードする紗雪。


リーチや力は、分がある紗雪だが、はじいたレイピアをよそに片方のレイピアが無理やり押通ろうと紗雪を貫こうとした。


響く、金属音。


貫かれる寸前に春人がカバーし、もう一方のレイピアをはじいた。


重い!!

あの小さく他愛もなさそうな突きがオーガの一撃よりも重く感じる。

まずい、重心が刀に引っ張られる。


態勢が崩れる春人、紗雪の前にでてしまい、敵の追撃が来る。

だが、崩れる態勢の春人を掴み、遠心力を利用して紗雪がクレイモアを振り咄嗟に防御の姿勢に入った鎧の石像を吹き飛ばす。


「春人さん、ありがとう」


「紗雪さんこそ!」

「助かりました」


一瞬の攻防。

だが、渡り合ったその一瞬で実感する実力の差。


得体のしれない鎧の石像を直視した。

物言わぬ、物体はまるで死そのものに見えるかのように不気味で圧倒的な絶望を感じる。


「デーモン・ハウンド・・・・・・」

「かわいく見えてきちゃいましたよ」


「ですよね」


「だって、防いだだけなのに両腕がジンジンするんですから・・・・・・」


鎧の石像は立ち上がる。

一本のレイピアで空を斬る。

試し切りをするように、こちらへとゆっくりと出方を伺い歩いてきた。


「春人さん」


「なんですか?」


「私、頑張ってみます」

「なので奴を思いっきり出口とは反対方向まで飛ばしますので、逃げれませんか?」

「そして旭日隊の誰かに、このことを伝えて助けに来てください」


「・・・・・・」


つまり、ここは私に任せて先に行けって言うやつだろうか。


「それで私が行くと思います?」


「あはは、行ってはくれませんか」

「けど、あの化け物をみてください」

「どう見ても勝るのは難しそうです」


「なら────」


遮るように襲い来る鎧の石像。

素早いレイピアは一瞬で紗雪を追い込む。


その間へと割って入るも弾き飛ばされ手も足も出ない春人。

防御するので精いっぱいになる。


鎧の石像から両の手で繰り出される渾身の突きを紗雪のクレイモアが正面から切り下ろし、ぶつかり合う。


金属音が響き土煙が舞った。


「っく!」


揺れ傾く円状の台座。


「紗雪さん!!」


「だい・・・・・・大丈夫!」

「だから、私ならなんとか持つからお願い」


「腕が」


「ちょっと刺されただけだから、ほらまだ動く」


「けど!」


どうしたらいい。

どうしたら、この場から逃げられる。


何か・・・・・・


考える暇も与えず、こちらへと狙いを定める鎧の石像。

地面に力強くレイピアを叩きつけ自身を鼓舞するように身を震わせながら赤い眼光が不気味に光る。


レイピアを叩きつけられた地面は、割れすさまじい威力であることを物語った。


あれを使えないだろうか。


「そこにいてください」


「え?」


返答を聞かず前へ出る春人。


鎧の石像と正面から対峙し、ヘイトを自分へと向けさせる。


だが、レイピアから身を守ったとしても第二撃目が容赦なく追撃してくる攻撃は正確で、一つ一つに反応するも体が思うように追い付かず足場の悪い水辺へと着てしまう。


そして、水辺に立つ一本の柱を背に感じ追い詰められた時。

勢いを溜めるように力のこもった突きが恐ろしいほどの速さで繰り出された。


「ここだ!!」


考えるより速く、感じるよりも速く。

未来を見通すように横へと飛び、強烈な一撃を柱へとぶつけ、狙い通りに鎧の石像へ柱が倒れ挟まった。


「すごい・・・・・・」


「紗雪さん! ぼーっと見てないで速く逃げますよ!!」


「あ、はい!」


二人は、先へと走る。

建物の装飾も飾られたオブジェクトも視野に入れずただひたすらに、その場から逃げる。


大きな扉を開けると砦へと入る前の木漏れ日の差し込むところとは一転して、8階層のような石畳の作りの異界が広がった。


「魔物は、いないみたいです!」

「急ぎましょう」


すると砦の中で大きな轟音が響く。

落ちてきた柱から逃げ出したのだろうか。


両脇に等間隔で置かれている折れた柱を横目に大きな石畳の広間をまっすぐと走る二人。

そして、石畳の色が変わり上へと延びる階段を見つけた。


「紗雪さん! 上に行ける階段です」


「よかった」

「これで帰る道も見つけられる」


鎧の石像が追ってきていないことを確認し階段を駆け上がった。



────第XX-1階層


上へと昇ったところで、二人はその場に座った。


乱れる呼吸、高鳴る鼓動。

一度ミスをすれば殺されるかもしれない相手との戦いの中での緊張感で手が震える。


『はぁ・・・・・・』


同時についた溜息の主を見つめ、お互い生きていることを確認する。


「死ぬかと思ったぁあああ!」


「奴のレイピア? ですかね」

「あの攻撃を刀で受け止めた時腕がピリピリしましたよ」


「私もその感触がしたから、相当力の強い魔物だったんですよね」

「石像っぽかったからゴーレムでしょうか?」


「異界ってなんでもありですね」

「ゴーレムまで出てくるなんて・・・・・・」


「私は、もう何が起きてもちょっとやそっとじゃ動じない自身がありますけど、あんなやばいのは心臓に悪いです」

「でも、これって・・・・・・」


紗雪の言葉を最後に沈黙が二人を包む。

だが、言いかけた言葉の続きは大方の予想はついた。


「先へ進むには、あれを倒さなくっちゃいけないってことですよね?」


「そうです・・・・・・」


さらに沈黙が続く。


「また、流されて先に行くっていうのはどうです?」


「良さそうですけど8階層の構造によってはまた飛び込まなくちゃいけなさそうですね」

「それに、戻るとき必ず、あのゴーレムがいますよ?」


「ですね・・・・・・」


水を飲み、体を休める二人。

ポーションを使い、刺された紗雪の腕の治療を終えて地上へと歩みを進めようとしたその時だった。


響く異音と振動。

二人は、武器を手に取り身構える。


そして、地面にひびが入り足場が崩れた。


「春人さ!!────」


崩れ落ち、土煙が舞う。


視界は悪く見通しが聞かない状況の中、春人は岩と岩の間に足をはさんで動けなくなっている紗雪を見つけた。


「大丈夫ですか?!」


「だい、じょうぶみたい」

「ただ、挟まって動けなくって」


何とか抜け出そうともがいてみるが抜け出せないでいる紗雪。


そこへ、ずっしりとした足音を響かせ赤く光る眼光が土煙の中からはっきりと見えた。


「縺�♀縺翫♀縺翫♀縺翫♀縺翫♀縺翫♀��」


唸り声のような謎の咆哮をしてレイピアを抜き、鎧の石像がこちらを睨んでいた。

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