第18話 -鬼の群れ-
螺旋状の大きな階段を下る春人と紗雪。
湿った風は、やがて乾いた風に変わり階層が変わったという感触を肌で感じる。
「なんだか、紗雪さんのおかげですごいハイペースで進めてる気がします」
すこし納得のいかないような表情で返す紗雪。
「私のおかげかぁ・・・・」
「ん~、というより春人さんが、よくここまでついてこられているんだと思います」
「え、結構大変でしたけど普通じゃありませんか?」
「まあ・・・・良い意味であまり普通じゃないのですが私のおかげって言ってくるのはうれしいですね」
「けど、すみませんが春人さんに合わせて引き返すかどうかの判断を一応は、しているのですよ」
「上の階層でも死ぬ可能性は0じゃありません、なので探索に行く際は必ず実力の低い人、探索して間もない人のペースに合わせていくのがセオリーですし私の目的は調査ですからね」
「後でレポート書かないといけないの本当にめんど・・・・」
「それは置いておいて春人さんが異界探索員になってから探索し始めて1カ月でしたっけ?」
「だいたい、そのくらいです」
「1か月ってもう駆け出し中の駆け出しの探索員もいいところなのにスケイル・ウルフは倒すし、オーガは一刀両断するし、それらに加えて異常なほど早い足さばきと反応・・・・」
「ここまできたらもう体力的にも余裕がなくなって満身創痍だと思ってましたよ」
「あはは・・・・」
「それに、オーガとかスケイル・ウルフ、イノシシや石拳ゴリラ? みたいな自分よりでかい魔物となんて会ったらまず恐怖を覚えて逃げるか手を出せずに立ちすくむという方のが多いです」
「だがら最初に『魔物を狩る』なんて事は、なかなかできないことなんですよ?」
「まさか、そんな高評価をもらえるとは思ってなかったのでちょっと照れちゃいます」
「駆け出し探索員って結構シビアな世界だったのですね」
「駆け出しらへんで向き不向き感じてやめる人が多いですね」
「再会したとき、身なりが初心者なのに動きがまったく初心者のそれとは違くって私の中では、もうかなり驚いてますよ」
(身なりは、お金がなかったっていうことで・・・・)
ぼそっと言い訳をつぶやいた春人。「え、何かいいました?」っと聞き返す紗雪だが、なんだか恥ずかしくなったので咄嗟に話題をすり替える。
「ってことは私は、探索員に向いてるってやつですね!」
「確かに、向いてはいますけど・・・・所々命知らずなところは、反省してくださいね」
「あ、はい~」
螺旋階段を3回転か4回転程下り続け、微かにドス、ドス、ドスという足音がしたから聞こえてくる。
二人はアイコンタクトをして立ち止まり、武器を手に取る。
螺旋階段を包む筒状の洞窟も終わり広い空間へと出た。
─────第8階層
「何これ・・・・」
階段下先にいたのは多数のオーガだった。
「1、2、3、4、5・・・・」
「14体かな」
「気持ち悪いくらいいますね」
多数のオーガが螺旋階段を終えたところで寝たり、走ったり、スケイル・ハウンドを食べたりとしっちゃかめっちゃかな感じにいる。
「これ、さっきまでのオーガと全然違いますね」
「そうですね・・・・」
オーガ達の持っている武器がしっかりと加工された石の斧と槍、そしてオーガの集団の中央に座るひときわ大きなオーガがいた。
錆びた長剣に木の盾、そして丸まると太った体に鋭い二つの角。
「いかにも群れのリーダーって感じのするオーガがいますね」
「ですけど、あれってオーガなんですかね?」
「オーガですね・・・・」
「地形や異界の環境によって適応するらしく場所によっては体系、筋力、使用武器まで違うみたいですから・・・・」
「ただ、今まで出会ったオーガの角は目立たないような感じの未成熟のオーガでしたけどあれは、そこそこ成熟したオーガですので強さも動きも一味違うのだけは覚悟してください」
「わかりました」
どう切り抜けるか引き返すかの判断と作戦を立てようとした時、奴らが動き出した。
『ぐぉおおおおおおお!』
一斉に鳴り響くオーガの鳴き声、自分たちの存在がばれたのかとびくっと体が鳴き声に反応した。
恐る恐る下を見る春人と紗雪。
立ち上がり武器を手に取るオーガ達の視線は、こちらではなく、視線の先にある右側の通路であった。
『うぉおおおおおおおん!!』
スケイル・ハウンドの遠吠えが鳴り響く。
どうやら通路の先にスケイル・ハウンドの群れもいるようだ。
「なんか、修羅場ってますね」
「そうですね・・・・」
「こっちは、二人しかいないからあの集団に飛び込むのは・・・・」
「あれ、行けるかもしれない」
先頭に立つひときわ大きいオーガがスケイル・ハウンドの成れの果てと思われるものを地面に叩きつけ咆哮する。
それを合図に通路へとひた走るオーガ達。
オーガが一様に一方向へと狭い通路に走って行く。
これはチャンスだ。
荷物を階段のところへと置いて、静かに階段を降り切った春人と紗雪。
通路へと入っていくオーガを見届け、武器を取り出し斬り込む。
こちらの存在に気付いたスケイル・ハウンドとの戦いを繰り広げている後方のオーガ。
だが、遅い。
夜空の鋭い一撃が腹部へと突き刺さり薙ぎ払われ一瞬でオーガを屠った。
それに続いて振り下ろされる石斧を紙一重で避け、腕、足、首へと斬撃をお見舞いする春人。
同時に倒れるオーガがうめき声をあげ次第に動かなくなる。
そして、前方にいるオーガが加勢するためこちらへと襲い来る。
一匹づつ来るオーガに対して、先ほどの連携技が炸裂した。
前に出る春人、繰り出される石槍を刀の鎬(しのぎ)で受け、はじき返す。
オーガは、怯み態勢を崩しながら後ずさる。
そこに走り込んで勢いをつけたクレイモアがオーガの首を一刀両断した。
後に続くオーガが紗雪へと狙いを定めた時、春人が自分の存在を無視していることを感じ前へ出て一閃。
入りは浅く、攻撃を受けたオーガは、もがくもクレイモアの一撃が容赦なく命を狩り取った。
「4匹・・・・」
ついた血を振り払い、前でスケイル・ハウンドが鳴き叫んで倒れる音を聞きながらオーガを後ろから狩り続けていく。
そして、ちょうど9匹目を斬り終えた時、奴らはスケイル・ハウンドを一匹残らず潰していた。
「なかなか、グロテスクな光景だけどあいにく、こんな光景を見て叫ぶほどの経歴じゃないので引かないでくださいね!」
「今更、そんなことじゃ引かないですよ」
「むしろ、この光景を見て叫ばれたら、ちょっとどうしよもないのでやめてくださいね!」
この作戦決行した本人からまさかの台詞に苦笑する春人。
だが、目前にあるのは飛び散ったスケイル・ハウンドのものと思われる内臓と汚物。
そして血まみれになったオーガが4匹と切り傷をたくさんつけたひときわでかいオーガが一匹。
スケイル・ハウンドが負けたの一目瞭然だ。
「2(に)、4(し)、6(ろ)、8(や)、10(と)、2(に)・・・・」
「・・・・かなりやられてますね」
「え? うん、そうね・・・・」
数えるのをあきらめ、オーガとこちらの存在を認識し合う。
その時、階段の上で聞いていたものとは違う咆哮が力強く響き渡った。
「来る」
先行するは、石斧と石槍で武装したオーガ2匹。
「先、行きます!」
と言葉を残し地面を強く蹴り走りだす春人。
大きく石斧を振りかぶり春人へと攻撃を繰り出すが、難なく避ける。
そこで足へと一太刀入れ、一匹目を動けなくして次のオーガへと狙いを定めようとした。
しかし、斬り終えたオーガの背へと抜けた時に次のオーガが槍を突き出す。
攻撃が休む暇もなく来るが、突き出される槍を左わきへと受け流した。
すると、見事に後ろで立てずにいたオーガを貫き動揺する槍持ちのオーガの首元へと飛び、斬り裂く。
2匹のオーガは力なく倒れ、次第にぴくりとも動かなくなった。
「ちょっとびっくりしましたが2匹!」
残りは3・・・・
1匹いない。
左でクレイモアと石斧がぶつかり合う轟音が鳴り響いた。
「春人さん、オーガ来てますよ!」
「ありがとう!」
横から来たオーガの武器は弾かれ仰け反る。
その隙にすかさず対応し胸元へ突いて切り上げた。
「残りは2匹ですね」
こくりと頷く紗雪。
だが、ここでオーガ2匹は不思議な行動に出る。
ひときわ大きいオーガはなんと、奥へと走って行って逃げたのだ。
「え、逃げる?」
追うにも目の前にいるやつを対処しなくちゃいけない。
「ま!・・・・て?」
残る1匹のオーガは投げ捨てられた石斧をもう一つ拾い、心臓の鼓動と同調させるように体中の筋肉をびくつかせていた。
「あれは?」
「わからない」
「あんなことをする個体は初めて見ます」
そして準備が整ったかのように大きく息を吸い込み先ほどの大きなオーガの咆哮と同様の激しい咆哮でこちらを威嚇するのだった。
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