第17話 -鬼の階層-

─────第7階層


 しばらく降りると空気が変わった。

先ほどの穏やかな森林地帯とは打って変わって地形が変化した証拠なのだろう。気候は涼しく湿気があるため先がどうなっているのかわからない。


階段の暗がりをぬけ、そのままの暗闇が続く。

7階層へと降り立ったところでいったん止まり照明をつける夜空。


照らされた先にあったのは古めかしい赤黒い鳥居、奥には石灯篭が左右におかれ、ずらっと奥まで続いているのが見える。


「なんだか、ダンジョンらしい場所になりましたね」


「ええ、この異界いろいろと予測が全然つかないので注意してくださいね」


「はい」


恐る恐る、前に出る夜空。

こんな時にレディーファーストを譲ってしまう自分が情けない。


ゆっくりとマッピングを続ける。

すると何かが腐ったような匂いが漂い始める。


「っう・・・・」


「何かいます」


光源の強さを最小限にし目を凝らすと半分食べられたスケイル・ハウンドの死体があった。


「これは・・・・」


「スケイル・ハウンドを食べる上位の魔物がここにいるんだと思います」

「このまま、ゆっくりと進みますので武器を構えておいてください」


緊張の中歩き始める。

まっすぐ行った道を右へと曲がるといくつかの分かれ道が洞窟状に広がっていた。

すると何かの争う音が聞こえてきた。


争う音は徐々に近づき、音源の主達が目の前に現れた。


逃げるスケイル・ハウンドを大きな棍棒で叩き潰し雄たけびを上げる。


「ぐぉおおおおおおお!!!」


身体は、スケイルハウンドにつけられたと思われる切り傷で赤く血まみれであったが、元の色が赤いせいか皮膚がテカってるだけに見える。


体躯は、3m程の丸まるとした体に浮き出る筋肉がスケイル・ハウンドを屠る強さを見せつける。


「オーガ!!」

「気を付けてください」

「オーガの危険度こそあまり高くありませんが、かなりの怪力を持っています」

「攻撃は、なるべく受けず急所の首と足を狙ってください」


「わかりました!」


こちらを見て、ゆっくりと棍棒を引きずりながら歩いてくる。

手には、倒したと思われるスケイル・ハウンドの死体が2匹。


棍棒を勢いよく振り回し、先頭にいる夜空へと振り下ろす。

地面を蹴り二人は横へと飛んで避ける。


勢いの籠ったオーガの攻撃は、木製であるはずの棍棒で石畳にめり込む。

棍棒を引き抜こうと必死で力をいれるオーガをよそに夜空が春人の肩をぽんぽんっと叩いた。


「白縫さん、敵が人型で武器を持っている場合に取れる連携があるのですがやってみますか?」


「連携?」


「そうです」

「二~三人、応用すれば四人以上でもできる連携技です」


「とても興味深い話ですね」


「それじゃ!」

「一発やってみましょう!!」


棍棒を引き抜いたオーガはこちらを見る。

こちらへと走るオーガ。


「攻撃が大振りで避けやすいとはいえ、危なくなったら絶対すぐに逃げてくださいね!」


「わかりました」


話は終わり構える夜空。

オーガの攻撃が繰り出される瞬間、クレイモアの鎬(しのぎ)部分を思いっきり棍棒へと当てて大きくひるませた。


「今です!」


地面を勢いよく蹴り、低姿勢でオーガの懐へと潜り込む。

勢いを溜め一閃。


横薙ぎ。


オーガの腹から血飛沫が舞う。

再度後ろへと仰け反るオーガへと追い打ちをかけるように夜空の縦斬りが決まった。


声にならないうめき声をあげながら崩れ落ちるオーガ。


二人は、そっと刀と剣についた血をゆっくりと拭き取り鞘へと納めた。


「うまくいきましたね!」


「あんな、すんなりと隙を作れるものなんですね」


これが基本の連携、敵の防御を崩した隙を相方が狙う。そして、そこに攻撃を加え、先制した相方の攻撃態勢がもどったら追撃する。


すると敵側からしてみると永遠と攻撃を受ける形となり反撃しても攻撃を食らう。

つまり、反撃に出ようとすると必ずしっぺ返しを食らう詰みの状態に陥る。


旭日隊1番隊隊長、小早川 拳也 (こばやかわ けんや)が考案した対武器所持戦闘においての必勝法らしい。


「すごいです! この技ってお互いの息が合ってないとなかなか難しいんですよ!」


「ということは息がぴったりっていうやつですか?」


「っと言いたいところですが・・・・白縫さんは、かなり素早いからそこで補うことができたんだと思いますけどね」


「そこは息の合ったコンビネーションだったということで、武器所持魔物との初戦闘、勝利を称え合いませんか?」


「そう言うには、まだ遠いと思いますけど・・・・」

「ささっとそのコンビネーションを磨くためにお互い、もう下の名前で呼びませんか?」


「下の名前?」


「命を預けるチームメンバーなんですし、こういうのは信頼関係が大事なのです!」

「そろそろ逐一『白縫さん!』って呼ぶのも疲れましたよ」


そんな疲れるって程ではないような気もするが、信頼関係を構築するという点では確かに利がある。


「それと敬語です! 春人さんずっと敬語しゃべっててもうこっちがどう出ていいかわからなくなっちゃったんですからね!」


「ああ、いや! 敬語は、あれです・・・・」

「う、生まれつきっていうやつですよ」

「バッドステータスみたいな感じの奴なので状態異常回復の魔法でもない限りそうは簡単に外れないのです」

「ホ〇ミじゃだめなんですHPちょっとしか回復しません」


「なんで、そんなに頑ななんですか!」

「それにホ〇ミなかなか使えますからね?」


「夜空さんだって敬語外れてないじゃないですか!」

「たぶん、これが自然の形なのですよ」


「これは伝染したんです!」

「四六時中、敬語話してる春人さんのせいです! 普通に年下の後輩からいきなり溜め口で話すとかもう世界を救う勇者みたいな勇気が必要なんですからね」

「育ちが良いと割と気にするのですよ?」


育ちが良いというのは余計では? という突っ込みをあえてしないでおく春人。


「どちらかというと世界を壊す勇者にはなれそうです」

「関係破壊(リレイション・デストラクション)ってやつですね」


「変な技名みたいなの作らないでください!」

「ま! それは良いとして、これからは紗雪(さゆき)ですよ?」


「ん~」


「わかりました?」


「はい! わかりました、紗雪さん」


ぷいっとそっぽを向く夜空。


「よし、オーガは解体しても特に得るものないので先にいきましょ」


我慢していたが、そろそろ限界のようだ。

オーガとの戦闘に入って倒し終わった達成感を味わってからずっと、気になっていたことがある。


「これ食べれ」


「食べれないです」


「・・・・」


即答だった。オーガ肉はおいしいという記事をどこかで読んだ覚えがあるのだが、見間違いだっただろうか。


「おいしいか」(もしれない)


「おいしくないですよきっと」


言い切る前に、これも即答だった。


「あの、イノシシはとてもおいしかったですけど・・・・」

「未知のものを食べる勇気を別のベクトルの勇気に昇華させることを私はお勧めしますよ?」


「なんでですか」


「春人さんが変なの食べて死んでも看取ってやらないです」


「下調べはしますのでディナーにどうですか?」


「嫌です」


無言の圧力に押し敗け探索を再開する一向。


そんなやり取りを続け、出会うオーガを狩りとる。

次々と出会うオーガの振るう武器は棍棒だったり、石を棒の先にくくったハンマー状の物や研いだと思われる斧状のものまで様々だった。


そして、苔むした石造りのダンジョンっぽい異界もところどころ崩れたりしており崩れた先がどのくらい深いところまであるのかは見えず、生唾を飲み込むような場所が多い。


要所要所にある鳥居と灯篭、そして謎の犬の石像・・・・


しばらく道なりに歩くと水の流れる音が聞こえてきた。

だが、川の流れるような穏やかな音ではない。


「滝でもあるのかしら・・・・」


音だけでいえば滝だ。

音源へと歩くと水の流れる音は、反響も相まって激しく発した声が夜空へと伝わらないほどに強烈だった。


かなり、怖いが滝の落ちる方をみると暗いせいもあって底がないように感じる。

だが、実際すぐそこへと落ちてる感じでもないためあながち底なしの滝といっても過言ではない。


滝の周りをつたうような足場を通り抜け先へ進む。


「ああ、すっごい音でしたね」


「耳が今もキーンって言ってます・・・・」

「それに、あの滝って8階層とかにつながってるのですかね」


「普通だったらつながってますね」


「普通?」


「異界事態の構造っていろいろと説はありますけど、なんだかんだ不明じゃないですか?」

「位置関係もバラバラな場所もあれば上下階層供に位置が正確で行き来できる場所がたくさんあったり、そのまま10階層下まで続く穴もあったりと・・・・」

「たぶん、あの滝ってもっと下まで続いてるんだと思います」


「落ちてたたきつけられた音というより、ただ反響しまくった轟音だけが鳴り響いてる感じですからね」


「いつか下の階層へショートカットするとき使えるかもしれませんね」


「冗談ですよね・・・・?」


にっと笑う夜空。

なにか渡るすべでも知っているのか不明だが、あまりその時が来るのを想像したくない。


その後、いくつかの分かれ道を潜り抜け4体のオーガと3体のスケイル・ハウンドを屠り、大きな広間へ出る。


中央に8階層へと降りられそうな大きな階段を発見した。


苔むした石畳の階段は螺旋状に下へと続いており、湿った風が下から不気味に上がってくるのを感じる。


「行きますか」


「春人さん、やる気満々ですね」


少し驚くようにこちらを見る夜空。

だが、今日中にできたら10階層へと進んでみたいという欲求が、この先の冒険へと体を導く。


そして、春人はさらなる冒険を求めてこの先へと進むのだった。

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