第16話 -攻略の余韻-
大きく振りかざしたクレイモアは、まっすぐにデーモン・ハウンドへと振り下ろされた。
一瞬にかけた渾身の一撃は見事に背から腹を突き破るかのように当たり、目を開いたまま力なく倒れていった。
「はぁ、はぁ、はぁ」
止まらない呼吸の乱れ、剣を杖にする。
そして、極度の集中から解放されて寝転ぶ夜空。
「あぁあ、疲れた!」
「お疲れ様です」
傷を受けてしまった自分と違って何度も爪をかわして剣を交えている夜空は無傷でいた。だが、それ故なのか緊張がほどけてだらりと異界の天井を見つめながらぽつりとつぶやく。
「危なかったですね」
「そうですねぇ」
「ごめんなさい、私の力が及ばず危険なことになってしまって・・・・」
「一番厄介なデーモン・ハウンドを引き付けてくれた夜空さんが言うことじゃないですよ」
「私こそ力不足で足を引っ張りました」
もっと自分に力があったら、こんな傷をつけられず安心して背中を任せてもらえたのだろうな。
もっと自分が強かったら、スケイル・ウルフが夜空さんを狙う中、デーモン・ハウンドを相手に先頭へと立たせずに済んだんだろうな。
己の力不足にまた、後悔する。
「白縫さんは、全然力不足じゃなかったです」
「私一人でしたらもうボロボロだった自身がありますもん、それに探索を始めたての初心者が相手にするような魔物じゃないことは確かなのでもっと誇っていいのですよ?」
「・・・・はい」
落胆しているところを感じてフォローを入れてくれたのだろうか。
横になる夜空のそばで木に寄りかかって座る春人。
魔物の気配はなく、ただ柔らかな風が二人を包み込み草木が揺れる。
穏やかな異界の風景にいやされながら、ゆっくりと体を休めていたが静寂を打ち破る勢いで夜空。
「じゃない!」
いきなり何かを思い出したかのように立ち上がり、インベントリーバッグに手を突っ込んで何かを探している。
「あった!!」
手に取ったものは瓶だ。
中には不気味な青い液体がつまっている。
「白縫さん、傷見せてください」
「疲れをいやすんじゃなくて最初に受けた傷の手当が先ですよ!」
「もう、平気そうな顔をしているのでちょっと忘れちゃったじゃないですか!」
「あ、いや、すみません」
確かに夜空の言う通りだ。
怪我をしたのなら先に、それを消毒したり直したりするのが先決。
だが、スケイル・ウルフに斬られた傷は、防具の上から血が滲みずきずきと痛む程度で特に問題はないのだが・・・・
「それ、なんですか?」
「ふふふ、聞いて驚かないでくださいよ・・・・」
「中野異界特産、旭日隊印の回復ポーションです!」
「回復ポーション?!」
「ってそれ栄養剤じゃないんですか?」
「前に大宮のFMで傷に効くぜ? て勧められて買おうとしたら『あんちゃんよ、このご時世うちのような店にだってまがい物の品が出回るんだから口八丁手八丁にごまかされないでしっかりとした品を選べるようになった方がいいぜ?』なんていわれたばっかりなんですから」
「なかなかの店員さんね・・・・」
「こほん、ですが! 国家と薄汚く癒着してる組織をなめないでいただきたい!」
「実は、これとてつもなくまずくて飲んでも効果はないみたいなんですけどね」
「だめじゃないですか!」
「ただ、見ててくださいね」
「派手に転んで出血してたのを見たのでどんな致命傷を負わされてたのか心配でしたが案外浅い傷で安心しました」
キュポン!っという音をならして蓋を開け春人の腕を引く夜空。
とくとくとくっと傷口に薬液を注いでいく。
「ぬうぅ!! これめっちゃ染みます!」
「我慢してください!」
薬液を注いでしばらく経つと傷口が淡く青い色の光を帯び始め次第に患部が気持ちよくなるのを感じた。
「おぉおぉ! あの時の感触だ」
「あの時?」
「っていま、すごい顔してませんでした?」
「気のせいだと思います」
「前に回復魔法をかけてもらった時があってその時に、この感触と似たものを味わいました」
「回復魔法?!」
「そんなレアな魔法扱ってくれる人がいたのですか?!」
驚きで声を上げる夜空。
「あ、はい」
「いったいどんなチームでした?」
「駆け出しの5人組のチームでとてもいい人たちでしたよ」
「駆け出し・・・・」
「回復魔法を使ってもらったのは運がいいですね」
「魔法事態かなりレアな存在ですし、ひとたび知れ渡ってその価値を狙う人もいるくらいなので回復魔法を持っている人は慎重に扱う場面を選ぶ方が多いのですよ」
「やっぱり、そうなんですね」
「所かまわず連射してないといいけれど・・・・」
再び、休む春人と夜空。
しばらくして、デーモン・ハウンドとスケイル・ウルフの解体を行い、戦利品を獲てから武器を磨き歩き出す。
傷口は、問題ない。
しかし、旭日隊開発の回復ポーションってまだ世の中に出回ってないよな。
そんな大事なものを俺に使ってもよかったものなのか。
値段、聞かないでおこう。
夜空さんは、あとで請求するなんてケチな人じゃないけれど値段を聞いてしまったら震えてしまう自信がある。
傷を受けないぞという決心を改め草木の生い茂る異界を歩く春人だった。
道中、スケイル・ウルフの階位互換であるスケイル・ハウンドが4体出てきてあっけなく勝利する。
「最初にあんな化け物と出会ってしまうと・・・・」
「きっとスケイル・ハウンドにも苦戦したと思うのですがいろいろと努力をスキップした気分になりますね」
「うん、デーモン・ハウンドまで見たしスケイル・ハウンド相手じゃかなり油断でもしてないと負ける自信がないですね」
流れる川を横目に、マッピングを続けていく。
探索を開始してからそこそこ時間がたったが、次の階層へと降りる階段を発見した。
「降ります?」
「う~ん、もうちょっと調査を続けておきたいところだけど無理に今日全部見なくてもいいもんね」
「また、次来た時6階層をもう少し探索しましょ!」
「そうですね」
二人の方針は決まり7階層へと降りることになった。
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