第15話 -守りたいから前へ出る-

 このクレイモアを手にしてからいくつの修羅場を乗り越えてきたのかな。

今、目の前にいる敵。

デーモン・ハウンドは、新宿異界24層で出現を確認された魔物の一体なのは確かな話。

そして全国、至る所の20層階層以上でその姿を確認されている。


鈴木隊長と他の2番隊隊員達と一緒に新宿異界の攻略へと乗り出した時に複数のデーモン・ハウンドに出くわした。

やつの攻撃は速くてトリッキー、それでいて一撃が重い。


その攻撃に翻弄される隊員達は、次第に疲れを見せ動きを鈍らせていった。

そこにいた私も例外なく奴に翻弄され膠着状態が続き、危ない局面で増援が着て救われることになる。


結局、鈴木隊長と副隊長が後から到着して倒しちゃったんだっけ。



デーモン・ハウンドの体重の乗った突進攻撃と鋭い爪を生かした斬り裂きが間髪入れずに襲いかかってくる。

クレイモアを盾代わりにして受け流し避けるが・・・・


避けた先にはスケイル・ウルフがいた。


「しまっ」


攻撃を受ける覚悟をした瞬間、スケイル・ウルフが斬られるのが見えた。

白縫さんだ。


まだ、探索に出て間もなく進出した階層も4階層が最高だったなんて言っていたのに繰り出される攻撃に迷いはなく、まるで力が伴わないベテランの戦いを見ているようだった。


探索初心者は、解体作業を気持ち悪がって手を出さず、ずっと1~5階層付近で魔物を狩りながら趣味で探索をする。


そんなイメージがある。


武器を手に取り魔物を殺すのは可哀そうだからって魔物に牙を向けられて殺される探索員もいたくらいに最初は誰しもが手に取ることのなかった命を狩るための武器に戸惑う。


そして、迷いを捨てきれず数か月、あるいは年単位で時間をかけながら生殺与奪、弱肉強食の世界を受け入れてようやく10階層以上の探索に乗り出せる。


そんな道をたどる人が多いように思う。


けれど彼は違った。

彼の握る刀に迷いはない。今も格上の敵に対して自身のやれる最大のことを模索して戦っている。


1か月で、ここまで来れるものなのかな。


このまま成長していくんだとしたら白縫さんの先が怖いけど、私も敗けてはいられない。


スケイル・ウルフの攻撃が失敗したのを見たのかデーモン・ハウンドは、態勢を無理に変えて攻撃を繰り出そうとする。


しかし、その欲をかいた追撃は、クレイモアの一撃で遮られることとなった。


避けられた。


無理に攻めてきたあの体制から軽々と方向転換させバックステップする。


再び容赦のない攻撃をスケイル・ウルフと供に繰り出してくる。

探索して1か月のあのころの私だったら、こんな状況で誰かを見る余裕があってカバーをするなんてできないと思う。


デーモン・ハウンドの攻撃を受け止め攻勢に出て横薙ぎ払い、縦斬りと繰り出すが当たらない。

背にスケイル・ウルフが迫りくる感覚を感じ身構える。


攻撃が来るだろう瞬間に勢いよく噴き出る血飛沫が横目に写る。


まさか?!!


振り向き血飛沫の主を確かめるとスケイル・ウルフが綺麗に二つになっていた。


「一匹!!」


まさか、スケイルウルフを一太刀で倒すなんて・・・・

そんな驚きもつかの間に、周りにいた4匹のスケイル・ウルフに睨まれているのが自分じゃなくなったことを感じ取った。


次の瞬間、スケイル・ウルフの連携めいた一斉攻撃が白縫さんへと襲いかかり、デーモン・ハウンドの容赦のない一撃が私へとぶつけられた。


攻撃を受け止め地面をえぐりながら後退する。

隙ありと蹴りを腹部へと入れてデーモン・ハウンドを退けた。



しかし、振り返った先の光景は血を流して倒れる白縫がそこにいた。


「白縫さん!!!!」


自然と体が動き出したその時。


「来てはだめです!!」


「でも!」


そのあとに返ってきたのは4匹のスケイル・ウルフを自分がどうにかするという返答だった。

とてもではないけど、探索を初めて1か月の初心者に任せて良いようなことじゃない。


一匹、一匹が数多の探索員の壁として立ちはだかり厄介とされてきたような魔物。


しかし、迫りくるデーモン・ハウンドは、大きく旋回しステップを踏みながら攻撃を仕掛けてくる。

私が、悠長にすべてを相手にするなんてかっこいいことが言えない事実を目の前に祈ることしかできなかった。


「死なないで」


小さくつぶやき目の前のデーモン・ハウンドに的を絞る。

速さは、あっちのほうが上。


繰り出される攻撃を避けては受け止め、反撃に出ては避けられるといった攻防が続く。

そして、数が不利の中一転して光明が見えた出来事が起きる。


何がおきたのか、2匹目! 3匹目! 4匹目!と次々とスケイル・ウルフを屠って行った音だけがデーモン・ハウンドとの戦闘に集中している最中、響き渡った。


デーモン・ハウンドが最後の一匹になった時、大気を震わせるほどの遠吠えをした。


「耳が・・・・」


ほどなくして遠吠えを終えた瞬間、勢いよく踏み込まれ両前足を器用に使い攻撃を次々と仕掛けてくる。

敗けられない。


白縫さんが頑張って切り開いたこの1対1のチャンス、探索員の先輩としてかっこ悪いところは見せられない。


決着がつかないのはどうしてなのか、攻撃は当たっていないわけじゃない。

私の一撃を軽く受け流す、あの硬い爪と鱗状の皮膚が原因。

それに早い動きに対応するために攻撃に勢いが乗らず中途半端なんだ。


もっと頭を使って、先を見るんだ。


どうしても振るう時に動きが鈍くなってしまうのなら予測して敵を斬る。

いつも、そうして乗り越えてきたように今回もしっかりと敵を見て分析、そして予測。


また、これで失敗してチームメンバーがやられるところを見るのは、もう嫌だ。

最前線に立って、このクレイモアで剣になって盾にもなる。


私が立っている限り、誰もやらせたりなんてさせない。


「来る」


再びきたフェイントをかけるステップ。

いつくるかわからない攻撃。


けれど、ここまで撃ち合ってようやくわかった。


大きく剣を真上に振りかぶる。


失敗したら切られる。

けど、やってみなくちゃなにもできない!!


フェイントをかけながらくるデーモン・ウルフ。

右へ、左へと動き攻撃の的を絞らせない動き。


だけど・・・・

フェイントにはない、勢いをつける動作が如実に今から攻撃をすると教えてくれる!! 


ここだ。


「せぇい!!!!」


大きく地面を割るような音がさわやかな緑の風景が広がる異界に響き渡り、土煙が舞

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