第11話 -チーム戦闘-
今まで来客などなかったので粗茶なんてなくカルキを飛ばしたさわやかなお水を夜空に振る舞い家を出る。まさか、誰かを自宅に入れるなんてとても久しぶりだ。
そもそも友人を家に招待した記憶がまったくない。
一番色濃く残っているのは俺が中学生の時に漫画を貸すために家に呼んだことくらいだろう。
借りパクされたのは言うまでもないが、そのくらい昔の自分が生まれながらにしてのボッチの天才だった。
一人遊び、一人おにごっこ、一人・・・・
思い出すだけで心に言いえぬ何かが突き刺さったような感覚に陥るからもう思い出すのはやめよう。
そんなペアを組んでくださいという試練を一人二役で乗り切るボッチプロの俺も必ず一人でいるわけではなかった。
そばには弟がいたのだ。
白縫 和秋(しらぬい かずあき)4つ下の弟だ。アメリカへと旅行していたのだが、あの災厄に巻き込まれたのか、ぱたりと音信不通になり今も行方は知れないままだ。
生存してるって言うのは厳しいだろうな・・・・
遺体があるわけでもなく、遺言がわるわけでもない。ただ、忽然と姿を消されるというのはとてもつらい。
待てばいいのか、望みはあるのか。
少しの希望を抱こうものなら時間だけが無慈悲に過ぎていくだけなのを知っただけの記憶は胸が痛い。
───「さてと! 不思議な体験もしましたしそろそろ探索に行きましょう」
「もう体は大丈夫ですか?」
「泉尾さんがやったことですし私にも責任があります!」
「なので休んでいて報酬は後で」
「夜空さん、心配しなくても大丈夫ですよ」
「けがはないですしちょっと痛かったぐらいです」
「でもあの模擬戦で気を失うなんてよっぽど!」
「ちょっとのことですよ」
「ほら! 動かしても問題ない」
「それにそんな重症患者でもなんでもないですから全然平気ですって!」
何ともないということを証明するために刀を抜いて素振りをする。
「ほらね!」
すこし間をおいて考える夜空、そして思い立ったように横に置いていたクレイモアを取り腰に下げる。
「わかりました」
「それでは改めてよろしくです!!」
「こちらこそよろしくお願いします!」
「今日は危なかったら即退散しますからね?」
おう!っと頷き探索するか否かの話は終わり、荷物を取り近所に異界へと向かう。探索員カードを取り出しソーラー式のタッチパネルにかざす。
2回「ピコン!」という安っぽい音が鳴り響く。
そして二人、大木の異界へと入場する。
あの戦いは、いったいなんだったんだ。
整備の行き届いてない道を走る車の中は一層自分とその人間への苛立ちを増長させるのに十分だった。
「くそ!!」
「泉尾さん、いつになく苛立ってますね」
「直には見てなかったけどあの戦いを見たでしょう?」
「あの動きは初心者でもなんでもない、まるで野獣だ」
「あの泉尾さんをそこまで言わせるなんてやっぱり白縫さんはあたりだったか~」
「ん? 前原さんあの侍野郎を知ってたのですか?!」
「ん?、あ! ん~ちょっとご縁があってね」
「あああ!!!!」
「これ俺は一杯食わされたってやつかよ?!」
「まあまあ落ち着いてください」
「そんなつもりじゃないですよ」
「それにあの場で模擬戦とはいえあんな決闘始めるだなんて予想外でした」
「まあ、ナイスファイトでしたよ?」
「っち」
「食えない、元役員だ」
「ところで目をつけてるってことはそういうことでいいんだよな?」
「まあ、そんなところです」
「彼、最近大宮で上層ですが単独ボス撃破なんてことやってますし・・・」
「報告に上がった話だとプラスアルファで上位階種として現れたあの致死率がとんでもないレアな毒蜘蛛をそれも単独で倒したなんて話なのでねぇ」
「そりゃちょっとした有名人になってもおかしくはないっすね」
「潜りたてで主を倒すとか隊長ですらやらないっすよ」
「でもなんで噂にもなんもなってないんです?」
「それは簡単です」
「単純に現場の目撃者がいないんですよ」
「あるのは状況証拠とあの近くのFM(ファミリアマーケット)店の店長、報告をくれたチームのメンバーぐらいでしたし情報がこんなにも速く取れたのは全くの偶然でした」
「はぁ・・・」
「面倒なことにならなきゃいいっすけどね」
「まったくですよ」
「せめて奴らにこの情報を嗅ぎ取られていないことを祈るばかりです」
太ももより大きな剣が空を斬る。
そのたびに風が舞い上がり目の前のイタチも飛ばされる。
すかさず間に入り態勢を立て直す前に居合切り。
鞘より高速に放たれた刃は一瞬で目の前の生物を二つの肉に変えた。
「これで8匹目、潜り始めていきなりイタチと出くわしたときはびっくりしましたけど」
「夜空さんのクレイモアってすごい威力ですね・・・」
「そ、そうですか?」
「おかげで、このイタチの討伐がはかどりますよ」
「うぅ・・・・」
「小さくてこんなにも素早い敵を相手にすることがなかったので吹っ飛ばすことしかできないのが悔しいです・・・・」
どうやらこの異界へ初めて来たときにイタチの洗礼をうけたらしく夜空は若干トラウマらしい。
クレイモアで相手をするには武器が速さについてこれず、サブでナイフを取り出すもイタチの爪より間合いが短くてどうしても攻撃を食らってしまい、倒すたびに激痛を味わっていたようだった。
「あの痛みは本当に嫌です・・・・」
「めっちゃくちゃ痛いですからね」
「ナイフで刺されたところをぐりぐりされてるようなあの感じ・・・・」
「やめてください!」
「あはは、すみません」
「それでも食らって傷一つつかないのは唯一の救いですけどね」
確かに傷がついていたらすぐに失血してしまいそうな鋭い痛みだから自分も思い出したくはない。けれど、この痛みのおかげもありとても速い敵の動きをとらえて刀を当てるのが若干得意になってきたような気がする。
いやな思い出が大半だが、このイタチ風の魔物に感謝しないとな。
「そして今日もありがたく頂戴します」
そんな言葉と供にイタチの長い爪を剥ぎ取り順調に進んでいく探索。
大型イノシシが現れた時は先頭を行っていた自分が避けて夜空に突進が直撃してしまって焦ったがクレイモアを盾にイノシシを受け止めて薙ぎ払うその様は、まるで鬼のような怪力に見えたが身体能力の高さをうかがい知れることができた。
3層のクライミングゾーンを順調に進みいよいよ前に来ていた4階層へと足を踏み入れる。
ゆっくりと伸びをする夜空。
「相変わらず気持ちのいい風邪が吹いてますよね」
「ここまで気持ちがいいと本当に異界なのか疑っちゃいますよ」
「私は、まだ大宮とここしか知らないのですけど他もこんな場所はないんです?
「ん~」
手を組んでしばらく考える夜空。
「こんな場所はないけど似たようなところはいくつかありますよ」
「けど・・・」
「雰囲気というかそこに違和感があって、どこか異界っぽくないというかよくわからないんですよね」
「明るいからですかね?」
「それもあるかもしれないです」
「ほとんどは暗いですし見通しが効かない場所が多いので上層はこんな感じでも下層はもっとくらいかもしれないですね」
「ちょっと楽しみです」
「いったいどうなっているのか楽しみですよね!」
他愛ない会話をしながら草原を歩く。
不思議な形をした木がちらほらとあるのを見つけ、「あれは針葉樹かな?」「でも下のほうは葉がまるいですよ」となんの種類だろうかと話しながらごそごそっと木の陰から姿を現す奴がいた。
拳は鉱石のような硬い皮膚で覆われ黒い毛皮で身を包むゴリラのような猿だ。
「ぐうううううう」
犬のような、似ても似つかないようなそんな威嚇めいた鳴き声でこちらを観察する。
夜空と春人は武器に手をかけ戦闘態勢に移る。
「私が先行して仕留められそうならそのまま倒します」
「仕留めそこなったら隙を狙ってお願いしますね」
「了解です」
クレイモアを抜く夜空。
それを戦闘の合図だと思うように走り出す石の拳を持つ猿。
両者の刀身と拳がぶつかり合いはじかれるように飛ぶ猿は転がるように着地した。
「やっぱかたい!!」
そこへ颯爽と猿へと接近する春人。
「ぎぃいぃいい!!!」甲高い雄叫びが空気を振動させ近づくやつを牽制しようとする。
そんな叫び声をお構いなしに走り抜け刀を抜く。
姿勢を低くする猿。
毛皮の上からでもわかるくらいに筋肉が巻き付いた太い足をばねに勢いの乗った拳を繰り出すも拳を横目に避けた。
そして春人の抜き去った刀の刃は見事に猿の首を撫で斬りにする。
声を上げる暇もなく崩れ落ちる。
その骸を背に駆け抜けた勢いを押し殺して血の付いた刃を拭き取り鞘へと納めた。
「ふぅ・・・」
「良い切込みでしたね!」
「ありがとうございます」
人型の魔物を倒すというのはどうも複雑な心境だ。今朝の戦いもそうだが、どこか身が入らないでいるような気がする。
それはさておきせっかく刈り取れた石腕猿を解体する。腕の石のような皮膚を取り出して鞄へとしまう。
「私のバッグは、まだ空きがあるので預けてもらっても大丈夫ですよ?」
「ああ・・・」
「入れてもらうのは悪いので私のリュックがいっぱいになったらよろしくお願いします」
「わかりました!」
「そうそう、インベントリーバッグにいれたからって重さは変わらないので、そこの心配は大丈夫ですからね!」
「うすうすは感づいていましたけど本当に便利ですね」
「もう、家宝ですね!」
入れても重くないそんなネコ型ロボット顔負けの鞄が実在するんだから家宝にしたくなる気持ちもよくわかる。
解体も済み残った残骸を埋めてその場を後にする。
その後石腕猿を4匹ほど道中で相手にしリュックがいっぱいになってしまったので早々に夜空へと荷物をお願いすることとなった。
草原が終わり草木がまばらに生えたところへと出てしばらく歩くと人工的な石畳のある場所へとたどり着いた。
「ここは・・・」
「なにかの遺跡の後みたいな感じですよね!!」
走って周りを確認する夜空。
なんだかとても楽しそうだ。
「夜空さんってこういうところが好きなのですか?」
「えへへ」
「実は結構、廃墟とか遺跡見たりするの好きなんですよ」
「廃墟・・・ですか?」
「そうです!」
「あの衰退した感じがなんか心に来ますね!!」
「昔から神社とかお寺とか、ピラミッドもそうですし古くなった建物をみてドキドキするような感じはあったのですけど、探索員になってこういうよくわからない遺跡に足を踏み入れてみて実感しました」
「これはきっとフェチなのです」
なんだかとても盛り上がっているがよくわからない。
「なるほど・・・です」
夜空さんの意外な一面をみれて少し戸惑ったが、なんだったっけかこういうの。
ああ、胸になにかつっかかるようなこの感じは、こういうのをなんていうんだったっけ古い感じが好きな。
「枯れ専だ!」
「へ?」
「あ、いやちょっと思い出した話です」
そうだ、枯れ専だ! なんかそういうの聞いたことがある。
意味を間違えながら考える春人をよそに周りを探索する夜空。
「白縫さん! こっちに不思議なのがありますよ!!」
こっちこっちと手で合図をする女の子を見るのはとても微笑ましいが不思議なものが一体どんなものなのかとても気になる。
それにこの異界は、よくわからない空間が多いので何かしらの文明がそこにあったんじゃないかと妄想が膨らむ。
その場所へと行ってみるとあったのは石畳の中央に人の形をしたような丸いレリーフのようなものがあった。
「これって」
「遺跡ですよ!」
胸を高鳴らせてる夜空をよそに目の前にある不思議な丸いレリーフにある人を見て少し首を傾げた。
「これ人の形をしてますけど人というにはちょっと耳が長いですよね」
「エルフでしょうか?」
「あの童話とかゲームでよく出てくる妖精ですか?」
「妖精というより種族みたいな位置づけがありますけど、これどう見てもエルフな感じがします」
「もしかして異界にはエルフとかがいたりするのですかね・・・」
「ん~・・・」
「探索してたらひょっこり会えたりするかもしれませんね!」
「そしたら初めて人類以外の知的生命体に会えたことになりますね」
「異界ってロマンが満載です」
周りにはとくに何もなく木々が生い茂っており異界の壁が目の前にあるだけだった。
「それじゃ5階層へ降りられる場所を見つけに行きましょうか」
「あの・・・」
少しもぞもぞしながら話す夜空。
「どうしました?」
「もうちょっとここらへん見てもいいですか?」
ほほを若干赤らめて人差し指と人差し指でつんつんしながら頼み事をする様はなんだかずるいと思いながら「じゃあ少しだけここを見て回りましょうか」と返事をすると夜空は「やった!」と子供のようにはしゃいでいた。
今日はなんだか驚きの連続だなと走ってまだ見ぬ場所を見つけに行こうとする夜空を見送り、自分も石畳と少し不思議な植物たちが入り乱れる遺跡を探索する。
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