第12話 -第4階層攻略戦-
結局のところレリーフの周りに複数の太い柱が地面から伸びているのを見つけた程度でそれ以外は特になかった。
「もうちょっと見ていたかったところですが、異界の調査も仕事ですし我慢ですね・・・」
「遺跡本当に好きなんですね」
「どんな遺跡がお気に入りなのですか?」
「どんな・・・?」
物思いにふける夜空は、明るい空ではなく異界の高い天井を見つめてしばらく歩く。
「遺跡とかの雰囲気は好きなのですがそこがどういった場所でどんな歴史があってとか聞かれますとあんまりお話はできないのですが、地上だと明治神宮とか、日光の東照宮なんかは結構好きですよ」
「ですけど、どこも手入れが行き届いてて古びた感じが薄いのが難点でしたねぇ」
「新しいほうが見栄えが良くて綺麗でいいんじゃないです?」
「一般的にはそうなんだと思います」
「ですけど、そことは違う古めかしい中の落ち着いた感じがとても好きなんです」
「さっき見たところなんてもうずっと手入れなんてされてなくてありのままに放置されたような空間だったじゃないですか!」
「ああ言う感じがストライクです!!」
「胸が高鳴りますね! わくわくします」
つまり新品のブランド物よりアンティークのものがいいみたいな感じなのだろうか。夜空の感性はあまりよくわからないが、今の感じを見る限り本当に好きなのだろう。
そんな他愛ない話を続けとうとうマッピングされていないエリアに到達した。
「結局残った場所がここなので5階層へ降りる場所はここら辺ですよね」
「そうですね・・・」
「さっきまであった木々は少なくなって見晴らしがよくなってますけどそれらしい場所がないですね」
見渡す限りの草原、そして異界の硬い壁、下の階層へ降りられるだろうそれらしい石畳や階段はなくただただ、草原が広がっている。
いったいどこから削り出されたのか不明な大岩がちらほらと転がっているくらいで特になにもない。
「魔物もいませんね」
「今日はやけに遭遇率が低い気がしますが不気味ですね・・・」
いつもこういうタイミングで毒蜘蛛やランサアラネア、大猿とかに襲われているような気がするから、またこの前みたいに強い何が現れても困る。
周りを一通り探索し元来た道を戻る。
「ああ!」
思い出すように夜空。
「どうしました?!」
びくっと振り返る春人。
「白縫さん! ずっと避けてましたがあの中央の台地まだ見てませんよね?」
「ああ! あの小高い丘の?」
「そうです!」
「確かに・・・この前来たばかりだったので少し気になってました」
「もしかしたらそこに5階層に降りれる場所あるかもしれないですけど・・・」
少し歯切れの悪い夜空。だがその理由は近づいてみるとよくわかる。
小高い丘へと行くには草原の背丈が少したかくなっており足元が悪く視界も悪くなる。
つまり、近くにあの石拳ゴリラがいてもおかしくないのだ。
「ちょっと背伸びすれば先まで見えますけど」
「あ! よくみるとここら辺ちらほらいますね、あのゴリラさん」
「本当ですね」
さっきまでひたすら歩いていてもあの石拳ゴリラと全く鉢合わせなかったが、ちょうど草原がゆらゆら揺れているところにやつがいるのがなんとなくわかる。
ここら辺が住処なのだろうか。
けれどここを通るとなると・・・
「これ、結構厄介じゃないですか?」
「そうですね・・・」
「ぐるっと回りを見てましたど安全に通れそうなところはなさそうでしたし危険ですが戦いながら進むしかなさそうです」
二人進んで行くにしても見失わないようにお互いの距離をつめて移動することになる。
そして戦闘になった場合夜空のクレイモアの間合いを考えるとどう考えても自分が邪魔になってしまう。
どうしたら安全にお互いを見失わず通れて戦闘をスムーズにできるか。これが今回、探索を進めるうえでキーポイントになるだろう。
「夜空さん」
「どうしました?」
「少し腕が疲れるかもしれませんが考えがあります」
草をかき分けて進んで行く。背の高い深い草原へと足を踏み入れたが、地面はところどころ柔らかく踏ん張りが効かないことがある。
「これは、少し厄介だな」
飛び跳ねたとしても奥まで見通すのは難しいだろう。
目印はここからでもよく見える小高い丘だけだ。
石拳ゴリラの身長は高くはなく紛れていたとしてもおかしくはない。
唐突に表れてやつの右ストレートでも食らおうものなら最悪骨折、当たり所が悪ければ動けなくなるだろう。
カサカサと背の高い草原が揺れる周りの音を聞き分けながら静かに進んで行く。
体感で行くと合図はここらへんだろう。
刀を抜き空へとまっすぐ伸ばした。
直後、背後からガサガサと草原へと入ったと思われる音がする。
夜空だ。
先に小回りと防御のとりやすい刀を持つ俺が先行して石拳ゴリラがいないか確認しながら刀を上げる、それを目印に夜空が後方からついてきて一定の距離まで到達したら夜空がクレイモアを上げて前方へ進むという作戦だ。
この移動方法ならいざというときに石拳ゴリラと遭遇したとしても逃げたり攻撃を加えたりがスムーズにできて視界が悪くても夜空のクレイモアが俺にヒットすることはないだろう。
距離としては丘まで大体200m。
道中3匹ほどの石拳ゴリラを確認したから運が悪ければ3匹とやりあう算段だ。
順調に歩みを進めて3回目の刀を上げるところまできたところ周りの音が変わった。
ドン、ドン、ドン、ドン。
重くずっしりとした足音が素早くこちらへと向かってくる。
お互いの存在を気づいているのはどうやらこちらだけのようだ。
近づく足音とむしゃむしゃと何かをほおばる音が聞こえる。
そうか、やけにここら辺に石拳ゴリラが多いのは、この草を主食にしているんだ。
高い草が引き抜かれむしゃむしゃと食べる音がする。
次の瞬間草が揺れ石拳ゴリラと目が合った。
「ぐおおおおお!!!」
「ばれた!!」
声を上げ、夜空に知らせる。
繰り出される勢いの乗った拳。
それを横に流して避ける春人。
刀と石の拳が火花を散らす。
「重い」
間合いを取る。
後方へ足を取られないよう後ずさるが先方はお構いなしに突っ込んでくる。
「っく」
思うように足を運べず移動に制限がかかる。
戦う場所がここ以外の草原地帯だったらこんなには手間取らなかっただろうに。
ストレートで繰り出される拳を寸でのところで避けていく。そして、強い一撃を刀で受け止めてはじいた。
後方を見ると銀色に輝くクレイモアが輝いているのが見える。
「いいところにいる」
はじいた勢いを利用してバックステップで後退。
バトンを渡すように夜空のいるほうへと下がり目が合う。
あとはよろしく!っと伝わるかどうかわからないグッドサインを手で作る。
「せい!!!」
伝わったのか勢いよく飛び出した夜空は前傾姿勢でこちらへとくるゴリラに一撃、クレイモアを上からたたきつける。
「ごぁあああ」
倒れ、ぴくぴくと痙攣するようにその場で静かに動かなくなった。
「ナイスカバーです」
なるべく静かに会話をする。
「白縫さん! 怪我はないですか?」
「全部防ぎきったので問題ないです」
「よかった」
「って! びっくりしましたよ!」
「まさか、いきなりこっちに来るなんて思いませんでした」
「いやぁ、ちょうどいい位置に夜空さんがいて、勢い余ってはじかれてしまったのでできるかなと賭けてみたのですが、さすが夜空さんです」
「へへぇ、びっくりしましたけどこれくらい朝飯前ですよ!」
照れながら髪をいじり目を逸らす夜空。なんだが、働いていた時の落ち着いた印象とは逆に天真爛漫な性格だったんだなと改めて感じる。
あれから変わったのか、もともとこんな感じなのかぴんとはこないがわざわざ聞くまでもないだろう。
「それじゃ、また先行しますので周囲の警戒お願いします」
「了解です!」
ささっと前にでて進む。
その後順調に進んでは合図をして止まり二人の武器を上にあげてお互いの位置を確認する。
横から現れたやつを夜空が対処し、前方に現れたやつを俺が倒す。
そして小高い丘の手前までたどりつく。
「ここでもクライミングか・・・」
ぼやいてもしょうがないので壁をよじ登り丘のふもとへと上がる。
つづいて夜空も上がってきて手を貸す。
「ありがとうです!」
「いえいえ」
鬱蒼としてた背の高い草から解放され深呼吸をする。
相変わらず気持ちの良い空気だ。
伸びをして介抱された空気を夜空も堪能しているようだ。
「んー!! ちょうど時間もお昼ですし、ここらへんで休憩にしませんか?」
「そうしましょう!」
天井から降り注ぐ謎の光を浴びて朗らかなひと時を過ごす。
どこからかふく気持ちの良い風が草原を揺らし二人は絶好のピクニック日和とも呼べる異界の環境の中でゆっくりと体を休める。
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