第8話 -春人の休日-

 久しぶりのお店味噌ラーメンを食べ終わり満足して店を出る春人と夜空。


「ラーメンおいしかったですね」

「ごちそうさまでした!」


「また食べに行きましょうね」

「その時は細麺試してみます!」


また食べに行こうという頷きをして駅へと向かう道中。


「そういえば、頼み事というのは何ですか?」


「しばらくあの異界の調査に出るので良ければチームを組んでいきましょう!っていう頼み事です」

「嫌でしたら断っていただいても大丈夫ですよ?」


「いや! ぜひ探索しましょう!!」


その即答にびっくりする夜空はポカンとした顔をしていた。


「あれ、てっきり一人で探索してたので一人趣味なのかなって思ってました」


「いやいや、一人で探索していたのは仕方なくというか、これには浅くも深い訳があるのですよ・・・」


少し引き気味の夜空。

「あの・・・ 神妙な顔つきでそのセリフは、大体予想がつきます」


「わかりますか?」


「人・・・集まらなかったのですね」


「あたりです!」


潔く皆中した理由に正解の印を押す。

鼻で笑われたが少し前での自分ならボッチ心にちょっとしたひびが入っていたかもしれないが晴れやかだ。


「そ、それでは早くても明後日からチームを組んで探索ということでいいですね?」


「はい!」

「明後日ですか?」


「あ、明後日は都合が悪いです?」


「いえ、明日にでも探索しに行ってもいいかなと思いまして」


「そうですねぇ・・・」

「白縫さんは一度家へ帰って自身の体と相談してみてください」

「あれだけ大猿の重い攻撃を食らっていたのですから今はなんともないような感じでも後々ひどいことになりますよ?」


「くぅ・・・」


言われてみればそうだ。昨日の戦いに続いて今日の大猿との戦いはそこそこ疲れた。明日くらいは休んでも問題ないだろう。


今日手に入れた素材も売ればいくらかにはなるだろうからお金についての心配はあまりしなくてよさそうだ。


「わかりました」

「明日はお休みして明後日探索にでます!」


「夢中になるのはわかりますが体を休めるのも大事ですからね」

「それじゃ連絡先の交換しましょう!」


「了解です」


iFunに入っている異界探索員専用アプリを起動しお互いのIDを登録する。

自分のアプリの連絡先に6人目の連絡先が入り徐々に探索員らしくなってきたとテンションが上がる。


「登録完了です」

「また明日あたりに明後日どうするか連絡しますね」

「大丈夫そうだからって一人で入らないでくださいよ?」


「あはは、善処します」


「善処は却下します!」


「はい、明日はお休みします」


「それが一番ですよ」

「そろそろ電車が来そうなので行きますね」

「また明後日よろしくお願いします!」


「それじゃまた明後日です」


強引に明日はお休みとなった春人、駅へと到着して夜空を見送り駐車場へと向かった。コインパーキングの時間が加算される前に清算をすませ車へと乗り込み帰宅する。



 お休みの朝、日ごろニートのように自堕落に生きてしまったせいもあり朝が嫌いにならずすっきりと起きれる毎日を過ごしている。


今日も電気代をぷくぷくと太らせる冷蔵庫から食材を取り出し適当に朝食を済ませた。


パソコンを起動し探索員の最近のトレンドをチェックするのがお休みの日と決めた朝の日課だ。


・北海道札幌市 札幌異界探索の中規模チーム 14名 行方不明 。

・初心者の勧め:大剣 槍が人気。装備、丈夫で体のラインが目立つものがトレンド。

・異界特産やせるキノコ:体質によっては1週間以上の強い下痢症状発生、注意喚起。

・国連、南極大異界の調査計画発足。

・異界探索者による犯罪あとを絶たず、異界は無法地帯。

・大阪市中央区にて旭日隊と犯罪組織が衝突。死者12名、逮捕者34名


いろいろなニュースが飛び込んでくるため一杯500円と喫茶店並みになった高級インスタントコーヒーをたのしみながら記事を読んでいく。


最近は探索員は危ない。犯罪を犯す輩だというような記事が増えてきたような気がする。

平和だった日本は、物資不足と異界の出現により大きく変わってしまったのだとニュースサイトを見て思い知らされるが悪い面が多いものの良い面も見れる。


ついこの前なんかは異界から採れたハーブから血糖値を下げる新しい成分を見つけたとか、ダイヤモンドより硬い素材が発見されたなどなど異界独特の新物質によるものが多い。


ニュース記事を読み終えた春人は、刀を取り出し庭へと出る。

今日は晴天だ。


夜空と今日は異界探索をしないという約束をしてしまったため渋々家にいるのだが、体の調子は特に問題なく3回死にかけた人間とは思えないくらいにぴんぴんしている。


これも異界を探索する者のなせる技なのだろうかと自分自身の体ではあるが少し気持ち悪い。


刀を腰に下げ構える。


集中をして一閃。居合斬りをして空を斬る。

あの時、頭の中にふと湧き出てきた技の天雷一閃という技はあれっきり撃てていない。


放った瞬間の雷のような轟音と刀の軌跡に空気が吸い込まれるような感覚、そして刀を握る腕の痛み。


工夫はしているものの当時は、必死だったせいか天雷一閃という技を再現できないでいる。


「必死さがたりないのだろうか・・・」


独り言を漏らしながら刀をおさめては居合斬りをする練習をひたすらにした。


 するとタッタッタという足音が聞こえてくる。

周囲に何かがいる気配がある。


足音の方向をみるが何もない。


まさか、魔物だろうか。


地上へと魔物が出るというケースは珍しいがない訳ではない。

ましてや周りが田んぼと緑であふれた田舎のような場所では、魔物やら狸やらが出てもおかしくはない。


足音は早まる。そしてばさ!っと音の主は跳躍し姿を現した。


「ワン!」


白い柴犬だ。

よーしよしよしよしと出迎える。


「くうん」


「もう7日も家を空けていたじゃないか! どこへいっていたんだ?」


「っへっへっへっへっへ!」


「気まぐれなやつめぇ」


もふもふな冬毛に手を沈めわしゃわしゃとなで回す。

少し汚れてはいるが久しぶりの再会にスキンシップをとるのはとても大事だ。


この白い柴犬がしゃべる幻覚を見てから度々、家に遊びに来ては飯を恵み。どこかへと消え、そして家に遊びに来ては飯を恵み、消えてを繰り返している。


自分は犬じゃないなどと言う柴犬から一転して、見てはいやされるようなもふもふな毛並みを盾にごはんのカツアゲを行う柴犬となっていた。


いっそのこと保健所に連れ去られる前に飼ってしまおうか。


注射をうってるかどうかも微妙なので噛まれでもしたら狂犬病になって死ぬかもしれないというリスクがこのスキンシップにはあるが、もふもふの誘惑には抗えない。


「決めた! お前をうちに置くぞぉお!」


「っへっへっへっへっへっへ!!」

「くぅうん?」


わしゃわしゃする手が止まらない。


10分ほど我を忘れてわしゃわしゃした褒美に冷凍庫にあったくも・・・いや、ズワイガニの身を白柴へと温めて献上する。


いや、まてよ。


白柴の鼻先にズワイガニの身を近づけて気づく。犬にむやみやたらに得体のしれないくも基、ズワイガニをあげていいものなのだろうか。


人は、雑食だ。自然界の動物たちが食べれないものまでなんでも食してしまうほどに雑食であることは知っている。


例えばチョコレートやトウガラシなんていい例だろう。人が食べれるからと言って他の動物が食べれるなんて保証はない。


鼻先まで近づけたズワイガニを物欲しそうに見つめる白柴には酷だが、ここはあえてごはんに切り替えよう。


もちゃもちゃとゆっくり白飯を食べる白柴。

心なしか幸せそうに見えるその姿はとても和む。


ここ最近触れ合った哺乳類と言えば目つきがいってしまってるイタチと荒れ狂うイノシシと猿だったためにこういう平和な生き物がいるというのは本当に和む。


「魔物にもこういうのいないかなぁ」


かわいいペガサスとかいたらいいななんて妄想を膨らませるがペガサスやグリフォンといった幻獣は似ているものがいたという報告はあってもどれもこれぞ魔物であるといった見た目をしているため飼おうとは思えない。


白柴がもちゃもちゃとご飯を食べ終わり、玄関の戸を開けた。


ずうずうしいがとても足さばきが器用なのだ。感心して見入っていると玄関のカーペットを寝床にすやすやと寝入ってしまった。


本当に図々しい。だがしかし、それがかわいいのだ。

動物というのはこういうところが許されるなにか特別な権利を持っているにちがいないと考えざる負えない。


「そういえば」


ふと思い出し物置小屋へと行く。

がさがさと盗賊のように探し5分ほどして見つけた。


首輪だ。犬用かどうかはよくわからないが、古風な首輪を見つけた。放浪癖のある白柴を飼うならまずは保健所に連れてかれてもいいように連絡先と名前を書かなくてはならない。


その名前と連絡先を記したものをつける場所が必要だ。


この首輪ならばその役目にぴったりだろう。


寝ている白柴の元へと戻り首輪を取り付けたぐっすりと野生を忘れたように眠っているため取り付けには苦労しなかったが起きたら暴れるだろうか。


名前は思いつかないので後で決めるとして、連絡先を書いた紙を首輪に取り付ける。


よし、あとは病院行って注射打って正式に迷子犬から飼い犬にランクアップだ。


しかし、5年も迷い犬でいるため結構な歳になるだろうがあれから老いというのはあまり感じない不思議な犬である。


犬の処理もおわったので、刀を取り出し鍛錬の続きをした。


神社に合った古い書物にはしっかりと天雷一閃の文字がある。居合切りの究極形態であり、間合いにあるすべてのものを一刀両断する奥義だと。


そんなすごい技がここぞというときに自在に撃てるようにでもなれば探索する領域も広がるだろうし、これからの魔物との戦闘でも優位に進めることができるに違いない。


それに、10ある項目のうち4項目の部分が読めるようになっていた。


極光之構(きょっこうのかまえ)だ。


それ以降の部分には、体内の気流を力に変えて一時的に身体能力を大きく底上げすると書いてあるが、気流とはいったいなんなのかまったくもってよくわからなかった。


気流とは漢方とかにある気血水の考え方みたいなものなのだろうか。


つまり体内の力をエネルギーに変換するような感じで構えろってことなのだろう。


しゃべった白柴は、困ったらこの本を読めみたいなことを言っていたが読んでも意味が分からないではいまいち必要性を感じない。


だが、必死になったあの時にふと湧き出てきた言葉はこの天雷一閃という技の名前だった。

もしかしたら、この古い書物は刀の取扱説明書のような書物なのだろうか。


謎まみれでだれか解説してほしい。


とりあえずよくわからないが有名な漫画の髪を逆立てるような気力を放つ感じで練習すればできるようになるかもしれないので、そんなイメージで練習することにした。


「ピコ!」


 ポケットに入れていたiFunが鳴り出す。夜空からメッセージだ。



紗雪:こんにちは!

紗雪:体調はどうですか?


春人:とくに異常なくぴんぴんしてるので優雅な休日を過ごしてます(/・ω・)/


紗雪:それならよかったです!

紗雪:予定通り明日は探索できそうですね。

紗雪:朝7時くらいに到着するようにしますので白縫さんの家に集合でいいですか?


春人:そんなに早く来なくても大丈夫だと思いますが了解です( `ー´)ノ

春人:明日はいっぱい稼ぎましょう(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾


紗雪:はい!

紗雪:白縫さんって顔文字結構使われるのですね?(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾


春人:今までチャットする相手がいなくて使う機会なかったので今いっぱい使ってます(^^♪


紗雪:あ


春人:察するような あ はやめてください心に来ます( ;∀;)


紗雪:すみません誤爆です!気にしないでください(;'∀')

紗雪:それでは明日朝7時によろしくおねがいしますね<(_ _)>


春人:こちらこそよろしくお願いします_(_^_)_



なんだろう、この角が生えた土下座。

顔文字って不思議と使いたくなるけど話す相手がいないと使えないから満足だ。


さてと、明日までには天雷一閃と極光之構ができるように頑張るぞ!





 報告書

埼玉県日之崎市異界。


 1~4層を探索、イタチやイノシシ、猿といった哺乳類型の魔物が主で討伐を開始。途中主クラスの中型に匹敵する魔物に出くわすも居合わせた探索員とともに討伐を終えた。

上層から出現する魔物の種類は他と近似する種はいてもどれも新種で新しく出現した異界の中では明らかに異常であり、初級探索家が戦闘を行うには難易度が高い異界だと考えられる。

引き続き調査を続行する。


二番隊隊員 夜空 紗雪


「期待の探索員からの報告書か」

「どれどれ・・・」


「例の刀を持った男の住宅の近くにできるとは、確か最近探索員になり始めたそうじゃないか」

「まさか、そこに異界が出現するとは運がいいのか悪いのだか」

「ええっとたしか名前は・・・」


「白縫春人ですよ」


「おお、そうだった確か彼の担当をしたのは前原さんだったね」


「ええ、当時は心身共に疲れ果てていて立ち直るには時間がかかるだろうと思っておりましたがようやくですね」

「もしもその刀が十二武器の一つであるとするならば・・・」

「彼をこちらの味方につけることができれば大きな戦力になるかと思われます」


「だが、5年前の分析では当てはまらないと出たではないか」

「それぞれが特異的な特徴を持っているにもかかわらず切れ味のいいただの刀であったのは再分析しても変わらないだろう」

「明らかに月嶋総隊長と斎藤副隊長の持っているそれらとは違う」


「ただ、力があるかもしれないという不確定要素があるのは事実です」

「12武器の存在は現在噂程度で機密事項ではありますが実在することはしっかりとした事実ですから」


「個人が兵器を超える時代とはなんとも恐れ多い話だなぁ」

「12武器の所有数で世界地図がひっくり返らないことを祈ろう」

「だがもし、12武器の一つだなんて半異界派の連中に知れ渡ったら・・・」


「絶対にこの機密事項だけは守りましょう」


「ああ、そうだな」

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