第6話 -大岩をカリカリ-

 「岩をどうしようか・・・」


異界の入り口や出口、階層の上り下りをするそういった場所というのは大きかったり小さかったりと一貫性がなく多種多様である。


直径、6mはあろうか・・・


「どうしたのです?」


呑気な言葉を投げかける夜空。

ここへきて初日の夜空に広い4階層を把握するのは難しい。


「ああ、大ざるが投げた岩で3階層に戻る道がふさがってしまったのですね」

「ですが他にも・・・!」


気づいたようだ。

3階層へ戻る通路は一本しかない、ほかにもこの広大な4階層を隅々まで探せばひょっとしたらほかにもあるかもしれないが、マッピングした限り、このふさがれた道をどうにかするしかない。


「3階層へ戻るにはこの道をどうにかしないといけないのですよ」

「これがそのマッピングした地図です」


リュックからメモ帳を取り出し夜空へと見せる。


「私のマッピングした地図と照らし合わせても他に出口はなさそうね・・・」

「う~ん! 爆薬は、この前使って入庫されてなかったから切らしちゃってるしナイフでカリカリして岩を削るっていう手は日が暮れそうです・・・」


「ナイフでカリカリは名案ですね!」


「きっと手元が疲労でぼろ雑巾みたくなっちゃいますよ!!」


「明日は、休もうかと迷ってましたしちょうどいいかもしれないですね」

「ゆっくり寝れますよ!」


「・・・」


あまり乗り気じゃない夜空だが少し考えるような動作をしてナイフを取り出した。


「ここで干からびるか地上に出てゆっくり休むか・・・ですよね」

「やりますかぁ」


春人も先日買ったナイフを取り出し、カリカリと岩を削って通り道を作る作業を始める。

ナイフが痛むのを覚悟でカリカリと削るが、なかなか岩はすんなりと削れてはくれない。強めに削ると反動で腕にしびれが走り、ゆっくり削るとまったく進まない。


そんな単調な作業を黙々とやるにはあまりにも酷なので二人は、5年前に連絡を取れなくなってからの出来事をしゃべりあうのだった。


「夜空さんは、どうして探索員になったのです?」


「あはは、そんな大した理由なんてありませんよ?」


「私も大した理由があってやってるわけじゃないのですが、どうしてなのかなと思いまして」


探索員になってからというもの魔界探索員は、魔物を狩ったり異界の調査をしてお金持ちになれるやら、町の英雄だとか、日本の守護者みたいにもてはやされてはいるが現実は過酷な探索活動と危険な命のやり取りが日常茶飯事な職業だ。


大抵の人は途中で投げ出したり、1~10階層で緩く副業として働いたり、非現実的な刺激を楽しんだりという人が多い。


その上だ。彼女は旭日隊に入隊してるときたものだ。


魔界探索員の中ではエリートといっても良い存在の旭日隊。

数々の異界を最前線で探索を進めありとあらゆる魔物を倒し、異界探索の礎を築いた。


入隊するのも並大抵の力ではなれずいくつかの試験をパスしたり実績がなければ入れないような組織だ。


「う~ん、成り行きみたいなもです。」

「あのあと職もなくてどうしようかなって家で考えてたのですが就くなら誰かを助けられるような人になりたいって思ってたからっていうのが大きいですかね・・・」

「それに私って中途半端な運動神経以外とくに取り柄がなかったですし、何をやっても好きになれないというか夢中になれないみたいなことが多かったのですよ」

「そして家でどうしようか悩んでたりしてたら友達に誘われて異界に出て探索して、なんだか楽しくて探索員になりましたって感じです」


「そうだったのですね」

「その友達とは今も一緒に異界へもぐってるのですか?」


「はい、よく一緒にチームを組んでますよ」

「細剣使いでとても素早い剣技の持ち主で技としてはかなりのものを持ってる人なので白縫さんもよかったらチームを組んで一緒に探索にいきましょ!」


「その時はよろしくですね」


夜空のは、チームを組んで週にどのくらい活動というようなものではなく、交友関係から目的を決めてその目的を達成するためにチームを組むといった即席な感じなのだろうか。


だとするならば気まぐれに日々を過ごす人間にとってはとてもありがたい話だ。


そして、まったく関係ないが先ほどから目が行ってしまいたびたび集中力を欠いているのだが、一つとても気になる所がある。


それは夜空の腰に下げているものだ。


銀色の刀身に西洋風のシンプルな柄と革でできた鞘。


最初に女性が持つにはとても重いと思われるだろう長剣を選んだのはなぜなのかと。


自分がなぜ刀を使っているのかは、ただ単純に家にあってお金がなかったという理由からだが・・・


「白縫さんこそ、どうして魔界探索員になられたのです?」

「失礼ですが、見たところ最近のような感じがするのですが・・・」


「ああ、最近なったばかりっていうのはわります?」


「装備が刀とリュック、ナイフ以外はFM社製の甲殻革鎧ですので初心者には安価で耐久性もある装備として重宝されやすかったのでひょっとしたらと思いまして」


さすが、ベテラン様は見るところが違う。お目が高いというやつだ。


「すごい、お恥ずかしながら大体あってます」

「ちなみに装備ついでに夜空さんの腰に下げてる武器っていったい何ですか?」


「ん?、ああ! 派手だし威力があるからよく売ってるところ見るかもしれないけどクレイモアっていうスコットランドの刀剣で私用に少し小さめに作ってあるの」

「ちょっと重いけどなれれば威力は大きいしいざというときには盾代わりにもなるから便利ですよ!」


クレイモア・・・ 残念ながらゲームなんかで登場する地雷しか頭の中に出てこなかったが振り回した時の威力は申し分なさそうだ。

これでアラネアと戦ったりしたらきっとぐっちゃぐちゃのグロ絵が出来上がること間違いなしだろう。


しかし・・・


「オーダーメイドですか!?」


「知り合いの見習い鍛冶職人の子がいてその子に安価で頼めましたので高級品っていうわけではありませんよ?」


「高級品じゃないとしてもオーダーメイドの響きはなんだかロマンがあっていいです!」

「私もいつかはオーダーメイド装備を身に着けたいものです」


「20階層まで安定して探索できるようになりましたらそうなると思いますよ」


「20階層・・・」


5階層ですら安定的に探索できてないのに20階層ときたら・・・いったいどんなとんでも魔物と戦ったり異界の環境に晒されることとなるのかあまり想像したくない。


だが、その先で自分の技がどう光るのか、見える景色はどんなに美しいのか、これらを想像すると胸が高鳴る。


「夜空さんは、どのくらいを探索階層にしているのですか?」


「ん~、最高階層は東京の渋谷ハチ公前異界の34階層に遠征に行ったり普段、ほかの階層は17~18階層をメインに稼いでますよ」


「なんかいろいろと桁が違いました」


「あはは、2年も探索してたらこれくらい余裕ですよ!」

「でも桁が違うと言ってますけど白縫さんもかなり規格外なところありますよ?」


「へ?」


「普通、1~5階層を探索している初心者の方なら、あのような主クラスの魔物をみたらまず逃げるのがセオリーです」

「主は定期的に表れる種類が多いので逃げたらその都度組合に報告したりしますが何の迷いもなく立ち向かうのは少し無謀ですよ・・・」

「ああ、そんなしおれたような顔をしないでください!」


「あ、はい」


「白縫さんってなんだかわかりやすいですよね・・・」


「いやぁ、最近人と接する機会が増えて若干舞い上がってるというのもあると思います」


「あはは・・・」


苦笑いをする夜空、知らぬ間に顔芸をしてしまっていたとは無意識というのはとても恐ろしい。ひょんなところで恥をかかないように練習しなくては・・・


「ちなみに白縫さんは、あの大猿がどの程度の階層の魔物の力に匹敵するか検討つきます?」


「ん~、昨日倒したランサアラネアより強かったですし・・・」


主の強さは現在の階層の5~10階層上の強さというのが通例らしいというのはネットサーフィンをしていてなんとなく知ってはいたので今回は、間を取って13階層くらいの魔物と予想を立てておきますか。


「13階層くらいです?」


「ランサアラネアを倒した・・・」

「こほんっ初めて見ましたので私の予想ではありますが撃ち合った限り20階層クラスのつよさで危険度はβだと思います」


「?!」

「今なんと・・・?」


「20階層クラスに出現する魔物並みの強さで危険度はβあたりです」


「ということは20階層にはあんな化け物がゴロゴロといるのです?」


「ゴロゴロといるというより強さは魔物ごとでまちまちですが平均あんな感じです」

「それに大きいというのはそれだけで脅威になりますので1対1の戦闘はあまりおすすめできないです」


「なるほど・・・」


「なので次からはやばいと思ったら逃げる!を徹底してみてくださいね」


「善処します」


「でも、そんな魔物を相手に剣を交えて立っていられるのですから初級探索員としてはかなりの強さだと思っていいかもしれませんね」

「・・・とても健やかな表情をされてますけど攻撃をぎりぎりで避けて踏み込んでなんて戦い方はしないでくださいよ?」


「あ、はい」


ほめられたのはうれしいが、そんなに顔に出ていたかと自分の顔を触っていたら笑われたのでそこは割愛しよう。


それから他愛ない、会話をしながらもくもくと掘り進めようやく通れるくらいになるまで岩を削り切ったころには帰るのにちょうど良い時間となっていた。


「もう夕方ですね」


「そうですね・・・腕も疲れたので地上へ出ましょう」


二人は来た道を戻り、3階層の山を降りてイタチやイノシシと出くわすことなく2階層、1階層の森林を潜り抜け地上へと到達した。

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