第26話 幕間 竜魔法
昨日、シルヴァン社のトーマス社長からヒントを貰った俺達は、早速神代魔法の1つである竜魔法を使って神器起動を試すべくトレイル公爵邸の中庭に来ていた。
「ここなら周りから見られる心配もないし、十分な広さもあるから大丈夫でしょう。」
「えーと、アークス君。何すればよいのかな?竜魔法って言われてもピンと来なくて。」
まぁ当然だろう。普通の人族に神代魔法である竜魔法は使えない。アークスは竜であるメリクリウスから直接この力を与えられ、初めて力の本質を理解出来たのだ。何もない所からは何も生まれない。キッカケが必要だ。
「今から姫様の体に竜魔法、特殊な魔力を流します。多分かなり辛いと思いますが、頑張って耐えて下さい。」
アークスはクリスティナ皇女の両方の手を握り、目を閉じて集中する。
「いきますよ!」
アークスが竜の魔力をクリスティナ皇女に流し始める。最初は弱い魔力を一定量放出し続け、徐々に魔力の圧力を上げていく。
「くっ、な、、に、これ。重い。魔力の密度が違い過ぎる。。」
急に襲って来た異質な魔力が体中で暴れ始める。異質な物に対する体の防衛機能が働く様に、ウイルスを体から駆除しようと体の免疫が働く様に、クリスティナ皇女の体が竜の魔力という異質な力を受け入れる事を拒む。
だか竜の魔力は通常人族が扱う魔力とは違う。分かりやすく言えば大人と子供の差位に魔力の規模も密度も違うのだ。気を抜けばあっという間に竜の魔力に体全体を支配されてしまう。これに何とか抗うしかない。
「耐えて下さい!竜の魔力に支配されてはダメです。」
「く、くぅぅぅう、、も、、もう、、だめ。」
限界だ、、、クリスティナ皇女の体が竜の魔力に支配され始めている。体から黒いオーラが漂い始め、このままではどんな結果をもたらすのか想像も出来ない。
そう判断したアークスはクリスティナ皇女の手を離し、魔力の放出を止める。その瞬間、崩れ落ちる様にクリスティナ皇女が地面に崩れる様に倒れ込む。
「はぁはぁはぁ、、、」
息が荒い。体も熱を持っていて、意識も朦朧としている様だ。黒いオーラは治ったが、魔力中毒の様な症状になっている。
アークスは改めてクリスティナ皇女に手を当てて、今度は竜の魔力ではなく、通常の魔力をクリスティナ皇女に送り込み、乱れた魔力を適正な流れに戻していく。徐々に息が整っていく様子を見て安心したアークスは、クリスティナ皇女を抱えて端にあるベンチに横たえて、目を覚ますまで魔力を送り込んでいた。
*
「ん、、あれ、、わたし。」
「大丈夫ですか?姫様。お体の具合は?」
「そっか、私はアークス君の魔力に当てられて、そのまま意識を失ったのね。」
ベンチから身を起こしつつ、軽い頭痛を感じて頭を押さえるが、感じる魔力はいつもと同じだ。アークス君から送り込まれた竜の魔力に抗っている時に感じた、全身の魔力がざわめき、荒々しく暴れまわる感じは収まっていた。
「もう一度よ!出来るまで、何度でもやるわ。」
「ダメです。まだ休んでなくては。姫様が思っているよりも体は悲鳴を上げている筈です。もう少し休んでからの方が、、」
「ダメよ、今この時も魔族に苦しめられている人がいる。休んでなんていられないわ。」
クリスティナ皇女は真剣な眼差しでアークスを見つめる。強い意志がこもった眼差しに、これ以上は無駄だと思わざるを得なかった。
「はぁ、分かりました。但し、これ以上は危険と判断したら、俺の判断で中断します。良いですね?」
無言で頷くクリスティナ皇女の手を取って立ち上がらせると、アークスは改めて両手を握って魔力を送り込む準備を始める、
「姫様、竜の魔力は強大です。無理に支配しようとするのではなく、自らの魔力と竜の魔力が溶け合って混ざるイメージを持って下さい。包み込む様に竜の魔力を受け入れるんです。」
「分かったわ、じゃあお願い!」
「いきますよ!」
その後、何時間も訓練は続いた。
何度か休憩を挟みつつ、徐々に竜の魔力にも慣れていき、魔力を受け入れている時間も着実に長くなっていた。そして、気付けば太陽は沈み始め、辺りは橙色に染まり始めていた。
「や、、やったわ。。。」
クリスティナ皇女は竜の魔力をコントロールしていた。自らの魔力と竜の魔力、双方を上手く混ざり合わせて、自らの魔力として体に馴染ませる事に成功していた。
「よく頑張りました。その感覚です。決して忘れないで下さい。何度かこの訓練を繰り返せば自分の意思で竜の魔力を練り上げる事も出来る様になる筈です。」
「ありがとう、貴方のおかげよ!」
よほど嬉しかったのか勢いでアークスに抱きついてくる。正直嬉しいが、ここでは他の目もあるし、見られたら事だ。
「姫様、落ち着いてください。」
そう言って引き剥がそうとすると、急に姫様から反応が無くなる。体からも力が抜けた様に全身の体重をアークスに預けて来ている。
嫌な予感がして何度もクリスティナ皇女の名前を呼びながら、クリスティナ皇女を地面に寝かせて様子を見ると。
「ZZZZZ」
寝ていた。
限界はとうに超えていたのだろう。
何度呼びかけても何も反応しない、深い眠りに入ってる。深刻な事態で無かったことに安堵する。
「お疲れ様でした、姫。よく頑張りましたね。」
クリスティナ皇女の顔は、一つの事をやり切った気持ちの良い寝顔であった。
*************************************
お読み頂きありがとうございました。
感想やご意見など頂けると嬉しいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます