第25話 幕間 ギルド本部

竜王暦360年2月20日

皇都ハルデイン 中央公園 噴水前


皇都ハルデインは、大きくは東区画と西区画に分けることが出来る。北側に皇帝の住む翡翠宮があり南側は皇都の玄関口である陽明門が在るわけだが、その真ん中東西を分断する様に中央通りが通っている。


東側には貴族達の豪邸が立ち並ぶ貴族エリア。それに大型のショッピングセンターや昔ながらの商店がしのぎを削る商業エリア。企業の本社や工場がある工業エリアがある。紅蓮隊の本拠地である旧トレイル公爵邸もこの東側にある。


一方で西側は、一般市民向けの住宅エリアが立ち並び、翡翠宮や中央通りに近い区画ほど有力者や金持ちが住む1等エリア、外縁部に向かうにつれ2等、3等とランクは落ちていき、住宅の質も落ちていく。


そして悲しいことだが、この西側エリアには、特定の住居を構えることが出来ない人達が寄り合って住んでいるスラムエリアが南側にはあるらしい。


(アークスさんは、スラムには近づくな、、って言っていたけど。やっぱり危ない所なのかな。)


そして此処、本日アークスさんに待ち合わせた指定された中央公園は、皇都の中央通りの東西北南を繋ぐ丁度中間地点にある自然豊かな大きな公園である。植物園や動物園まで併設されており、皇都に住む人達の憩いの場になっている。その公園の象徴でもある巨大な噴水。その前にユウキとクリスタは立っていた。


飼い犬を散歩させている貴婦人や汗を流しながらランニングしている若い学生達が居たりと、至って平和だ。まるで戦争など起きていないかの様に。


大陸の南部では、魔族による侵略が今もなお続いている。愛する人を殺され、住処を追われ、苦しむ人達がいる一方で皇都の住人の様に平和を当たり前の様に享受する人達もいる。


(生きている国も時間だって同じなのに、なんでこんなに違っているんだろう、、この人達は外の世界で戦争が行われているって知ってるのかな。。)


(ユウキも同じことを考えているのかな?)


ふと隣の兄を見てみると、アホ面で鼻をほじっていた。


(………はぁ、、考えるのバカらしくなってきた。)


「よう、待たせたな。」


丁度良いタイミングでアークスさんが来てくれた。後少し遅かったら私は兄の顔面に私の苛立ちをぶちかましていただろう。


「アークスさん、、、ナイスタイミングです!」


そんな事を言いながらサムズアップをする私を不思議に思ったのだろう。アークスさんは若干困惑しながらも私達をギルド本部に案内してくれた。


*


皇都のギルドは西区画の2等エリア。その中でも中央通りからも比較的近い場所にある。私は想像していたものよりも遥かに大きいそれを見て、思わず声を漏らしてしまった。


「はぁ~、、、こんなに大きいんですね。」


キリバスにある冒険者ギルドと比べても凡そ2倍の大きさだ。外観も皇都のイメージに合う洗練されていた。心なしか行き交う冒険者達も、荒々しさが無い、、というか人種が違うように感じる。


隣のユウキもギルドを見上げて言葉を失っている。


「驚いたか?ここが大陸でも3つしかないギルド本部の1つだ。キリバスとは全く違うだろう?」


「さぁ、突っ立ってないで、中に入るぞ。」


ギルドの中は整理整頓がしっかりされていて、掃除も行き届いている。同じギルドでありながら此処まで差が出るものだろうか。流石本部、、、


「あら?アークスちゃんじゃない!?皇都に帰って来ていたのね!私寂しかったわぁ。」


ギルドの奥から怪しげな声がしたので目を向けてみると、、、化け物がいた。ギルドに化け物なんて皮肉にしか聞こえないが、私には化け物にしか見えない。


見た目は巨漢な上に筋骨隆々。タンクトップ姿は自らの筋肉をこの上なく誇示するのに役立っている。顔は金髪のおかっぱで髪はサラサラだ。そして一番違和感があるのが、しっかりと施されたメイクだ。かなり濃いめの。


俗に言うオカマという奴なのだろうか。。


「久しぶりだな、テオドール。相変わらず気持ち悪いな。そんなんでギルドマスターとはなぁ。」


(えっこの人がギルドマスター!!?)


「そんな酷いわぁ。でもそんな恥ずかしがりやな所もス・テ・キ。」


ぞわぞわと、背筋に得たいの知れない恐怖が這い上がってくる。隣のユウキも顔が真っ青だ。


「ところで、その子達は?可愛い子達ね!」


テオドールさんが此方を覗き込んで来る。

正直顔が目の前に来るだけで恐ろしいが精一杯の勇気で挨拶をする。


「はじめましてクリスタと申します。此方は兄のユウキです。」


ユウキもクリスタの紹介に合わせてカチカチに固まりながら挨拶をすると。


「んもぅ、可愛い子達ね!抱き締めちゃおうかしら!!」


そんな恐ろしい発言に身の毛もよだつ恐怖を感じているとアークスさんが助け船を出してくれた。


「そこまでにしとけ。お前の犠牲者はこれ以上増やしたくない。こいつらは俺の弟子なんでな、害獣から守ってやらねばならん。」


「酷いわ!アークスちゃん!私は獣なんかじゃないわよ!」


矛先をアークスさんに移した様で、テオドールさんは今度はアークスさんに抱きつこうとしている。それを必死で防ぐアークスさんとの攻防が面白い。


*


「この子達を本部に登録したいのね、、勿論いいわよ。アークスちゃんの頼みじゃね。」


「助かる。依頼を受けるのは基本祝祭日だろうが、何かあればフォローしてやってくれ。」


アークスさんがギルドマスターのテオドールさんに頭を下げているのを見て、慌ててユウキと一緒に頭を下げる。


「可愛い子は大歓迎よ。それで平日は騎士学校に通わせるのかしら?」


「ああ、そのつもりだ。基礎は彼処で大体学べるしな。それにアイツもいる。良い競争相手になるだろう。」


アイツ?アイツって誰だろう。

騎士学校に通っている人みたいだけど、アークスさんもテオドールさんも知っている人みたい。


「ああ、あの子ね。彼も良い感じよね。将来が楽しみだわ。いろんな意味で♪」


良く分からないけど、騎士学校には面白い人がいるみたい。此処までアークスさんにやってもらってるんだから、早く役に立てる様に頑張らないと。


そう決意を新たにするクリスタだったが、テオドールさんには必要以上に近寄らないでおこう。そう密かに決意するのであった。


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