第23話 トーマス・シルヴァン

竜王暦360年2月21日

皇都ハルデイン 工業エリア 

シルヴァン社本社前


「何度見ても思うけど大きいわね!」


リィンフォルトが空を見上げながら、目の前の巨大な建物を見ている。皇都ハルデインでも最大の高さを誇っており、その威容を一目見ようと多くの観光客が足を運ぶ観光名所になっている。伝統的な建物が多いハルデインの中にあって此処工業テリアは近代的な建物も多いが、その中でも異色である。


「この建物はどうやって支えているんだ?確か20階層まであるんだよな!?」


隣でリィンフォルトにこの工業地区の説明をきしているフィーにアークスが尋ねると答えは直ぐに返ってきた。


「このビルは、地面に埋め込まれた基礎土台から、建物を支える骨組みまで全て鉄と魔力の親和性が高いミスリルの合金で出来ていて、地下深くに巨大な魔法石があるらしいです。主に風系統、土系統の魔法が微弱ですが建物全体を覆う事でこの巨大なビルを支えているって聞いてます。」


「やけに詳しいな、フィー。」


「全部叔父様の受け売りなんですけどね。」


「さぁ、早速中に入りましょう!叔父様は開発室がある地下にいるはずです。」


*


「うぅむ、これは、、、」


シルヴァン社地下2階特別開発室。

大規模な魔法も用いた実験も行える耐衝撃、耐魔法の防壁が幾つも張り巡らされたシェルター内。


トーマス・シルヴァンは、社長として辣腕も振るいながら、技術者としても高い才能を持つ、世に言う天才と呼ばれる人物である。彼が発明した新技術は数知れず、魔法石に魔法を付与する技術も彼が生みの親だ。フィーの持つシュドルクも最近の彼の発明である。


その天才が神器を複雑な機械にセットして何やら調べているようだが、先程からずっと難しい顔をして唸ってばかりいる。


「叔父様、どうでしょうか?」


「これはとても高度な魔法加工技術で作られています。正直我々では理解できない機構も多い。ですが、、、」


そう言うとトーマス社長は、杖の真ん中にある青い宝石を指差す。


「この宝石は我々が開発した魔法石にとても良く似ています。つまり魔力に反応して、何かしらの効果を導くのです。但しこの宝石が未知の物質で、どの様な効果をもたらすのかサッパリ分かりません。」


そう言うと徐に杖を機械にセットして、スイッチを入れる。すると様々な属性の魔力が青い宝石に注がれるが全く反応しない。


「この通りです。あらゆる属性の魔力を当てても何も反応しません。何かに魔力が阻害されているのか、未知の属性が存在するのか、少なくても我々が普段使用する魔力とは異なる可能性は高いと思います。」


トーマス社長は、機械から神器を取り外すとクリスティナ皇女に手渡した。


「申し訳御座いません姫様。ご期待に添えることが出来ず。」


「仕方がないわ。竜族が作ったものですし、我々では理解できない技術が使われていても納得出来ます。」


残念な感情は全く表情に出さず、忙しい最中に急遽時間を作ってくれたトーマス社長にお礼を言って、開発室を出ようとした時。


アークスが背負うレーヴァンテインを見て、慌ててトーマス社長が引き留めてきた。


「姫様!少しお待ちを。そこの彼が持っている赤い剣。それを調べさせて頂けませんか!!?」


*


「やはり、、、」


神器エーテルホライゾンを調べた時と同じ様にレーヴァンテインを機械にセットして様々な魔力を当てている。


「姫様、この赤い剣。嵌め込まれている赤い宝石と姫様の神器の青い宝石。これはほぼ同種であると推察されます。そして同じ様にどの属性の魔力にも反応を示さない。」


「そこの彼は恐らく、この剣の力を使えているのではないですか?つまり、姫様が神器を使えるかどうかの鍵は彼にあると思われます。」


クリスティナ皇女が、フィーがリィンフォルトの視線がアークスに注がれる。


「俺ですか!?」


トーマス社長は続ける。


「えーと、アークス君と言ったかな。君はこの剣を使う時、何か特別な力を使っていないか?我々が使う炎の魔法や氷の魔力とは違う別個の物だ。」


そう言われてみれば普段意識していなかったが、レーヴァンテインを使う時に込めている魔力は竜魔法を込めている気がする。


アークスはレーヴァンテインをトーマス社長から受け取り、いつものように魔力を込める。すると赤い宝石は淡く光を放ち始める。


その様子を見ていたトーマス社長は、アークスに一言断りを入れて、アークスの腕やレーヴァンテインに魔力を検知する機械をセットし始めた。


「アークス君、もう一度頼む。同じ様に魔力を込めてくれ。」


アークスが魔力をレーヴァンテインに注ぎ込む。その魔力を繋がれた機械が検知して魔力の波形、濃度、強さを数値としてトーマス社長が見る画面に映し出す。


「こ、これは!!」


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