第17話 メルの遺跡迷宮5
扉の中は、何もない真っ白な空間だった。
壁も床も天井も、見渡す限りの白。
「何、、この部屋。」
「今までとは違うみたいだけど。」
部屋がどの程度の広さなのか、奥行きは?幅は?高さは?全てが白に塗り潰されて感覚が狂ってくる。
「とりあえず中に入ろう。」
ズゥゥゥン
全員が中に入ると扉が勝手に閉まる。
そしてそのまま消えてしまった。
「私達、閉じ込められてしまいましたね。皆、警戒を。」
クリスティナ皇女が、リィンフォルトがフィーが、それでいて警戒心を持って周囲の様子を伺っている。
《よく此処まで来ましたね。》
頭の中に声が響いた。
《最後のテストです。貴方達の実力を私に見せて。》
「皆何か来るぞ!気をつけろ!!」
背筋にぞくりとした物を感じたアークスが直感的に強大な存在が現れようとしている事を感じとる。
そしてそれは現れた。
*
音もなく現れたそれは、白一色の部屋の真ん中に陣取り、禍々しい程の黒色をしていた。白と黒のコントラストが、その存在をより際立たせる。
それは、一度広げれば大空を掛ける翼となり、その口からは何をも燃やし尽くす獄炎を撒き散らす。そしてその牙と爪で獲物を切り刻む。
御伽噺や英雄譚、伝承に伝わる竜(ドラゴン)ものだった。
「ドラゴン、、、」
アークスがそう呟くのを3人は聞き逃さなかった。絶対的な存在として語り継がれるその威容は圧倒的で、今まで対峙したどのモンスターとも違う恐ろしさを感じる。
「本当に、、あれが伝説のドラゴンなの、、?」
アークスは天空竜メルクリアスをはじめ何頭ものドラゴンと会っている。その威容、目の前にした圧力、感じる魔力をして間違える筈は無い。
「間違いない。あれが世界の管理者たるドラゴンだ。気を抜けば一瞬で塵になるぞ。」
そう言うアークスの表情は真剣そのもの、脂汗を滲ませて、必死になって打倒策を巡らせている。
《我はパルパテム。主人より作り出されし、怒り高き竜である。其方らの力我に示してみせよ!》
*
パルパテムと名乗る竜は、漆黒の翼を広げて一気に襲い掛かって来た。
「リィンフォルトとフィーは絶対に前に出るな!姫様は回復魔法と補助魔法を俺に掛け続けてくれ!」
そう言いながらアークスは後ろの3人を守る様に前に出る。
「ちょっと何言って、、、」
リィンフォルトは言葉途中で、アークスの余裕の無い顔を見て、現実を把握する。
リィンフォルトもアークスが自分の何段階か上の強さである事は百も承知だ。そのアークスが此処まで警戒する相手、ドラゴン。
思わず息を呑む。
アークスは己が分身とも言えるレーヴァンテインの剣を構えて全身から雄叫びを発する。
まるで己が弱き心を奮い立たす様に。
さしてそこから激闘が始まった。
パルパテムは先ずはお試しとばかりに自らの自慢の爪でアークスに襲い掛かる。その爪撃は、鋼鉄も切り裂く何にも勝る竜の剣。
実際受けるのがレーヴァンテインで無ければ初撃で折れていただろう。アークスは全ての爪を辛うじて受け切り、一歩後ろに下がる。
「姫様、、頼む。」
先程から防御強化、スピード強化、攻撃強化、知覚強化、炎耐性強化の魔法が飛び交いアークスの能力を底上げしている。
数度打ち合っただけでアークスの消耗は火を見るより明らかだ。回復魔法を掛けて体力回復を図る。
「ほぉ、なかなかやるではないか人間。」
口から炎をチロチロ出しながら、己の自慢の爪を受け切った目の前の矮小な人間を素直に称賛する。
「だがこれはどうかな!!」
その瞬間、パルパテムの口から地獄の火炎を連想させるような激しい炎がアークス達に襲い掛かった。鉄をも溶かすその温度は軽く1万度を超える。まともに食らえば人間など一瞬で跡形もなくなるだろう。
アークスは再びレーヴァンテインを掲げる。
「その力を示し、我が脅威を取り払え!」
かつて遺跡から出てきた魔族の放った帝級魔法を防いだ時と同じく、レーヴァンテインが赤く光り輝くカーテンの様を展開、アークス達を包み込んだ。
「おおおおおお!」
アークスは限界まで魔力を込める。
己の全てを出し切る様に、惜しみなく魔力を振り絞った。
「ほぉおお!」
「本当にやりよる。この我の炎を防いでみせたか。天晴れよ人間。」
「はぁはぁはぁ、、、」
アークスは見るからに消耗している。
魔力もほぼ底をついた。
「アークス君!!!」
クリスティナ皇女がアークスに駆け寄ろうとする。
「来るな!」
クリスティナ皇女はビクッと体を強張らせて、その足も止めてしまう。
「お願いです。俺は貴方を失いたくない、お願いだから、俺の後ろから離れないで。」
切実に声を震わせて懇願する。
「姫様、ダメです。今は彼の邪魔になってしまいます。。」
「ダメ、ダメ、、あの力は使っちゃダメ。」
「ダメェェェ!!」
クリスティナ皇女が泣け叫びながら、アークスに手を伸ばすが。
「待たせたな。後、今の内に俺達を殺さなかったこと、後悔するぞ。」
「我は誇り高き竜族なり、弱き者を痛ぶる趣味は無い。」
「そうかい。では刮目するんだな。」
「レーヴァンテインよ、その楔を解き放て。」
普段アークスが力を封じられているのは、このレーヴァンテインが強過ぎるアークスの力が地界に悪影響を及ばさない為だ。だから5つの宝玉でアークスの力を封印した。
この封印は試練を乗り越えて、アークスが力を問題なく制御出来ると剣に認められた時初めて解ける。だが例外が一個だけある。
アークスが本当に力を必要とする時のみ、一瞬だけ力を解放する事が出来る。
その一瞬の為に支払う代償は大きい。アークスのこの力を使う度に剣に侵食される。その浸食が極限にまで至ると、どうなるのか想像も出来ない。だが、今この場を凌ぎ切るにはこれしか無い。
「さぁ、力を寄こすんだぁぁ!」
レーヴァンテインの宝玉が太陽の如く光り輝く。そして剣から赤い触手が伸びてきてアークスの体を貫いた。
触手はアークスの右手を取り込もうと、徐々に浸食を広げる。肩上まで浸食が進んだところで、アークスは一気に解放されしその力を爆発させた。
「ま、まて其方。その力、、まさか我らと同じ、、」
「問答無用ーーーー!」
禍々しくその姿を変えたレーヴァンテインを構えると、目にも取らない神速でパルパテムに迫る。
そして力任せに一気にレーヴァンテインを振り下ろした。
赤い軌跡は、漆黒の鱗を切り裂き、パルパテムの右腕を肩から袈裟懸けに切り裂いた。
「グァぁぁあああ!」
パルパテムの体から血が吹き出し、真っ白の空間に赤い血溜まりが出来る。吹き出した血の量は白き床を真っ赤に染めていった。
「はぁはぁはぁ、、、」
アークスの体からレーヴァンテインの触手が徐々に引いていく。タイムリミットだった。これ以上は戻れなくなる。
アークスは息も絶え絶えの様子で、レーヴァンテインを床に突き刺さし、既に自らの足では立っていられない体を何とか支える。
「アークス君!!!!」
クリスティナ皇女が涙目になりながら、制止するリィンフォルトとフィーを振り切って駆けつけてきた。
「こんなにボロボロになって、、、だから、だから止めてって言ったのに。いつも、アークス君は無茶ばかり。」
涙をボロボロと流しながら、アークスの無事を確かめて、少しでも少しでも体の傷を癒そうと回復魔法を唱える。
「ごめん、、姫様。だけど、これしか無かったんだ。。」
自らの腕に寄り掛かる姫様を横目に見ながら、アークスは黒き竜に問い掛けた。
「ドラゴンよ、力は示した。これ以上やるなら、お互い死力を尽くした殺し合いになるぞ。」
既にアークスには指一本動かす力さえ残っていない。これでドラゴンが襲い掛かってくる様なら終わりだ。
「ふん、既に勝負は決しておる。其方らの勝ちよ。其方は十分に力は示した。それにその力、、我は見覚えがある。母なる竜の幼子が此処まで大きくなったとは。」
そう竜は言うと、怪我を自らの魔法で癒し、その大きな翼を広げ、アークス達に問い掛けた。
「さあ、其方等は資格を得た。我が翼に乗るが良い、この遺跡の真なる部屋へと誘おう。」
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お読み頂きありがとうございました。
感想やご意見など頂けると嬉しいです。
すみません。思いの外長くなり、この話で最後まで辿り着けませんでした。。明日頑張ります。
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