第16話 メルの遺跡迷宮4
先刻、動く石像を撃破した俺達は、下のフロアに向かって広間の先にある階段を歩いていた。
ただ先ほどから、通路の横幅が徐々に広く、そして階段の段差が無くなって来ているのが気になる。
「なぁ嫌な予感がするのは、俺だけか?」
「アークスさんもですか?実は私も先程から気になってます。」
アークスとフィーがお互いの考えを確認し合っていると、リィンフォルトが呑気な顔で邪魔をしてくる。
「え、なになに?私は何も感じないわよ。」
「お前には聞いてない。」
「リィンちゃんは黙ってて。」
「何よぉ、、2人して。」
リィンフォルトはアークスとフィーに構って貰えず、頬を膨らませて怒ってるアピールをするが、それすらも2人に無視されている。
その様子を見ていたクリスティナ皇女がクスクスと声を押し殺して笑っている。
「こら、リィン。2人の邪魔をしちゃダメですよ。」
「姫様ぁ、だってぇ、、、」
リィンフォルトが泣きそうな顔でクリスティナ皇女に頭を撫でられている。
緊張感がない2人を他所に、アークスとフィーはお互いの違和感が同じである事を確かめていた。
「やっぱりそうか、、」
「姫様、、嫌な予感がします。此処から早く離れ、、、!?」
そうアークスが叫んだその時、不気味な叫び声が響き渡った。
《グギャギャギャギャ!!!》
「姫様、後ろ!危ない!」
いち早くその存在に気付いたリィンフォルトがクリスティナ皇女の手を引っ張って、抱き寄せる。
先程までクリスティナ皇女がいた所を巨大な口蓋を持った化け物が通り抜けた。
「え!?」
恐る恐る振り向くと、先程までは居なかった筈の所に、通路を埋め尽くす程巨大なワームが大きな口から大量の粘液を吐き出して、此方に襲い掛かろうとしていた。
「は、走れぇぇぇ!!」
「イヤァァァァァ!!!」
「何よぉぉぉおおお!」
「気持ち悪いぃぃぃぃ!」
女性陣は三者三様の悲鳴を上げながら、全速力で走り始めた。アークスも女性陣を先に行かせながら、時折後ろを振り向いて、炎の魔法を巨大なワームに放つが、全く効いている様子が無い。
ワームは目の前の獲物を逃がさまいと、物凄いスピードで追ってくる。ワームの口蓋には巨大な牙が何本も並び、それが回転している。さっきから砕いた岩が回転した牙に当たる度に粉々にされているのを見て顔が青ざめる。
(おいおいおい、あんなの反則だろ。)
リィンフォルトも同じ光景を見ていた様だ、泣きながら必死に走っている。
「イヤァァァァァ、あんな死に方イヤァ!」
皆走りながら、それぞれに魔法でワームを攻撃するが全く効いている様子が無い。中級魔法レベルだが此処まで連発しているにも関わらず無傷なのはおかしい。魔法が無効化されているとしか思えない。
「魔法がなんで効かないのよ!」
「俺に聞くなよ!とにかく走れ!」
必死に走り続けて、もう限界かと思った時、少し先に横穴が空いているのを見つける。
「みんな、20M位先に見える横穴に飛び込め!!」
そして一斉に穴に飛び込んだ。
真後ろを猛スピードでワームが通り過ぎていく。その様子を確認して、何とか一息ついた。
「みんな、大丈夫か、、?」
皆、息も絶え絶えの様子だ。
姫様は過呼吸気味になっており、本当に限界ギリギリだった様だ。
「だ、だ、、だいじょ、、うぶ、よ。」
「リィンフォルトとフィーは?」
「此方は何とか、リィンちゃんは?」
「こっちも大丈夫~~」
手を振りながら無事をアピールしている。
リィンフォルトはまだまだ余裕がありそうだ。
「ねぇ、アークスさん、あそこ見て下さい。」
フィーが指差した先に俺達が何度も見た看板が掛けてある。
【だぃじょうぶぅ?もしかしてめっちゃ焦った?1人位食べられちゃったかしら?でもでも、アレね、実はね、食べられても大丈夫だしたぁ!私が魔法で作った偽物でした!騙されちゃった?? まぁもうゴール直ぐそこだし許してね。 管理人:メル】
全員の血管が切れた音がした。
普段温厚なクリスティナ皇女でさえ、恐ろしい顔をしている。これは流石に堪忍袋の尾が切れたのか、フィーは無言でシュドルクを構えて。
「シュドルク、エンチャント風」
シュドルクが火を吹いた。
無数の銃弾が看板を粉々に砕いていく。
銃弾の嵐は看板のカケラすら残さず、フィーの怒りを体現するかの様だった。
「ふぅ、皆さん、先急ぎましょうか。」
やり切った顔でフィーが汗を拭う。
普段大人しいフィーが少し怖い。
クリスティナ皇女もリィンフォルトも先程までの怒りが何処かへ飛んで行ったのか、黙ってフィーの後を付いていく。
(フィーは怒らせない様にしよう。)
そう内心考えながら、その場を後にするのだった。
*
「此処が最下層みたいね。」
目の前に大きな扉が見える。
あの後もモンスターに襲われたり、大きな岩玉に追い掛けられたりと散々だったが、漸く此処まで辿り着いた。
みんな一様に疲れた顔をしている。
本当にふざけた遺跡だ。ただそれもゴールまで辿り着くと達成感がある。
「漸く魔族が此処を調べていた理由が分かるわね。」
そう言ってクリスティナ皇女は最後の扉を開け放つのであった。
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お読み頂きありがとうございました。
感想やご意見など頂けると嬉しいです。
次でメルの遺跡迷宮のお話は最後になると思います。一気に書こうと思ってましたが、力尽きました。。
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