第15話 メルの遺跡迷宮3

動く石像は剣や斧、ハンマーの様な物まで各々異なる武器を持ちアークス達の前に立ち塞がる。大きさ約5Mといった所か。


「各自、戦闘準備。」


クリスティナ皇女の号令で各々武器を構える。アークスはお馴染みのレーヴァンテイン、クリスティナ皇女は背丈程もある純白の杖。リィンフォルトは騎士専用の大剣、フィーは最近皇都で開発されたばかりの魔法銃だ。ショットガンの様な見た目でフィーの可愛らしい見た目と相反して違和感しかない。


アークスはフィーが構えた無骨な金属製の筒を見て、ついこの間発表されたばかりの新武装と似ている事に驚く。


「それって魔法銃か?使いこなしている奴は初めて見たな。かなり扱いが難しいと聞いたが?」


「実は開発元のシルヴァン社とは懇意にしてまして、そこから試作品を使わせて貰ってるんです。威力も折り紙付きです。」


「そうか、それは頼らせて貰う!」


「リィンフォルトとフィーは好きな様に動け、俺が何があってもサポートする。」


「姫様は守りに徹して下さい。回復魔法と補助魔法を中心に。俺は良いので、彼女達2人のサポートを。」


それだけ伝えるとアークスは一気に前に出る。先ずは石像の注意を自分に向けさせる為だ。挨拶がわりに一番前の石像の右足に向かって、レーヴァンテインを思いっきり振り抜く。


ガキンッ!!


「硬ってぇ~」


石像は多少バランスを崩した様でグラついているが、斬りつけた右足は多少傷が付いた位だ。レーヴァンテインの刃が通らないのは、かなり硬度が高い石材で作られているのであろう。


直ぐ様隣の石像がその巨大な拳をアークスに向かって叩き付けてくるのをバックステップで避けて、姫達が居る所まで一度引き下がる。


「姫!」


「ええ、分かっているわ。」


クリスティナ皇女は、アークスの一言だけで意図を汲んだのか、呪文を唱える。唱えるのは、力を底上げするアームド。後は防御力を上げるシールド。後はスピードを上げるクイックだ。


一瞬で魔法の構成を練り上げて、純白の杖を通じて魔法を発現させる。赤、青、緑の色とりどりの魔法陣が展開、アークスとリィンフォルト、フィーの体を光が包んでいく。


「よし、力が漲る。サンキュー姫様!」


アークスは魔法の効果が発現すると同時に、先程よりも更に早いスピードで敵陣に突貫していく。


「フィー、私達も負けてられないわ。フォーメーションRよ!!」


「いや、リィンちゃん。そんなの初めて聞くんだけど、、、」


大剣を構えてポーズを決めるリィンフォルトに冷静にフィーがツッコム。


「いや、ここはノって来てよ!」


そんなコントをやっている間に一体の石像がリィンフォルトに手持った斧を振り下ろす。


「リィン、フィー危ない!!」


土煙が上がる中、クリスティナ皇女は心配そうにリィンとフィーの姿を探す。ゆっくりと煙が消え始めるとそこに2人の姿は無かった。


「あなたも空気読みなさいよね!」


頭上からリィンフォルトの声が聞こえる。

あの一瞬で空高く飛び上がったみたいだ。

その重量級の武器を頭上に掲げて、石像の顔面目掛けて思いっきり振り下ろした。


ドッカァァン


切るというより叩き割るといった表現の方が正しいだろう。リィンフォルトの怪力と魔法によるサポート、そこに重量級の大剣の威力が加わり恐ろしい破壊力だ。石像の顔半分が砕けて粉々になっている。


そしてよく見ると砕けた石像の顔に何か埋まっている。赤い魔石だ。恐らくこれなら魔力を込めて操っているのだろう。


「フィー!!」


リィンフォルトが叫ぶ。


「任せてリィンちゃん。」


いつの間にかリィンフォルトの更に真上に飛び上がっていたフィーが黒い重厚を赤い宝石に向ける。


そして銃口が火を吹いた。

込める力は炎、単純な破壊力を付与するには炎属性が最も効果的だ。


ドパァァン


フィーから放たれた銃弾は真っ赤に燃えながら、石像の頭に真っ直ぐ飛んで行く。炎系魔法により破壊力を増した銃弾は期待通りに赤い宝石を粉々に破壊した。


その瞬間石像の目から光が消えて、やがて全く動かなくなった。


「よし!先ずは一体!やったねフィー。」


リィンフォルトとフィーはハイタッチを交わす。そして奥に控えるもう一体の石像に向かって走っていった。


「ほぉぉ、中々やるなぁ。俺も負けてられねぇぞっと!」


アークスは石像4体を同時に相手しながら、リィンフォルトとフィーの勇姿を見て、一段階ギアを上げる。


「らぁぁぁぁ!!!」


レーヴァンテインを力任せで横薙ぎに振り抜き、目の前の石像を後ろに吹き飛ばす。その一瞬の隙を突いて、アークスは詠唱に入った。


《踊れ炎の精よ、我が剣に宿り、触れる物全てを灰塵に帰せ》


《フレアブレイド》


一筋の炎がレーヴァンテインの刀身を包み込んでいく、まるで1匹の炎竜が剣に宿ったかのようにその刀身を炎のそのものに変じさせる。


「よし、いくぜぇ、、」


漸く起き上がった石像の胴体をレーヴァンテインで軽く薙ぐ。数千度まで跳ね上がっている刀身は石像の体をバターの様に溶かしながら切り裂いていく。最初の一太刀で刃が立たなかった事が嘘のような切れ味だ。


ズッウウウン


2つに切り裂かれた石像は上半身だけでもがく様に両腕を振り回してくる。その腕を軽く避けながら先程のフィーがとどめを刺した様に頭を真っ二つに切り裂いた。


「ほら、次ィ!」


1体目を切り裂いた勢いそのままに2体、3体とあっという間に葬っていく。最後の1体を上段から真っ二つに切り裂くと同時にレーヴァンテインに掛けたフレアブレイドの効果が解けた。


「まぁ、こんなもんか。」


レーヴァンテインを肩に乗せて、余裕の笑みを浮かべた。


「さて、あっちはどうなったかな。」


リィンフォルトとフィー、クリスティナ皇女を探すと丁度彼方も最後の1体を仕留めた様だ。


*


リィンフォルトとフィー、クリスティナ皇女は2体目との戦いを始めていた。


「シュドルク、エンチャント炎!」


フィーが魔法銃シュドルクに炎の魔法を込める。破壊力を増した銃弾が2発、3発と石像に打ち込まれ、石の鎧が剥がされていく。


だが弱点に撃ち込まない限り、銃弾では打撃力が足りない。表面の石を幾ら剥ぎとった所でコアである赤い魔石を壊さないと意味が無いのだ。


「えぃやぁ!」


フィーの銃撃の合間をリィンフォルトが大剣を掲げて頭を狙う。だが先程戦闘から学習しているのか、石像は両手を上手く使い頭を固く守っており、中々効果的な攻撃が出来ないでいた。


「くそー、最初は上手くいったのに。」


「恐らく1体目を観察して、学習したのでしょう。先程からリィンちゃんを強く警戒している様子です。」


「リィン、フィー、だったら私に任せて。私がアイツの体勢を崩すから、リィンはその隙に頭を狙って、フィーは私が魔法を唱える間に注意を引き付けて!」


「了解しました!」


「了解!」


フィーは小柄な体躯わや活かして、石像の死角を上手に利用して、縦横無尽に走り回る。そして、手にしたシュドルクに別の系統魔法をエンチャントする。


「シュドルク、エンチャント風」


風魔法のエンチャントは、乱射。

風魔法により生み出された無数の銃弾は、一発の威力は低い物の、嵐の様な手数で石像に襲い掛かった。さながらマシンガンである。


《土よ、我声に応じ、その姿を変じたまえ。水よ、その豊かな水流でもって、我が眼前の敵を打て。》


《複合魔法、底無し沼!》


先ず土魔法で石像足元の石畳をサラサラの細かな砂状に変化させた上で、地下に空洞を作る。その上で大量の水でを砂に混ぜるとどうなるか。水分によって粘着剤の様になった砂が対象を絡めとり、砂は徐々にに地下の空洞に向かい砂が移動し始める。まるで底無し沼の様に。


そして更に追い討ちを掛ける。


《影よ、蛇の如くしなり、うねり、我が敵を拘束せよ。》


《スネークバインド》


クリスティナ皇女の杖から真っ黒の蛇の様な影が伸びて、石像の腕に絡み付いた。そのまま頭を守れない様に固定する。


「今よ!リィン!」


クリスティナ皇女の言葉で、待ってましたとばかりにリィンフォルトが自らの愛刀を構えて、石像に突撃する。


今の相手は罠に掛かったウサギの様だ。

全てのお膳立てが済んでいる。後は狩るのみ。


「八葉次元流、朧一閃」


簡単に言ってしまえば、物凄く早い斬撃によって相手は剣が振られたと知覚する間も無く、斬り伏せられている。という剣技なのだが、リィンフォルトの大剣で振るわれたそれは破壊力も申し分無く石像の頭を粉砕した。


「よし!姫様、フィー!やったよぉ!!」


リィンフォルトが笑顔で駆け寄って来る。

クリスティナ皇女もフィーもコンビネーションが上手く決まってしたり顔だ。


「うん、凄かった、流石リィンちゃん。ナイス馬鹿力!」


「流石、リィンね。学生の頃より遥かに強くなってる。」


各々の言葉でリィンフォルトを出迎える。


「何よぉフィー、それ褒めてるの?」


「褒めてる褒めてる。」


その様子を見てクリスティナ皇女が思わず笑っている。


「もう、姫様まで!私を揶揄って!」


そこに4体目を討ち取ったアークスも合流して来た。


「上手くいったみたいだな。リィンフフォルトもフィーも強いじゃないか。これなら姫様の護衛もある程度任せられるな。」


満足そうにアークスがそう伝えると。

褒められたと思ったのだろう。リィンフォルトは満更でも無い表情だ。


「ふ、ふん。そうだ姫様は私が守るから、お前は後ろで休んでいると良い。」


腕を組みなから顔は真っ赤だ。

本当に素直な性格をしている。本当にこれが俺家系の子孫なのだろうか。あの思慮深い妹からこれが生まれたとは思えんし、やはり偶然同じ名前なのかもしれんな。


リィンフォルトが聞いたら、それこそ怒りで殴られそうな事をアークスが考えていると。


「これで奥の扉も開いたかもしれません。戯れはその程度にして、早く行きますよ。」


クリスティナ皇女は早く先に行きたいらしい、勝利の余韻も冷めやらぬまま、俺たちは奥に進むことにした。


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