第14話 メルの遺跡迷宮2
長い長い通路を抜けた先は、複雑怪奇な正に迷宮と呼べる所でした。
「これは、正に迷宮と呼べる場所ね。」
「えぇ、、何よぉ、ここ。」
クリスティナ皇女とリィンフォルトが目の前の光景に息を飲んでいる。
階段が上に向かってると思ったら途中から下に向かっている。通路も右にあったり左にあったり縦横無尽だ。しかもそれが一定の間隔で動いている。一体どんな原理か分からないが、吊り下げる紐も支える土台も無いのに、通路や階段が宙を浮いている。
「なんだここ、、一体何処に行けばいいんだ。」
アークスは頭を抱えながら、道標の様な物が無いか辺りを観察する。
「ん?此処に何か書いてあるぞ。」
【此処から先が本番よ!此処までで拍子抜けしてた其処の貴方!甘く見ないことね!せいぜい死なない様に祈ってるわ!管理人:メル】
全く役に立たなかった。
それどころか、そこはかとなくムカつく。
「仕方ないわ、フィー、此処からは貴方の感覚が頼りよ。マッピングもしっかりね。」
「はい、姫様。お任せ下さい。」
そこから先は想像していた以上に苦労の連続だった。一番大きい階段を苦労して登ったと思ったら、行き着く先は何も無い壁だったり、右に進んでいたかと思えば反対側から元の場所に戻っていたり。そして一定時間が経つと通路が動いてしまいマッピングが役に立たない。
博識のフィーも専門家の自分が役に立っていない事を悔しがっている。
右往左往している俺達を嘲笑うかの様に、本当にこの遺跡を作った奴は良い性格をしている。
それにしてもこの遺跡誰がどういう意図で作ったんだ?製作者の顔が見てみたい。
そして歩き回る事数時間、何度も道を間違えながらもやっとの事でゴールに辿り着いた様だ。目の前に大きな扉がある。
「やっとゴールね、、」
クリスティナ皇女が目の前の扉に小走りで近寄る。一瞬の気の緩みがあったのだろう、全員がこの迷宮の嫌らしさを忘れていた。
ガコン
「へ?」
クリスティナ皇女が突如として響いた作動温度に間の抜けた声を出している。
その瞬間、
クリスティナ皇女の左右の壁から、物凄いスピードで鋭利な槍が襲い掛かる。もうどう考えても間に合わない。リィンフォルトとフィーが悲惨にも串刺しにされる姫の姿を見ていられずに目を瞑る。
そして恐る恐る目を開けてみると、そこには予想外の光景が広がっていた。
「え、え、え、アークス君?」
槍は全て叩き壊されている。
そして石で囲まれた通路の真ん中でアークスがクリスティナ皇女をお姫様抱っこをした状態で雄々しく立っていた。
「ぷはぁ、、、」
「だ、大丈夫ですか!?クリスティナ?」
いつの間にか普段の呼び方ではなく、かつてクリスティナ皇女がアークスに呼んで欲しいと願った呼び名で呼ばれている事に気付く。
自分の体制と相まって、とても恥ずかしい。
顔は真っ赤だろう。
「う、うん。」
恥ずかしくて、声を絞り出すのがやっとだった。
一方でアークスは体中に激痛が走っており、意識が朦朧としていた。実際にアークスの体から熱気が迸っている。一瞬でも体を限界以上に酷使した反動で、恐らく両手両足は幾つかの血管が破裂して内出血をしており、又体を巡る魔力量も異常値を示している事だろう。
「くっ、、」
アークスは、痛みに耐えかねて、膝を折る。
クリスティナ皇女をそっと下に下ろして床にしゃがみ込んだ。
「ちょっと大丈夫なの、、?」
後ろからリィンフォルトとフィーが駆け寄って、心配そうにアークスの様子を伺う。クリスティナ皇女も心配そうだ。
「だ、大丈夫です。」
そう言いながら魔法の袋から、完全回復薬エリキシルを一気に飲み干す。アークスの体が光り輝き、真っ青だった顔がいつもの顔色に戻る。傷は全て快癒した様だった。
「一体どうやったのよ?あそこから間に合う訳ないわ。貴方、、何者?」
リィンフォルトがアークスの事を信じられない物を見ているかの様に問い掛ける。
フィーも同じ疑問を感じているのだろう、此方をじっと見つめて答えを待っている様だ。
「私から話すわ。良いでしょ?アークス君。」
どうせ直ぐにバレる事だ。特に隠している訳でも無いので、無言で頷いた。
「多分アークス君は、自分に掛けられている封印を無理矢理解除したのよ。でもその反動で体が壊れてしまった。」
「封印?何を言っているのですか?姫様?」
「アークス君は、竜の力を使えるの。でも強力過ぎて、封印されてる。」
「え、え?竜って御伽噺に出てくる?ドラゴンですか??」
「ああ、そうだ。俺はドラゴンに育てられた。母なる竜メルクリアスに。」
リィンフォルトとフィーは言葉を失っている。まぁ当然だろう、一般には、ドラゴンの実在は知らされていない。
「魔族がいるんだ、同じ御伽話に出てくるドラゴンがいても不思議じゃない、、か。」
リィンフォルトが呟く。
馬鹿だと思っていたが、意外にも物分かりが良い。そしてそんな事を考えていたら、彼女にもそれが伝わったらしい。
「な、なによ?」
「いや、馬鹿だと思っていたが、意外にも物分かりが良いと思ってな。」
「な、な、馬鹿にすんな!」
「ふふふ」
「フィーまで笑うなんて、、酷い。」
アークスがリィンフォルトを揶揄うと、フィーもつられて笑い出す。張り詰めた空気が少し柔らかくなったのを感じる。リィンフォルトもフィーも荒唐無稽な話だと切り捨てる事もなく信じてくれたらしい。
アークスもその様子に安堵していると。
後ろから不意に抱きしめられる。
「アークス君、ごめんね。有難う。後、無茶しないで。」
消え入りそうな声だ。
自分が助けられた事以上にアークスに無茶をさせた事が堪えている様だ。
「はい、すみません。でも無事で良かった。」
アークスはクリスティナ皇女の手に自分の手を重ねる。
「あぁ、姫様とアークスがイチャイチャしてる!!姫様、ダメです。そんな男からは離れて下さい!」
リィンフォルトがクリスティナ皇女とアークスの様子を見るなり、2人を引き剥がしに掛かる。そしてそれを笑いながら放置するフィー。
この2人のキャラも段々と分かって来た。
そう思いながらアークスは襲い掛かってきたリィンフォルトの顔面を優しく鷲掴みにして近寄らせ無い様にするのであった。
*
30分後
「さて、図らずも少し休めた事だし、先に進むとしましょう。」
アークスは自らの体が問題ない事を確認した上で、扉の先に進む事を提案する。
「そうね、いつまでも休んでられないわ。リィンとフィーも行きましょう。」
改めて扉の前に来た一行は、罠が無いか慎重に確かめる。フィーが何度も確認して問題ない事をアークスに伝える。
「よし、じゃあ扉を開くぞ。念の為直ぐに行動に移れる様にな。」
アークスは力を込めて扉をゆっくりと開いていく。開いた先に異常が無いか確認しながら慎重に開いていくが、どうやら何も無さそうだ。
魔法の光で扉の先を照らすと、
目の前には壁が立ち塞がっており、その壁には光る文字が刻まれている。
【此処までで良く来れました!凄い!その扉の罠も回避出来たんだねぇ、結構自信作だったのに。でもね、この部屋の私の自信作を倒さないと前には進めないよぉ。残念!
管理人:メル】
相変わらずムカつくが、もう相手にするだけ疲れるだけである。
リィンフォルトでさえ、もうツッコム気力を失っている。
そして光る文字を読み終えた頃、音を立てて目の前の壁が天井に向かって上がっていき、巨大な空間が現れる。
今までの無機質な石の通路や階段とは異なり、中世の神殿の様な装飾ばった作りだ。
そして左右には石の巨像が計6体。そして奥を見ると通路がある様だ。そしてその通路には鉄格子がはめられ先に行けない様になっている。
「ねぇアークス君、私嫌な予感がするわ。」
「奇遇ですね、姫様。俺もですよ。」
嫌な予感はだいたい当たる物である。
そう思った瞬間、6体の巨像の目に怪しい光が輝き出し、ゆっくりと動きだした。
「やっぱりかぁぁぁ!!!」
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