第13話 メルの遺跡迷宮

「本当に此処に入り口があるのか?」


皇女一行はフィーが指し示した場所に到着していた。目の前にあるのは先程の遺跡正面とは異なり無機質な岩肌の連なりだけ。入り口がある様には思えない。位置的には、先程居たところの丁度反対側にあたる。


「はい、そこの少し大きな岩の影に隠されてました。周辺の探索中にたまたま見つけたのですが、、」 


フィーの先導で岩の影に回り込むと確かに人が何人か通れる穴が空いている。ただ一見して遺跡の入り口だとは判別し難い。


「此処か?何故此処が遺跡入り口だと?」


「そこの壁を見て下さい。」


フィーが指先で示した壁を見ると看板の様な物に確かに書いてあった。それはもう堂々と。隠す気が無いのだろう。


《メルの遺跡迷宮へようこそ》


「これは?何かの冗談なのかしら?」


クリスティナ皇女が疑わしい目で皆に問い掛ける。わざわざ案内板が用意されている時点で怪しいし、罠の可能性が捨てきれない。


「私もそう思ったのですが、どうにも気になって。」


フィーが困った顔で隣にいたリィンフォルトに視線を送ると。


「とりあえず奥に行ってみれば分かるでしょ?何も無いなら引き返せば良いんだし!」


まだ少し機嫌が悪いのか二の足を踏んでいる一行に構わず一歩入り口の中に足を踏み入れた。


「おい!早まるな!」


アークスが止めようと手を伸ばすが、一歩遅かった。


ガコン


「え、、?」


自らの足が何かを踏み付けた。

恐る恐る右足を見ると足元の一部が凹んでいる。リィンフォルトが涙目で後ろを振り向いた瞬間。


地面が抜けた。


「キャーーーー」

「ヒィィィ」

「ギャーーー」

「アアァァー」


それぞれいきなり訪れた浮遊感に悲鳴を上げながら、一行は抗う間も無く穴に落ちていく。


誰かが看板をよく調べていればその下に何か書いてある事に気付いただろう。そしてアークスが此れを呼んでいれば中に入るのを止めたに違いない。


【メルの遺跡

この先進んだら戻ってこれないよ。

本当の入り口は別にあるけどスリルが欲しい人はこっちがオススメ!

でも、中は自信作のトラップで一杯だから気を付けてね。命を失っても恨まないで欲しいな。あ、死んじゃったら無理か!

でも奥まで辿り着いたらご褒美あげる。

管理人:メルクリアス】


*


「いたた、、」


「みんな大丈夫か??」


アークスがクリスティナ皇女の無事を確認する。リィンフォルトもフィーも無事だ。


「これは戻れないな。空を飛べる魔法があれば別だが、、」


落ちてきた穴を見上げると、上の方に小さく光が見える。相当下に落とされた様だ。


「わ、悪かったわよ。だってあんな風になるなんて思わなかったんだもの。」


「姫様もすみません。」


リィンフォルトが殊勝にも謝っている。

流石に軽率な行動だったと反省しているのだろう。


「私もよく調べもせずに姫様を連れてきてしまいましたから同罪です。」


リィンフェルトの横でフィーも項垂れている。


「過ぎた事は仕方ない。問題はこれからどうするのかだ。姫はどう思いますか?」


「え?ああ、そうね、先に進みましょう。」


「姫様??聞いてました?」


何か考え事をしている様子のクリスティナ皇女にアークスが何かあったのかと尋ねると。


「いや、不謹慎なんだけど、冒険みたいで少しワクワクするなぁ、、って。」


(ああ、この人もこういう人だった。)


普段皇女という仮面を被ってしっかり者にみえるが、実際は天然だし、好奇心旺盛で向こう見ずの所がある。少しリィンフォルトに似てるのだ。アークスは自分がしっかりしなければと思い直すのであった。


「とりあえず先に進みましょう。何があるのか分からない、むやみやたらに壁に触らない様に。フィー頼めるか?」


フィーはスカウトだ。

元々こうゆう時の為に派遣された人材である。トラップの察知や解除。探知魔法の類やマッピングまでこなす。


「はい、皆さん私の後ろをついて来て下さい。」


*


ピチャン、ピチャン、


天井から滴る水滴が地面に落ちて弾ける音が響く。先程からずっと直線の道だ。かれこれ1時間は歩いている。魔法によって照らされた通路には、罠らしき物も見つからない、ただ真っ直ぐの道に見える。


「ねぇ、フィー。これまだ続くの?」


とうとう我慢出来なくなったのかリィンフォルトがフィーに不満の声を上げ始める。


「リィンちゃん、、我慢して下さい。後変な所触っちゃダメですよ。」


大人と子供だ。

リィンフォルトは玩具に飽きた子供の様に文句を言い、それを上手にフィーが嗜めている。


「なぁ、姫様。この2人昔からこうなのか?」


アークスが目の前を歩くクリスティナ皇女にそっと尋ねる。


「ん?ええ、この2人は幼馴染みで、学院でもずっと一緒だった。リィンフォルトが突っ走って、それをフィーがフォローする。まぁ今と変わらないわね。」


なるほど合点がいく。実際良いコンビなんだろう。


そして更に30分程何も無い通路を歩いた所で行き止まりにぶつかった。


「ちょっと、あれだけ歩かされて、結局行き止まり?」


リィンフォルトが行き止まりの壁を所構わずペシペシ叩いている。


「ねぇ、リィンちゃん、あんまし…」


ガコン


「ふぎゃ!?」


フィーがあんまし触らない方が、、と言い掛けた途端に壁の一部がクルリと回転してリィンフォルトも一緒に壁の奥に吸い込まれていく。


「またかよ、、、」


アークスは頭を抱えながらもクリスティナ皇女とフィーと目合わせしてリィンフォルトが吸い込まれた壁を調べる。


同じ様に壁の一部が回転する。

アークス達は壁の向こう側に辿り着くと、自らの体重を支える足場が無い事に気付く。


また、落とし穴だった。


「こんなの分かる訳ねぇだろぉぉ」


アークス達は叫びながら、またまた無慈悲にも地下深くに落とされていくのであった。


*


「イタタ、、」


「みんな大丈夫、、、か!?」


アークスは全員の安否を確認しようとした所で、手にとても柔らかい物を掴んでいる事に気付いた。


(なんだこれ?)


手を動かしてみる。

掌に丁度収まる位の大きさで、触っているととても心地が良い。何度も動かしていると。


「ん、ん!いや。」


声が聞こえる。


(こ、これは!!)


「アークス、、お前何してるんだ、、」


後ろから魔法の光で照らされる。

リィンフォルトとフィーが此方を射抜く様な目で睨んでる。


そして恐る恐る下を見ると。

顔を真っ赤にして涙目になっているクリスティナ皇女が居た。


「こ、これは違うんだ!」


そうは言いつつ、手は無意識に動いてしまう。


「あ、、ん!」


「さっさとその手を離しなさい!!」


リィンフォルトから怒りの鉄拳が飛んで来た。その拳は一直線にアークスの頬にクリーンヒットする。


「あぶっ、、」


どんな馬鹿力なのか、アークスの体が吹っ飛んで壁に激突する。


「いたた、、何するんだよ!」


「この変態!!どさくさに紛れて姫様にエッチな事するなんて、、変態!」


「アークスさん、エッチです。。」


リィンフォルトとフィーが責め立ててくる。


不可抗力だ!確かにとっさに姫を庇おうとして、たまたまあの体勢になってしまったが。



「姫様、、これは、」


パシン!


言い訳を言おうとして、思い切りビンタされた。


涙目で此方を睨んでいる。


「アークス君、、エッチ。」


(これは何を言っても無駄な奴だ、。)


「はい、すみませんでした。」


素直に頭を下げる事にした。


*


ギスギスした空気が漂いつつも一行は前に進む。アークスは赤く腫れた頬を撫でつつ。

一番後ろを歩いている。目の前を歩くクリスティナ皇女はご機嫌斜めだ。


「姫様、、?」


「ふん!」


右後ろから顔を覗こうと左に逸らされる。

次は左後ろから覗こうとすると、右に逸らされた。


(はぁ、、、)


「皆さん、やっと違う景色が出て来ました。」


前を行くフィーが何か見つけたらしい。

目先の問題はとりあえず棚上げして、フィーの隣まで前に出る。


そこに広がる空間は正に迷宮と呼ぶにふさわしい所であった。

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