第18話 メルの遺跡迷宮6
黒き竜が天に向かって登っている。
大きな翼をはためかせ、グングンと登っていく。どこまで登っても見渡す壁は真っ白のままだ。どこまで続いているのかも分からないが、竜はお構いなしに上昇を続けた。
「なぁ、あんた。パルパテムだったか⁈俺の事知っている様だったが、会ったことあるのか?」
パルパテムがアークスの声に反応して振り向いてくる。
「我は其方と天界で一度会っておる。覚えておらぬか?」
小さい頃色々なドラゴンと引き合わされた事は覚えているが、子供ながらに思った事は色が違うのと体の大きさが違う位で、後は同じに見えていた。なので全く記憶に無い。
勿論身近に居た数匹のドラゴンの事は見分けがつくのだが。
「えっとすまない。」
「まぁ、一度しか会っておらぬし、其方は小さかったからな。我も其方の力を見るまで気付かなんだ。」
「さぁ、そろそろ到着するぞ。捕まっていろ!」
進行方向に黒い影の様な円の物体が見える。
辺りには他に何も無い。まさかとは思うがこれに突っ込むつもりかと思った矢先。パルパテムはスピードを落とす事なく、黒い丸に突っ込んだ。
*
黒い円形の物体に突入した後、真っ暗で何も見えない空間が暫く続き、奥に光が見えたと思った途端に、一気に周りの景色が変わった。
パルパテムの背に乗っていた筈の俺達は、見覚えの無い部屋の片隅に立っていた。いつの間にかパルパテムの姿は何処にも無い。
こじんまりとした部屋だ。手前右側に階段が見える。上から降りてくる為の階段である事から、もしかしたら正規ルートなのかもしれない。これ以上下に行く階段も通路も見えない事から、どうやらこの部屋が遺跡のゴールの様だ。
周りの壁は竜族の言葉で埋め尽くされており、何かのレリーフの様な物が幾つか飾ってある。真ん中には台座があり、赤色のオーブが飾られている。
「なにあれ、、?アークス君なんて書いてあるか分かるの?」
クリスティナ皇女、リィンフォルト、フィーも壁一面に書かれた文字やレリーフの文字は読めない。特殊な竜言語で書かれている為無理もない。
「ちょっと待って下さい、えーと、なになに。」
《黒き神と白き神の戦いは、白き神と焔の巨人によって平定された。白き神は神器でもって黒き神を5つに分けて封印す。》
レリーフには竜族と魔族との激しい争いとを描き、最後には竜族の神が魔族の神を破る所迄描かれていた。
「これは、、聞いた事があるわ。皇家にも同じ話が伝わってる。たしか、魔族の神は5つに分たれ今も世界の何処かで封印されていて、竜族は今もそれをずっと守り続けている。だったかしら。」
その時声が響いてきた。
白い部屋に入った時最初に聞いた声だ。
「その通りです。よく此処まで辿り着きました。私はあなた方を攻略者として認めましょう。」
目の前に燃える様な真っ赤な髪に、純白のドレスを着た女性が現れた。肌は透き通る様な白さで、この世のものとは思えない異質な美しさを感じる。そして俺はこの女性に見覚えがあった。
「母さん、、、」
「どうして、、?」
「久しぶりね、アークス。3年ぶりかしら。」
紅い女性を母と呼ぶアークス。
急な展開についていけない女性陣。
その空気を破ったのはリィンフォルトだった。
「ちょっと、アークス。その女性は誰?それに今お母さんって言わなかった?」
白い女性がふわりと跳ねる様にアークスを抱きしめる。そして、それを見せつける様に微笑みながら、リィンフォルトの問いに答えた。
「そうよ、私はアークスの母。そしてこの遺跡の管理者でもあるわ。」
「ちょっと待ってくれ、母さん。母さんがこの遺跡の管理者?このふざけた遺跡を作ったのか貴女なのか!?」
抱きついてきたメルクリアスを押し除けながら、アークスは問いただす。
「そうよ、楽しかったでしょ♪」
メルクリアスが悪戯っ子の様な笑みを浮かべているのを見ると、母であれば仕方ない何処か思ってしまう。思えば昔から悪戯が好きな人だった。
だが他の女性陣はそう思わなかったらしい。
「ちょ、ちょっと!なんでアークスは怒らないのよ!あんな目に合わされたのに!」
「じゃあ、私が代わりに文句言ってやるわ!」
そう言いながら、リィンフォルトがメルクリアスに詰め寄る。後ろからフィーまで援護射撃をしていた。クリスティナ皇女はというと、何か後ろでモジモジしている。
(あ、あの女性がアークス君のお母様。どうしよう、ちゃんと挨拶しないといけないわよね。でも私今ボロボロだし、変な女だと思われないかしら。あぁ、なんでこんな時に。)
1人で頭を抱えたり考えこんだり忙しそうだ。
(姫様、なにしてるんだ、、?)
「あぁ、もう煩いわね。小娘達!貴女達がアークスの何か知らないけど、アークスは私の物なの。それに何で周りに女の子しかいないのよ、、、、ブツブツ。」
メルクリアスはそう言い放ちながら、またもやアークスの頭を抱きに手を伸ばすが、それを煩わしそうに叩きながら、アークスはメルクリアスにこの遺跡が何かを尋ねた。
「母さん、遊びはそこまでにして、そろそろこの遺跡が何なのか教えてくれ。それに母さんが管理者?そんな事聞いたことない。」
「つれないわね、、まぁいいわ。」
「貴方達、この遺跡の裏ルートから来たんでしょ?元々あのルートはお遊びで作った場所なの。まぁ、暇つぶしね。」
「後、この遺跡だけど、そこのレリーフ見たでしょ?此処には神器が安置されてるの。そして私はその管理人。そこの台座に宝玉があるでしょ?あれは神器エーテル。」
そう言いながらメルクリアスは神器をその手に取り、アークス一行を鋭く観察すると、一番後ろにいたクリスティナ皇女に手渡した。
「はい、これで私のお仕事は終わり。」
「あ、あのアークス君のお母様?これは?」
「貴女が一番適性があるわ。その宝玉を持って念じなさい。貴女に一番適した形に変わるから。」
メルクリアスの言葉に従って念じると、宝玉が光り始め、徐々にその姿を変え始める。
光が収まった頃には、一振りの杖に変わっていた。
「神器エーテルホライズン、魔神に対する切札の一つよ。攻略者たるあなた達に託します。魔神を復活させようと魔族の動きが活発になっています。世界中に散らばる神器を集めなさい。」
先程までの軽い空気が一変する。
メルクリアスは真剣な表情で遺跡の攻略者たるアークス達に使命を伝え、次なる目的地を示した。
「此処より西、アーベスト山脈の奥深く霧深い谷の底に行きなさい。そこに次の試練が待っているわ。」
最後にアークスの方を向いて、微笑むと一言。
「アークス、一度龍人族の国に来なさい。貴方に渡したい物がある。」
そう言って光の粒になって消えてしまった。
「一体何だったんだ、、、」
リィンフォルトが未だに意味が分からないとばかりに呆けた顔をしている。フィーが何とか理解させようと最初から説明しているのが微笑ましい。
「アークス君、魔族の目的はこの神器だったのね。」
クリスティナ皇女が杖を大切に抱きながら、近づいてくる。
「姫様、、俺の母がすみません。最初から知っていれば、姫を危険な目には合わせなかったのに。」
「いいのよ。これも試練って奴なんでしょ?それに魔神の復活、魔族の目的が分かったわ。これは大きな収穫よ。早くお父様に伝えないと。」
《警告!この遺跡は後20分後に消滅します。警告!この遺跡は後20分後に消滅します。速やかに脱出して下さい。》
警告音が大音量で鳴り響く。
遺跡全体が地震の様に揺れ始め、壁の一部が崩落し始めた。
「な、なになになに?」
リィンフォルトとフィーが抱き合いながら辺りを見回して混乱している。
「あ、あんの、馬鹿母!最後に大切な事を言い忘れたな!」
そう言いながら部屋中を探す。
必ず脱出する為の装置がある筈と信じて。
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