第7話 7魔将

キリバスの街より300キロメル南

旧南部諸王国 魚人の街 エスパス


南部諸王国は、一つ一つの街自体が独立した自治権を持っており、街の有力者による合議制で統治されている。その中でも最も早く魔族に攻め落とされた街なエスパスである。今は魔族側の一大拠点となっていた。


元々は魚人族が治めていた海に面する美しい街であり、所々に運河が敷かれ、交易の要所として様々な種族が訪れ、全国津々浦々の交易品で溢れていた。


それもかつての栄光。

現在は、魚人族をはじめとしたかつての住人は奴隷として労役を課せられている。

街の至る所に魔族の兵士が巡回している。


街の真ん中に一際大きい建物がある。

かつて町人達の代表達が政治を行なっていた議事堂だ。


今は魔族の中央司令部となっていた。


「それでオメオメと逃げ帰って来たわけね。七魔将の名が泣くわねツァトゥグ。」


7体の魔族が円卓を囲んでいる。


左上から

爆炎のクトゥグワ

大海のムナガラー

金色のファロール

暴風のツァトゥグ

魅惑のナイアーラトテップ

無形のアザトース

そして、7魔将の長

英知のヨグ=ソトース


「クトゥグワ、確かに此度の敗戦は我が軍の責任。だが其方も魔神様の遺骸を探す任務はどうしたのだ?」


「ふん、わたくしの任務は貴方と違って時間が掛かるの。今回は貴方が負け帰って来たせいで呼び戻されたのよ。」


「くっ、」


クトゥグワとツァトゥグは円卓を挟んでお互いに睨み合っている。余裕のある笑みを浮かべるクトゥグワとは対照的にツァトゥグは悔しさを滲ませている。


「そこまでだ、今回其方らを呼び戻したのはいがみ合わせる為ではない。」


長であるヨグ=ソトースの言葉で言い合っていた2人が押し黙る。


「ツァトゥグの敗戦は確かに我らに少なくない痛手じゃ。人間共を勢いづかせる懸念もある。それよりじゃ、ツァトゥグからの報告で気になる事がある。」


「今回の戦いは我も作戦に絡んでおる。我らの勝利は戦力差からいっても揺るがなかった筈じゃ、それが覆された。」


「このエスパスからも感じた魔力の波動。

奴らの中で極大魔法が使われた形跡があるのだ。」



極大魔法という言葉に魔将達の表情が変わる。


「どう言う事だ。人間共の魔法最高位、北の竜神族の賢者ですら帝級の魔法を使うのがやっとの筈では無かったのか?」


金色のファロールが、腕を組みながら、片目だけをヨグ=ソトースに向けて問い掛ける。


「その筈だ。我の使い魔共は人間の国々に密偵として入り込んでおる。そこから得た情報を元に人間共の戦力を我が分析しておるのだ、間違いはない。」


「ですが、実際に今回人間共は極大魔法を使ったのでありんしょ?」


そう発言するのは魅惑のナイアーラトテップだ。


「そう、だからイレギュラーが発生したと考えるべきである。そして此れは我らにとって無視出来ないものである可能性が非常に高い。だからこそ、調べる必要がある。」


魔族の中でも極大魔法を使えるのは、此処にいる7魔将のみ。かつ単独で使えるのはヨグ=ソトースただ1人だ。他は武器による補助が無ければ発動すら難しい。


「今回我の部隊は、人間どもを敗戦寸前まで追い詰めていた。だがたった1人、あの黒髪のガキが現れた瞬間、流れが全て変わってしまった。」


「赤い炎の剣を振るい、想像を絶する威力の炎の魔法を我の部隊に撃ち込んできおった。その後は説明する迄もないな、指揮系統も何もかも混乱に落ちた部隊の命運は決まっておる。」


ツァトゥグが悔しそうに拳を握り締めながら、今回の敗因を皆に説明する。


「あの威力、間違いなく極大魔法だ。それ以外に考えられん。」


「と、言うわけだ。その黒髪の人間が、何者なのか至急調べる必要がある。ナイアーラトテップ。其方に頼みたいのだが。」


ナイアーラトテップはサキュバスの種族特性を持つ。異性に対する魅了の効果は絶大だ。

そらこそ一つの街を彼女の魅了の能力で落とした事すらある。


「問題ありませんわ。わっちに任せて下さいまし。」



「うむ、必要な物があれば自由に使うといい。ほかの7魔将の力を借りても良い。我が許す。」


「それは良きで御座いますなぁ。では、アザトースさんに力を貸してもらいまひょか。」


「構わない。俺は何をすれば良い?」


いまいち表情が読めないのが無形のアザトースだ。その名の通り決まった形を持たない。今は深いフードを被っており人間の様な姿だが、その正体はスライムだ。


どんな物にでも擬態出来るし、その体は強烈な酸性も有しており、取り込まれれば一巻の終わりだ。


「では、頼んだぞ。」


各魔将は立ち上がると持っていたワインを一気に飲み干して、グラスごと投げ捨てた。


「我らが神の復活の為に。」

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