第5話 キリバスの戦い
竜王暦360年2月7日
サイラス遺跡の戦いより3年後
南部諸王国領 商都キリバス近郊
亜種人類同盟軍
「まだか!?救援はまだ来ないのか?」
現場指揮官らしき人物が声を上げている。それに応える士官らしき人物の声も弱々しい。状況は最悪の様だ。
南部諸王国南のランドール陥落から2年だぞ、ここキリバスが落ちれば南部は魔族側の手に落ちる。この砦は絶対に死守せねばならんのだ、今後の趨勢が掛かっている。
現場指揮官が下士官に激を飛ばす。
それでも、この街を守る人類軍の劣勢に変わりはない。人類軍5万に対し、魔族軍は約10万。しかも此処の力は魔族のほうが強大なのだ。彼我の戦力差は絶望的。
皆の心が折れ始め、諦めかけたその時。
突如戦場全体に声が響き渡る。
とても美しく、且つ力が込められた声だ。
「諦めてはなりません!私達はこの大陸に住う全てを守る剣であり盾なのです。そして私たちの背には皆の家族が恋人が友人が居ます。邪悪な魔族達をここから先に通す訳にはいかないのです。」
この3年間で人類は多くの土地を攻め滅ぼされていた。それに等しく数え切れない犠牲者も。多くの人々が家族を恋人を愛すべき隣人を亡くしていた。
魔族側の攻撃は苛烈を極め、此処の戦力で劣る亜種人類側は徐々にその勢力圏を狭めていた。魔族は大陸の南の国々を滅ぼし、支配を固めていた。
それでも負ける訳にはいかないと奮い立つ者達が居た。
「誇り高き将兵達よ、今こそ我ら皇国騎士の勇気が試される時だ。敵は強大、されど我らの背には故国がある。良いか、引けば其方らの家が、家族があの憎き魔族共に蹂躙されようぞ。」
魔族軍は既に商都キリバスの眼前にまで迫り、既に幾つかの砦は攻め落とされている。残るはこのキリバスを守る城壁だけなのだ。
そして、時を見計らったかの様に、この同盟軍に希望の増援が現れる。かつてアークスと出会った少女クリスティナ第3皇女だ。
3年間という月日は、少女を大人にするのに充分だった様で、手足は伸び更に子供っぽいあどけなさは無くなり、美しく成長していた。
1人の女性が飛龍に乗って砦に降り立つ。
「そんな事は断じて、断じて認める訳にはいかん。我らは国を、家族を守る為に此処にある。私に其方らの力を貸してくれ、あの強大な敵を討ち滅ぼす、其方らの勇気を!」
《イエス、マム!》
《イエス、マム!》
《イエス、マム!》
鎧を来た将兵達が一斉に声を上げて、自らの武器を空に掲げる。轟く雄叫びは、聞いている此方が震え上がる程だ。
士気は十分に高まった。
後はこの状況を打破できる何にも負けない一条の炎さえ有れば。
クリスティナ皇女は自らの剣を引き抜き、空に掲げる。そして叫んだ。
「アークス!!」
そしてまた1人空から降り立つ男の姿がある。
まだ年の頃は10代半ば位の青年だろうか。
彼もまたその手に赤き剣を携えている。
そして力任せに振るった。
赤き刀身から燃え盛る炎が発生し、周囲の魔族を焼き払う。
「焼き払えレーヴァンテイン、お前の力を見せてみろ。」
レーヴァンテインから魔法陣が幾重にも重なり、巨大な五芒星を形作る。徐々に周辺の温度が上昇し始め、地鳴りの様な音が木霊する。音が止んだと思った瞬間、極太の炎がレーザー光線の様に魔族の軍勢を貫いた。
魔族側が咄嗟に張った幾つかの防御術式も意味を成さない。少しもその進行を堰き止める事は出来ず砕け散った。
炎が過ぎた後には何も残らない。灰すら全て浄土に帰す。竜族が操る破壊魔法。
炎は敵陣深くまで切り込み、約3割の魔族を葬り去って霧散していった。
「さぁ、我らが英雄が道を切り開いたぞ!今こそが勝機、全軍突撃せよ!」
クリスティナ皇女の号令で兵士達は一気に士気を最高潮に引き上げる。勢いそのままに敵陣にむけて
それを見た兵士達は一斉に士気を上げて、
敵陣に向けて突貫する。
勢いに乗った敵は恐ろしい。
力の差があっても易々と覆してしまう。
一方の魔族側は先程アークスが放った魔術に恐れを抱き、士気は恐ろしく下がっていた。
この時に既に勝敗は決していたのだろう。
数時間後、魔族側はその半数を失うという大損害を受けて撤退を余儀なくされた。
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