第2章―戦いの砲火―4

「恐らくだが、アザゼルの本当の狙いはあの古代の機体だ。あの機体には、今だかつて無いほどの優れた高度な文明の技術が施されている……! あの機体が敵に奪取されたら我等にとって危険で厄介な存在になるのは間違いない。これが地下A―13区域のアポカリュプシスのカードキーだ。中には、例の機体が奥に隠されている。輸送機のシステムを作動させてお前の戦艦に移せ!」


そう言って冴嶋は黙ってカードキーを彼の右手に力強く託した。グラギウスは、彼からアポカリュプシスのカードキーと思いを一緒に託された。


「――これが、あのアポカリュプシスの鍵。冴嶋総司令官。いいえ、父さん……! 貴方の思いは私が必ず成し遂げてみせます!」


 そう言ってグラギウスは彼を前に敬礼をした。冴嶋はグラギウスの言葉に驚くと、思わず唖然となりながら立ち尽くした。


「……驚いたな。まさかお前の口から、父さんと聞く日がくるなんて。こんな私が『父』だとお前は認めると言うのか?」


冴嶋はグラギウスの方を黙って見つめた。沈黙に包まれる中で、親子は互いに言葉を詰まられた。そして、沈黙を破るように。彼に向かってありのままを口にした。


「私もお前のことを自分の『息子』だと、心から思うぞ……!」


 冴嶋は彼に向かってそう言い残すとグラギウスの左肩にそっと自分の手を置いた。そして、真っ直ぐな瞳で最後に自分の思いを伝えた。


「行け、グラギウス! 例えこの先に何があろうとも決して振り向かずに前だけを見て進むんだ! それが父である私からのメッセージだ…――!」


そう言うと彼の目を見ながらその場で力強く敬礼をした。そんな父の勇姿ある姿を見てグラギウスは最後に一言、自分の思いを彼に伝えた。


「私も貴方が父さんで良かったです。貴方に女神イヴの加護と勝利の福音を…――!」


 そう言ってグラギウスは、最後に父の前で一礼すると振り向かずに足早やに走り去った。静けさが漂う廊下からは誰かが走り去って行く足の靴音だけが虚しく響き渡った。地上からは轟音と地響きが地下まで伝わって聞こえた。その音はまさに死への行進曲のようだった。


 その音が近づくにつれ、ラケシスの基地本部はさらなる絶望感に打ちのめされた。しかし、冴嶋の心は静寂に包まれた世界に溶け込むと何も聞こえていなかった。ただ彼の耳には、走り去る足の靴音だけが耳と心に響き渡った。そして、何かが吹っ切れたかのように最後呟いた。


「それでいい…――」


 そう言って誰もいない廊下に一人佇んで、宙を見上げて思いを断ち切った。

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