それとそれを結ぶ者

@pompompanda

第1話

 水槽の中、一匹の魚がこっちをみている。その魚は他の魚とは色が違いまるでひとり孤立しているかのように感じた。

 祭りの帰り、カップルや学生、リア充が8割を占めている電車に乗った。一人でいる俺はまるで罰ゲームを受けているのではないかという気持ちになったときのこと。


「ねえねえあの人かっこよくない?」


背後から僅かに聞こえる女子高生の声、まさか俺のことではないよな、もし来たとしても俺にとっても君たちにとっても夏に似合わぬブルーな気持ちになるのでやめてくれないか、いや家に帰って泣くのは俺だけで彼女達は3分後には忘れているだろう。


 スタッスタッと背後から聞こえる足音、どうやら俺が思っていた通りの展開になりそうだ。いや待て普段ならここで敗北する俺だが、今日はなんつたって「忍野○○」と同じアロハシャツという陽服を着ているのだ。イける、確信した。


 「ゆみー、どうだった?」


 「まじでブサメンだったわ、なんであの人アロハシャツなんて着てるのかと思うぐらいでさ プッ」


 確かにそうだ。金を払って自分で買った服。しかしお前なんか主人としては認めないと思ってる服もあるだろう。アロハシャツの破壊力なめんな、モテる奴が来てようやく首輪つけられる狂犬だ。こなきゃよかった祭りなんて。


 ヴィーツクツク、ヴィーツクツク。1週間、いやもっと生かせろやと奴は今日も荒々しく命乞いをする。死ぬことよりも死んだ後忘れられることのほうが怖い。だから俺は小説を書く。


 小説家とは主に考え続ける職業だ。回転寿司のように毎回違うネタが降りてくればいいがそんなことがあればそもそも小説家なんてのは存在しなくてもいいのかも。


 「あーあちぃー、なーんも思いつかん!なんで芸能人は賞取れんのに俺にはくれんのがや」

  

 「ぐぅぅぅゔ」


 奴の音とミックスするように腹の音がなった。朝飯を買い忘れたのを思い出し、近所のコンビニへ行くことにした。


 私語を慎まない店員二人。こーなるとどのタイミングでカップコーヒーを頼めばいいのか分からなくなる。今日はやめとくか、いやこのままやめれば俺の朝食満足パーセンテージは50パーセントのままだ。その後の労働にも関わってくる。働いてないけど。


 「あの、すみませんコーヒーを」


 「はいどーぞ」


 店員はその言葉と同時に隣にいるもう一人の店員と私語を始めた。

 俺と店員と距離を考えればそれは明らかに聞こえていたはずだった。

 こいつなら面倒だから無視すればいいやと思われたのだろうか、ただたんに俺の声が届いてなかったのか。俺は考えるのをやめた。

 

 結論、輪の中にいるのが正解なら俺は永遠に間違ったまま生きるだろう。だが俺は魚ではない人間だ。



 

 

 

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