第1楽章 少女は唄う
第0節
(私の人生って何だったんだろう……)
荒れ狂う漆黒の海原の波が船を襲い、一人の少女が巻き込まれ。
少女は朦朧とする意識の中で、今に至るまでの記憶を蘇らせていました。
(外の世界に出れば何か変わると思ったんだけどな)
とある施設で育った少女は、成人を迎える十五歳になるまで、その施設から一歩も出たことがありませんでした。
(本で見た景色を見てみたかったな)
少女の知る外界は、施設にあった書物に書かれていた事柄のみの知識でありまして、実物を見たことがございません。
(人間以外の種族もいるんだよね)
そのためまだ見たことのない景色や異民にも興味を示しておりました。
(でも、それも見られないまま終わっちゃうんだ……)
少女の瞳から零れるはずの涙は、周囲の海水に溶けて消えさりました。
(変わるどころか始まりすらしなかったな……)
念願の外界へ旅立ちをした少女に降り掛かったのは、明るい未来への兆しではなく、未来を閉ざす漆黒の闇でした。
(もう……、だめ…………)
そして少女の意識が失いかけた、そのとき──
「♩♪~♫~♪♩~♩♩♪♩♪~♫~♫♩~♩♩♫~♫」
どこからともなく歌声が聞こえてきたのでございます。
(……うた、ごえ?)
嵐に見舞われた海の中であっても、はっきりと聞こえてくる歌声に、少女は僅かながら意識を取り戻し。
(そういえば、海にまつわる異民の話を聞いたっけ)
と、まだ何事も起きていなかった、平穏な日中の出来事を思い出しました。
それは、大海を航海するうえで起こりえる障害の一つ。
上半身が人の女性と何ら変わりなく、しかし下半身が魚の尾の形をして、船旅をしている人々を歌声で混乱させて恐怖に落とす異民の存在にございます。
(なんか……安心するな…………)
人々に害をなす歌声であるはずなのに、少女はその旋律に心地良さを覚えまして。
そのまま意識を失い、海の底へと沈んでいくのでした。
「♪♩~♩♫♩~♩♪~♩♩♩♪♩~♩♪♩♩~♩♪♩♩♪~♪♩♫~♪♫」
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