異民の詩

高島音夜

序奏

 お集りの皆様、私のようなものに目をかけていただきありがとうございます。


 先ずは自己紹介を。

 私の名はシレーヌ。しがない吟遊詩人でございます。


 さて本日皆様にお聞かせする曲は遥か昔の物語。


 まだこの世界に種族間の隔たりがあった時代のこと。


 己と違う種族を異民と厭忌し争いが絶えない世を超え、停戦の協定を結び幾ばくかの年月が流れた先のことにございます。


 種族の違いによる大きな争いこそはないものの、種族間の壁は未だに存在しておりまして、この場にいらっしゃる皆さまのように、沢山の種族が一堂に会することなどございませんでした。


 例えば、最前で仲睦まじく手をつないでいらっしゃる、そちらの人間のお兄様とワーキャットのお姉様。


 または後方でドワーフ製の髪飾りを付けていらっしゃるエルフのお嬢様。


 当時の方に、貴方たちのような種族の垣根を感じさせない方々がいる今の世の中を語りましても、きっと信じていただけないでしょう。


 戦争の傷痕は簡単に癒えるものではないのでございます。


 故に、停戦を迎えたとはいえ、この頃はまだお互いがお互いを忌み嫌い、お互いがお互いを異民と罵り、当然の如く各種族の大半はそれぞれ別の土地に散らばっておりました。


 自然豊かな土地で共存するように生活する種族あれば、草木も育たぬ劣悪な環境を好んで住まう種族あり。

 例を挙げれば際限がないほど多岐にわたり。


 ですが、そのような時代に、世界を一つにしようと立ち上がった少女が一人。

 周囲から夢想家とあざ笑われようとも、己が信念を胸に、ついにはこの世界を取りまとめたのでございます。


 おや? どうやら、疑いの目を向けられている方もいらっしゃるようで。


 確かに、皆さまが疑問に思うのも無理なき事。


 少女一人だけでしたら、世界を一つにまとめるという偉業を成し遂げることはできなかったでしょう。


 お察しの通り、少女には道を共にする仲間がおりました。


 彼女は人間と称する人族の出身にございますが、数々の異民と触れ合い、心を通わせてきたのでございます。 

 

 ではいかにして少女たちが種族の壁をなくし、今いらっしゃる皆さまのような分け隔てのない世の中に変えたのか、その道筋を皆さまにお聞きいただきたいと存じます。 


 


 それではご鑑賞くださいませ。


 異民の詩を──


 

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