9 天の渦

 天の渦 ……それは死者の世界? 魂の形が作り出す大空の中にある世界?


 あるいは、それはいろんな人の感情の渦の集合体? 災いを呼ぶもの? 災いそのもの? あるいは、それは祝福なのかもしれない。私を、ううん。私たちを、このきっと醜い(見たことないから実際にはどうなのか、わからないけど)人の心の牢獄の中から解放してくれるものなのかもしれない。


 あるいは、……それは神様からの罰、なのかもしれない。


 青野花の実家


 花花は考える。


 占いの結果は、……塔。


 破滅。それは最悪の結果だった。


 花花はなんだかとてもいやな予感がして、清から話を聞いたあとに、個人的にもう一度、清のことを占ってみた。


 すると占いの結果は最悪なものになった。


 そして、それと同時に、花花は、ある不思議なイメージのようなものを、その頭の中に感じ取った。


 それは、大空の中にある『巨大な雲の渦』だった。


 台風とは少し違う、もっとうねりを持った、(うねり、つまり渦を巻くことを目的としているような巨大な雲の渦だった)自然の法則によって生み出されているようには、思えない、もっと巨大ななにか特別な力のようなものを持っている、そんな感じを受ける、あまりいい感じのしない恐ろしい渦だった。


 花花はそこでイメージを閉じた。


 これ以上、イメージを見続けていると、自分の心が『その渦の中に飲み込まれてしまう』ような、恐怖に近い感情を抱いたからだった。


「はぁー。相変わらず、厄介なものを背負いこんでいるね。君はさ」と占いを終えて、占い師花花からいつものどこにでもいる女子高生、青野花に戻った花は、自室の天井を見上げてそんなことをつぶやいた。


 それから少し心と体を休ませたあとで、花は自分の見た空の中にある渦のイメージを、スケッチブックに鉛筆でスケッチしてみた。


 それは、自分でも思っている以上によくかけた。


 花花は清の占いの結果から導き出された、この空の中にある巨大な渦に『天の渦(てんのうず)』という名前をつけた。


 天の渦。


 この渦を生み出しているのは、……誰? もしかして、清。あなた自身なの?


 そんなことを花は自問自答する。


 でももちろん、誰も花の疑問に答えてくれる人はいなかった。


 花はお風呂に入るために着替えのパジャマと下着を持って、自分の部屋をあとにした。

 ぱたんと花の自室のドアが閉まると、花の勉強机の上にあった天の渦のスケッチが、不気味に少しだけ、動いた(あるいは、動き始めた)ような気がした。

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