2 巨大な渦の塊

 巨大な渦の塊


 その日、私の見る世界は明るい光で満たされていた。……今とは違って、確かに世界はとても綺麗に、美しく輝いているように見えた。まるで夜明けのような、あるいは目覚めのような風景のように。

 ……それは、本当に美しい景色だった。(その証拠に、私はずっと泣いていた。そんな美しい風景を見て、ただ泣いていたのだった)


 ……ちゃんと家に帰ろう。

 きちんとね。……みんな、心配するからさ。(うん。わかった。と私はあなたにそう言った)


 ……あの日、子供のころ。もっとずっと小さなころ。私は最強だった。


 なんだって、できると思った。世界だって救えると思った。あのころの私は、……きっと世界を信じていた。私は明るい未来をただじっと待つようにして信じることができていた。私は、あなたを信じていた。あの日の、……私は、……私を信じていた。(信じることができていた。今思えば、信じられないことだけど。本当に、奇跡みたいな時間だったのだけど……)


 空を見上げる。(空にはなにもありませんよ)


 ある日、突然、私は不思議な迷路の中に迷い込む。


 ここはいったいどこだろう? (私は今、どこにいるんだろう?)


 ある日、突然、春日清が迷い込んだ道は思ったよりも、複雑で脱出することが困難な(まるで迷宮のような)曲がりくねった道だった。

 きっかけは、『足を怪我した』ことだった。

 最初、清はその怪我をあまり大きな怪我だとは思っていはいなかった。でもその足の怪我は、清が思っていたよりもずっと、大きな(本当に大きな)怪我だった。(清のことを、とても深く、そして、とても強く傷つけていた、とても大きな怪我だった)


 清は子供のころからずっと続けてきた陸上を続けることができなくなった。

 それだけではなくて、普通に走ることも、……それから、いつの間にか、気がついたら、うまく歩くこともできなくなってしまったのだ。(つまり、歩きかたを忘れてしまったのだ)

 清はびっこを引いて、『不器用な姿勢で、道の上を歩く』ようになった。

 そのことを(友達はみんなすごく心配してくれたけど、清は全然たいしたことないって顔をしていたのだけど)清はすごく気にしていた。(……決して、口には出さなかったけど)


「清、どうかしたの? さっきからずっとぼーっとしているよ。それにずっと空を見ている。空になにかあるの?」心配そうな顔をして五月が言う。


「ううん。なんでもない。それに、『空にはなんにもない』よ」と清はにっこりと笑って五月に言った。


 五月はちらっと一瞬、清の引きずっている片方の足を見た。(なるべく自然に。清に絶対に気づかれないように)それから清の顔を見て「……そっか。なら別にいいんだけどさ」といつもの明るい笑顔で清に言った。

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