第6話「フォーディルナイト・クロニクル その3」
「ダイエット?」
僕らは花音会長の家に招待され、自前の編集部屋にやって来た。この部屋も十分衝撃的だけど、僕らは凛奈ちゃんが話してくれたことに驚いた。
「うん、最近太ったんじゃないかと思ってね。だから花音ちゃんが戦闘シーンを多く取り入れた異世界ファンタジー映画を撮らないかって提案したの」
「そこでたくさん運動して、脂肪を燃焼しようって作戦よ。ちょうど親に誕生日プレゼントで高いビデオカメラ買ってもらったからね。映画でも作ってみようか~って話になったの」
花音ちゃんはビデオカメラをパソコンに繋ぎ、先程からキーボードをカタカタ鳴らして撮影した映像を編集をしている。凛奈ちゃんは太った(ようには見えないけど、とにかく彼女にとっては太った)体をさすりながら、再び頬を赤く染める。可愛い。
「フォーディルナイトなら目的の映画の世界観そのものだから、そこで撮影しようってことになったんだ」
「そうなんだ……」
三人でこんなすごいことをしてたんだ。僕とハルさんはその行動力に感心する。
「あ、よかったら前回撮ったシーンとか見てみる?」
「ほんと? 見る見る!」
尻尾を振る犬のように身を乗り出すハルさん。凛奈ちゃんよりも可愛い。
「マジで見るのか?」
「なんか恥ずかしいな……///」
照れる陽真君と凛奈ちゃん。可愛い。
カチッ
前回撮影した映像が始まった。
* * * * * * *
『無駄よ。アナタじゃ私に勝てない』
『んー! んー!』
凛奈が糸で木に縛り付けられてる。口は布で塞がれて、身動きもまともにとれない状態になっている。可愛い。そんな凛奈を、悪魔のような格好をした花音が捕らえている。監督本人も出演していた。しかも悪役で。
『ネヅコを返せ!』
“……ん?”
『返さないわよ。この娘はもう私のものだから』
『だったら力付くで奪い返す!』
陽真と花音は演技を続ける。しかし、聞き覚えのある名前に違和感を感じた伊織。陽真は今、凛奈のことを何と呼んだか。
『(集中しろ……呼吸を整え、最も精度の高い最後の技を繰り出せ……)』
陽真の心の中の呟きが入る。伊織の中で違和感が更に膨れ上がる。
“ちょっと待って。この台詞もどこかで聞き覚えがあるんだけど”
やがて、その違和感は一つの大きな疑念となる。ある台詞によって。
『全集中! 神の呼吸! 拾ノ型!』
“んん!?”
『森羅万象!!!』
“いや、これ……”
「鬼滅の刃のパクりじゃん!!!!!!!」
伊織の叫び声が編集部屋に響き渡る。
「え? キモ……ヤバ……何?」
テトラ星出身のハルには理解できなかった。
「鬼滅の刃、ジャンプで連載してる漫画だよ」
「そうなんだ……」
「何パクり映画作ってるんだよ! ジャンプの偉い人に怒られるよ!」
「だって物語の設定とか考えるの難しいし、今流行りのものをちょこっと真似してみたら面白くなると思って」
伊織は更に声を大にして叫ぶ。
「真似ってレベルじゃないよ! そのまんまだよ! ていうか技の名前が森羅万象って何!? おかしいでしょ! ネタ切れ感満載だよ! あと凛奈ちゃんの名前がそのまんま『ネヅコ』って問題ありでしょ! ていうか、凛奈ちゃんのダイエットのためなら凛奈ちゃんを主人公にしてあげなよ! いや主人公じゃないとしても、もう少し動きのある役にしてあげなよ! 出演する意味がないよ! あとそれから……」
「伊織君ツッコミ過ぎ!!!!!」
ドォン!!!
ハルが伊織の頭に波動弾を打ち込む。
「せっかくみんなが楽しんでるんだから、色々云うのはやめてあげようよ」
「ハルさん……ごめん」
伊織も流石に喋りすぎたと悟り、申し訳なく思う。
「楽しいかどうか微妙だったがな。俺なんか名前『ハルマジロウ』だし。アルマジロみたいで嫌だよ」
そこは漫画のまま『タンジロウ』にしろよと、なぜか心の中で再びツッコミを入れたくなった伊織だった。
「ねぇ、青樹ちゃん!」
ガシッ
花音はハルの手を勢いよく握った。
「今の何!? なんかエネルギーの塊みたいなの放ってたよね!?」
「えっと……波動弾っていって、超能力の一つで……」
「超能力使えるの!? すごい!!!」
花音は鼻息を荒くしながらハルに顔を近づけて興奮する。ここまで超能力に肯定的な驚きを見せるのは大変珍しい。
「ねぇ、青樹ちゃんも映画出てみない?」
「え?」
「剣士だけじゃなくて魔法使いも作って、あとはガーディアンとかヒーラーとかほしいわね。そしてRPGみたいな世界観の異世界ファンタジーが撮れるわ! ここにいるみんなでやりましょう! タイトルはズバリ、『フォーディルナイト・クロニクル』! おぉぉ……これはすごい映画になるわよ~♪」
壮大な計画を語り始めた花音。ハルの超能力を見て、想像力に火がついたようだ。ハルは満更でもない笑顔で花音を見つめる。
「やりましょ! 青樹ちゃん!」
「うん! 面白そう♪」
ハルは満面の笑みで答えた。
“あぁ……やっぱり一番可愛いのはハルさんだなぁ”
花音とはしゃぐハルを眺め、保護者になったような気分の伊織。陽真と凛奈も一緒になってワイワイ盛り上がっている。ハルの超能力が知れ渡る度に、新しい友達が増えていく。ハルの可能性は無限大だった。
「それじゃあよろしくね、保科君! いや、イオスケ君!」
「だから鬼滅の刃のパクリはやめい!!!」
伊織のツッコミが再び編集部屋にいるみんなを賑やかにした。
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