第22話
ある週末の夜、いつものように泊まりにきていた不死子と、ママの体の中に入って、見回り業務をしていた時、私は進捗状況を聞いてみた。
「不死子、不老の研究の方は進んでるさーか?」
「うぅぅ……全然、進んでませんわ。テロメアが短くなるのを止める物質が手に入っても、それをどのように活用すればいいのかまではさっぱり分かりません。ただ、飲めばいいというわけでもなさそうですしね」
「老化を食い止める方法は、テロメア以外はないのさーか?」
「今のところは見つかってはおりません。ちなみに本質的な解決にはなりませんが、外見上の不老対策としては紫外線を避けることがあげられます」
「紫外線?」
「紫外線が皮膚にあたると、シミや皺ができるのです」
「それ、本当なのさーか?」
「信じられないなら、ご自身の体で実験してみればいいのではありませんか? 学生のわたくし達には関係のないことですけが、年齢があがるごとに『紫外線の回避』というのはアンチエイジングにおいて重要なこととなります」
「そうなのさーか?」
「まぁ、わたくしの求めている不老対策は、そういう意味での不老対策ではないので、どうでもいいのですけどね」
それから数日後、私は高まる自身の好奇心によって、毎日のように紫外線を浴びるという実験を行った。すると本当に老け顔になった。不死子は私の顔を見ながら、眉をひそめた。
「の、法子さん……数日前から心配してましたが、それは幾らなんでも、変わり過ぎではないでしょうか……」
「実験で本当に老けるのか、毎日積極的に紫外線に当たっていたら、こんな老人顔になったさー」
私の顔にはシミが出て、皮膚が弛んでしまい、高校生にあるまじき顔になっていた。
「異常ですわー。どんだけ影響を受けやすい体質なのですか、あなたはー」
「どうしよう。不死子、助けてほしいさー。老人顔から元の顔に戻りたいさー。まだ私、高校生さー。うぇええええん。うえぇえええん」
私はついに泣き出した。不死子はそんな私を慰めた。
「大丈夫ですわ。これは皮膚老化というものなので、学生であるわたくしたちにとっては何とでもなる老化です。紫外線対策をすれば、すぐに元に戻りますから」
「本当さーね? 元に戻るさーね?」
「皮膚の新陳代謝が活発である今だからこそ問題がないのですよ。シミや弛んだ皮膚は、何とかなります。新しい細胞が作られる毎に、古い皮膚は外に押し出されて垢となって消えるのです」
「つまり、治るってことさーね」
「はい、そうです。元に戻りますわ」
「それはよかったさー」
私は安心して、胸を撫で下ろした。
「それまでは、これを使いましょうか。うむむむむ。えいや! じゃーん」
不死子は周囲に誰もいないことを確認すると、自身の裏能力を使って、薬を創造した。
「なにさー。これ?」
「これは日焼け止めです。あげますね。顔などに塗って、紫外線予防をしましょう」
「ありがとうさー」
私は不死子から日焼け止めをもらって、それを顔に塗りたくった。日焼け止めは金属製の容器に入っている。つまり彼女は薬に限定せず、他の物質も創造できるようだ。
私が日焼け止めをゴシゴシと顔に塗っていたところ突然、不死子が金切り声をあげた。
「な、なななな、何をしているのですか、法子さんっ!」
「え? 日焼け止めを塗っているだけさー」
「日焼け止めは化粧水ではありません。ごしごし塗ってはいけません」
「ええええー。でも、皮膚の細胞にしっかりと浸透させないといけないんじゃないのさーか?」
「しなくてもいいのです。日焼け止めというのは、ゴシゴシと肌になじませるように使用するのではなく、ポンポンと表皮を覆うようにして塗るものなのです」
不死子は私から日焼け止めを奪うと、私の顔にポンポンと叩きながら塗ってきた。まるで、薬を塗るというより、置くといった感じだった。とても気持ちがいい。
「気持ちいいさー」
「皮膚に刺激を与えたら、血行がよくなりますからね。はい、これでバッチリです」
「ありがとうさー。これで、元に戻るさーか?」
「あとは、食事ですね。食事の回数も大事なのですわ」
「回数?」
「一日に5食を食べればよいと聞いています」
「5食? そんなに食べたら太るさー」
「もちろん分量は、いつも食べている3食分を5回等分に分けるわけてください。なので量については変わりはありません。一応、勘違いしないように言っておきますが、普段食べている3食に、おやつと言って2食分を追加で増やすという意味ではありませんからね」
「げげげ。私の頭の中が読まれたさー。とにかくたくさん食べ物を食べて、新陳代謝を活性化させることが大事じゃないのさーか?」
「違いますね。食べることで新陳代謝が活発になるのなら、世の中のでぶっちょさんはみんな、新陳代謝が活発ということになります。3食分を5食にする理由。それは、すなわち1食に摂取する量を減らすことで『血糖値の上昇を抑える』のが狙いなのですから」
血糖値? その名前だけは聞いたことがある。
「ところで、血糖値ってなにさー?」
「血糖値というのは、一定の血の中に糖が何粒あるかという値のことです。血糖値が高ければ、糖がたくさんあることを意味していて、低ければより少ないことを意味します」
「だったら糖になりそうな食べ物は食べずに、ダイコンでも齧っていればいいさー」
「たしかに血糖値をあげない食べ物を食事のメニューにすればいいのですが、糖というのは大事なものなのです。エンジンである体を動かすためのガソリンなのですよ? なかったらどうなると思いますか?」
「ガソリンがなかったらまずいさー」
「そうです。糖はご飯とかパンとか麺とかから出来るものなので、ちゃんと摂りましょう!」
「あいさー」
糖を抜くと、それはそれで問題が出るらしい。
それに、糖質制限をしたからといって良くなるという問題でもなさそうだ。
「ちなみに、どうして血糖値が上がり過ぎたらいけないのかといいますと、体の中で余った糖は細胞と結合します。すると、あら不思議。紫外線の影響を受けやすくなるのです。紫外線の影響を受けた肌は、現在の法子さんのように、シミや垂れたりして老人のような見た目になるのです」
「たしかに3食を5食にして、血糖値を上げ過ぎないようにする理屈は分かったさー。ところで私、こういう話も聞いたことがあるのさー。3食を1食にしても、老化は防げるらしいさー。むしろ若返るらしいさー」
私はかろうじて持っていた知識をひけらかした。しかし、不死子は驚いていない。
「知っていますわ。生まれた時から持っている本能を活性化させるのですよね」
「そうなのさーか?」
一日一食にすれば外見が若返るという知識は持っているが、そのメカニズムまでは知らない。
「体というものは良く出来ておりまして、空腹の時間が長ければ、それだけで体が活性化するのです。そして老い難くなるらしいのです。空腹の時間は、つまりは命の危険となる時間です。人は空腹で死ぬこともあるのですから。そんな時、生き残ろうと体の全細胞が全力を出すのです。その結果、見た目が若返るらしいのです」
「だったら、若返るためには、一日一食の方法がよくないさーか? 家計にもお優しい感じがするさー」
「しかし、ダメです。まだわたくし達は成長期ですからね。成長期の間は、その方法は全く役に立ちません。考えてもみてくださいよ。地球には食べ物もままならない地域がたくさんあります。飢えで苦しむその地域に住んでいる人は、みんな若々しいでしょうか?」
「そういえば、そんな感じでもないさー」
ニュース番組なんかが発展途上国を時々特集したりしているが、そんなに若々しいという印象はなかった。
「食事以外では、そうですね。サウナに入るのもいいですね。新陳代謝はサウナに入ったり、運動をするといいらしいです。古い細胞はアカにしちゃいましょう。頑張ってください」
その日の夜、私はママと一緒にサウナ付きの銭湯に行った。
翌日、私の体はすっかりと老ける前に戻っていた。それを見て、不死子は驚いていた。
「え? え? え? 1日で老け顔じゃなくなってますわ? どうして?」
「おー。不死子、あんたの言う通りにしたら、元に戻ったさー。ありがとさー」
「お、おめでとうございます。お役に立てて光栄です……」
不死子は腑に落ちないといった顔で私を見つめていた。
「そうだ不死子。私は老化対策で今日から一日五食の生活にもするつもりさー。今日は5つもお弁当を持ってきたさー。授業中に早ベンするなんてワクワクする反面、ビクビクもするさー。怒られたりしないかなって思って」
「休憩中に食べてくださいっ!」
「いやさーいやさー。早ベンといったら授業中に限るのさー」
「あと、学校にいる時に5食全てを食べなくてもいいのですよ?」
「学校で食べたい気分なのさー」
「はぁ、そうですか。もう勝手にしちゃってください」
この日から、私は二度と老け顔にならないように1日に5食の習慣が身についた。なお、不死子の不老についてだが、不死子の体の中に入って、免疫細胞たちに、癌細胞モンスターを倒した時に取得できるテロメラーゼを集めさせ、全細胞にアクセサリーとして配るように指令を出したところ、その後、テロメアが短くならないことが判明した。つまり、不老が実現したということだ。
灯台下暗し。
不老不死への手段は、反則ではあるが私の能力で実現できた。私の裏能力は異世界を創ること。レベルを上げて進化を促すること。それらに加えて、不老不死になれる、という力もあるようである。なお、不死子は25歳ぐらいの外見年齢になったら完全に老いを止めたいと言っている。
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