18話



「アデルミラ卿とカシム卿は?」


「お二人は既に戦線に」


「深きもののデータちょーだい」


「承知しました。おい!」


「「ハッ!」」


 東条は何言ってるか分からない三人に背を向け、一足先に砂丘を登り始める。良い泥団子が作れそうなサラサラの砂が、無限にブーツの隙間から入ってくる。


「っだぁウゼェ、あちぃしっ」


 東条が脱ぎ捨てたブーツと靴下とジャケットを、後ろをついていくウィツィロが健気に拾って回る。



『www』『ww』『だらしねぇw』『いつもありがとうねウィっくん』『ほんとできる子』『嫌な夫の理想像』『っ⁉︎』『深きもの?』『深きものって言ったか?』『ツイッターで炎上するタイプの男だろこれw』『何でこんな奴がモテるんだ』『良い体』『深きものって何だ?』『どこのインナーだろ? 欲しい』『リンクにあるぞ』『商魂逞しいな』――



「いよっと。おぉ〜〜」


 砂丘の頂上についた東条は、目に手を翳して水平線を見渡す。


 眼前に広がる、黄金の砂原と黒い海のコントラスト。

 耳に鳴り響く剣戟と、着弾する魔法の音、人間の怒声、歓声、それらを覆い尽くす不気味な叫声。

 黒い波打ち際から、続々と上陸してくる半魚人の様なモンスター。

 ……そんな光景が、遥か遠く、数千㎞にも渡って続いていた。



『……』『……』『……』『……?』『??』『……』『……』『……』『……?』『??』『……』『……』『……』『……?』『??』『……』『……』『……』『……?』『??』『ん?』『綺麗だな』『この光景を見て、一言目に綺麗だなは出てこんのよ』『エッグ』『⁉︎⁉︎』『ww』『すっげ』『何だこれ』『どこまで続いてんだ?』『てか本当にどこここ』『何あれ?』『え、地球終わる?』――



 エジプトだけじゃない。南に連なる国々が、海から侵攻してくるモンスターを国境で押し止めているのだ。そりゃ壮大な光景にもなる。


「で、あれが深きものどもか……」



『だからそれ何?』『深きものども?』『 TRPGに出てくるモブ』『クトゥルフ神話』『あの深きものども?』『マジ?』『でも見た目まんまだぞ』『エグない?』『教えてカオナシ先生』――



 目をギョロつかせ、カエルの様に跳ねて移動している半魚人。この説明が一番しっくりくる。

 頭部がタコだったり、カジキだったり、イソギンチャクだったり、多種多様な種類がいるが、総じてその瞳に知性は感じられず、統率性もない。どうやら知能は魚のままらしい。


「久しぶりの海外LIVEだからな。お前らに現状を説明しておくと、俺らは今エジプトにいる」



『助かる』『説明助かる』『ラスカル』『おお!』『エジプト!』『ふむふむ』『エジプト⁉︎』『‼︎』『アフリカも生きてたか』『生きてんのかこれ?』『エジプトにこんな広大な海岸あったか?』――



「んでまぁ見ての通り、アフリカ大陸の面積の半分が海に沈んでいるわけだ」



『ふむふむ』『なーほーね』『うん』『……うん?』『?』『……』『……』『……へ?』『は?』『なんて?』『は?』『今彼はなんて?』『大陸が半分?』『沈んだ⁉︎』『は⁉︎』『⁉︎⁉︎』『⁉︎⁉︎』『⁉︎⁉︎』『⁉︎⁉︎』『⁉︎⁉︎』『⁉︎⁉︎』『⁉︎⁉︎』『⁉︎⁉︎』『』『おいおいおい』『なるほどね』『実に興味深い』『【東条調査員、電話に出てください】』『あ、政府公式』『ww』『草』『lol』『すっごい早さで消えてったw』――



「簡単に言うと、日本に起きた海バージョンがアフリカで起きた感じだな。お前らノエルに感謝しろよー? こっちだったら俺ら全員、今頃海の藻屑だぜ?」



『ゾッ』『ゾゾっ』『エグ』『……鳥肌立ったわ』『感謝w』『誰がするかw』『感謝しますノエル様』『ノエル万歳』『ノエル万歳』『ノエル万歳』『ノエル万歳』『ノエル万歳』『ノエル万歳』『lol』『日本人こわ』――

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