14話

 背中にある鉄の蓋を開けると、何とそこには豪華でアラビアンな居住スペースが広がっていた。

 体内が丸々くり抜かれ、ソファやら絨毯やら冷蔵庫やらが詰められているのだ。そしてそんな生物が空を飛んでいるときた。


「……これまた、スゲェ能力だな」


 東条も感心しながら中に入り、蓋を閉める。

 スピードからして、約四日程度のフライトになる。まさかこんな快適な場所で過ごせるとはね。

 靴を脱いで絨毯に上がった東条は、室内を見回しながらドカッ、とソファに座った。


 対面に腰掛けた彼を、ノエルを膝に乗せたディヴィナがチラリと見る。


「……」


 彼女の頭にピョコッ、と生えた猫耳。


「……プフっ」


 ピコピコ動くそれを見て、東条も思わず笑ってしまった。

 機嫌の取り方があざとい。上目遣いで尻尾を振れば、俺が許すとでも思っているのか? よく分かっているじゃないかその通りだ。


 東条はフカフカの背もたれに腕を回し、天井から吊り下がるアラビアンランプを見上げる。


「俺の立場も考えてくれ。これでも一応世界の味方側なんだから。一応」


「一応、ですわね」


「やってることは人類悪」


「お黙り?」


 その悪逆の一端を担っているのが自分だということに、この蛇は気づいているのだろうか?


「てか本当に一人で来たんだな。度胸凄いなお前」


「今回のお食事会は、教皇様とわたくしが勝手に企画したイベントでございます。教団の皆様に迷惑はかけられませんもの」


「なるほどね」


 ゴロゴロと喉を鳴らして頬擦りをするディヴィナに、ノエルは鬱陶しそうに身をよじる。


「で、これからの予定は?」


「はいですわ。目的地は首都のカイロ、到着予定は四日後の朝七時頃ですわ。宿泊場所に着きましたら、七時半から朝食。九時半に湯浴みのお時間を取りますので、一〇時頃から市内見学を」


「むー!」


「あっ、ノエル様⁉︎」


 ディヴィナから予定表をひったくったノエルが、全部クシャクシャに丸めて口の中に放り込み、ゴクン、と飲み込んでしまった。


 よくやったノエル。お前がやらなきゃ俺がやっていた。

 東条は慌てるディヴィナを鼻で笑い、バスケットからフルーツを取って齧る。


「当然だよなノエル?」


「ん」


「えっ、え⁉︎ 紙食べて大丈夫なのですか⁉︎」


「良い機会だ。ダムナっさん、覚えておきなさい」


「え? あ、はい」


 指を指され、ダムナっさんが背を正す。


「我々に予定表を提出する際は、一つの移動ごとに二時間のインターバルを開けなさい。我々は疲れやすい」


「あとオヤツも」


「オヤツも用意しなさい」


「っは、はいですわ! 配慮が足らず申し訳ございませんっ」


「よいよい。ただ、我々の希望通りに予定が組まれて初めて、我々はその方からの提案を貰い受ける」


「承知いたしました。早急に予定の再調整を」


「貰い受けた上で、全て無視して好きな様に動く」


「動く!」


「……え、えぇ?」


 東条の投げたブドウを口でキャッチするノエルに、流石のディヴィナも呆れ顔。


「それが俺達! 世界一自由なバディなのさ!」


「さ!」


「……自由と言うよりも、我儘と言った方が」


「黙らっしゃい! ノエル!」


「ん」


「っひぁ⁉︎ あっ、あっ、あっ? あっ、あ〜〜」


 耳の中のモフモフに指を突っ込まれ、ディヴィナの目が昇天する。


 猫耳の中を掻き回すノエルに向かって、東条はご褒美のブドウを投げる。


「分かりましたかダムナティオ卿? 我々の道は我々が決めるのです。我々の言葉に従いなさい」


「オヤツも」


「オヤツも用意しなさい」


「オ、ヤツ、あっ、オヤっ、あっ、んあああああッッ♡」


「あ」


「あーあ、壊れちゃった」


 ノエルはビクンビクンッ、と痙攣するディヴィナをベッドに放り投げ、ゲーム機を取り出して東条の横に座り直した。


「こっから長いぞ? 休まなくて平気か?」


「ん。ファフニール強くなってる」


「ハハっ、あいつも見事にゲーム廃人になったなぁ。まぁ片鱗はあったけど」


 ニーズヘッグとファフにぃと三人でゲームをやった日々が懐かしい。……あいつら元気でやってると良いけどな。


「マサ、用意して」


「ったく。ファフにぃのキャラ何だっけ?」


「ヨッシー」


「草。意識しすぎだろ。あいつのあだ名ムンチャクッパスな」


「ウケる」


 ビクンビクンと痙攣するメス猫の横で、ゲームスタートの合図が鳴った。

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