13話


「お初にお目にかかりますわ、我道 見美様。此度はわたくしどものために、この様な場を用意していただき感謝いたしますわ」


「こちらこそ、事前の連絡に感謝します」


「どうせバレているのですもの。今更隠すことでもありませんわ」


「であれば、エジプト国の特使としてあなたがいらしたということは、……つまりそう解釈してよろしいのですね?」


「ご想像にお任せしますわ。ですが一つ弁明しておくのなら、わたくし達は、あなた方が思う様な暴政は敷いておりませんので。そこは誤解なき様お願いしますわね?」


「他国に侵略行為を働く集団を、私達はどの様に信頼すれば良いのでしょうか?」


「さあ? 歩み寄る方法を模索するのは、わたくし達の仕事ではありませんので」


「その言い分は、少し傲慢ではありませんか?」


「はて、神を自国の利益のために利用しようとする行為は、果たして傲慢とは言わないのでしょうか?」


「人の身でありながら神意を憶測する方が、民のために災害に抗うことよりもよほど傲慢だと思いますが……。そも会話という手段を放棄した以上、星のためという善行も、大義名分になりはしないのですよ」


「……あなた方は、何か盛大な思い違いをなさっているみたいですわ。

 わたくし達が日本にだけ友好的なのは、偏に東条様とノエル様がそう望んだからですわ。自国の力を過信しないことですわね。あなた方は今も、この御二方にによって生かされて――」



 バチィンッ!



「っあひん⁉︎」


 顔を羞恥に染めながら大きな尻を抑えるディヴィナは、綺麗なフォームで残心する東条を睨みつける。


「なっ⁉︎ なっ、ッッ‼︎」


「落ち着けバカ野郎」


「あなたが落ち着いてくださいまし⁉︎ 気でも触れたんですの⁉︎ 大衆の面前で淑女のお、お尻を叩くなんて⁉︎」


「喧嘩始めましょうってわけじゃねぇんだから、意地張んなお前は」


「で、ですがっ」


「何? 次は左足もいで欲しいの? それとも腕?」


 イラつく東条に見下ろされ、ディヴィナが逃げる様に視線を下ろす。


「っ……い、いえ。申し訳ございません」


 国軍を前にしても一人堂々としていた彼女が、男の一睨みだけで、まるで蛇に睨まれた蛙の様に萎縮してしまっている。

 この一分に満たないやり取りだけで、日本側は二者間の絶対的な力量関係を把握した。


「ほらヴィーネ、行こ」


「……しくしく」


 ノエルに手を引かれ、トボトボ飛行生物へ歩いていくディヴィナを見送り、東条は見美に向き直る。


「まぁあんな奴ですけど、俺の言うことは聞くんで」


「……冗談を言い合う仲かと思ったら、いきなり脅迫して、いったい彼女に何をしたんですか?」


「ちょっと殴って躾けただけですよ」


「……はぁ、」と溜息を吐いた見美は、眼鏡を上げ直して東条を真っ直ぐ見つめる。


「恐らく、エジプトは廻星教の支配下に落ちています。広大な新大陸が生まれたことにより、他大陸と離されてしまったアフリカ諸国の詳細な情報は、未だこちら側に届いていません。

 廻星教には中国組織との繋がりがあることも確認されていますし、充分気をつけてください。我々からも偵察隊を送りたかったのですが、流石に断られてしまいました」


「そりゃそうだ。何なら今世界で一番実害出してる組織ですしね、他国なんて入れたくないでしょうよ。

 でも俺を招待してきたってことは、俺が外に情報売るのを許容したってことでしょ? パパッと行ってお宝持ち帰ってきますよ」


「……ふふっ、ありがとうございます。こちらもメキシコ政府との共同対策本部を設置しましたので、何かあった時はワンコール入れてください」


「おっ、カマエルさん元気でした?」


「はい、やる気に満ち溢れていましたよ」


 懐かしい顔を思い出す東条に、「では、」と見美が姿勢を正す。


「……改めてお気をつけて。東条調査員」


「り〜」


 敬礼に見送られ、東条は飛行生物の背に飛び乗った。


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