9話
部屋に戻った東条は、腕の中で眠ってしまったノエルをベッドにそっと寝かせる。
シャワーを浴び、頭を拭きながら冷蔵庫を開け、水を持ってソファに腰を落とした。
「……」
……虚しいコール音が数回鳴り、東条は溜息を吐いて発信を取り消す。
返信がないまま溜まり続ける、ステラへの発信履歴。まるで片思いをしているかの様な画面に小っ恥ずかしくなり、東条は「ケッ」とスマホを投げた。
〜〜約一ヶ月前〜〜
「はあ? ギリシャに行った?」
「う、うん〜。いきなりね〜、ガレオンさんを連れて、《世界を救う》とか言って出てっちゃたのよ〜」
無理矢理ステラ社に乗り込んだ東条とノエルは、同じく困惑するアルファを見て言葉を失う。
「いつ出たんですか?」
「つい先日よぉ〜。まったく〜、自由すぎるのも考えものね〜」
「理由や目的とかも話さずにですか? アルファさんにも、ベータさんにも?」
「何も言わずによ〜」
「ガンマは? 元気?」
ノエルの質問に、アルファの顔が少しだけ曇ってしまう。
「いきなり慕っていたお姉ちゃんが消えちゃったんだもの〜、落ち込んでいるわよ〜。ノエルちゃんが来たって知ったら元気になるかもしれないわ〜、会ってあげてくれる〜?」
「ん」
トテトテとガンマの部屋に走っていくノエルの背中を見送り、東条とアルファはベンチに腰掛けた。
「……世界を救う、ねぇ」
「ステラちゃん、ず〜っと何かを一人で背負っている気がするの〜。あの子は強いから〜、それができちゃうんだろうけど〜、……心配なのよね〜」
「大統領は? このこと知ってるんですか?」
「さっき知ってプンプンよ〜。アルバ様もずっと行方不明だし〜、何が起きているのかしらね〜」
「……」
東条もその場でステラに電話してみるが、当然ながら繋がらない。
「捜索隊は出さないんですか?」
「ん〜。たぶん、ステラちゃんは嫌がると思うのうよね〜。あの子が何も言わずにここを出たってことは〜、その必要があったってことだから〜」
「信頼厚いですね」
「血よりも深い所で繋がった家族だもの〜。それにガレオンさんがついているしね〜、アルバ様と敵対しない限り安全よ〜」
遠くの広場で、ノエルに部屋から引っ張り出されたガンマが、笑いながら走り回っている。
……あいつに限って、嘘を吐くなんてことはない筈だ。このもどかしい時間すらも、きっとステラは計算に入れて動いている。
「……なら、俺達はもう少し待ってあげましょうか」
「うん、ありがとうね〜」
……とは言ったものの、あれからもう一ヶ月。
流石に心配が勝つ。ギリシャに乗り込むか? いや、でもあそこ変なバリアで入れないって噂だし、そもそも不可侵国に指定されてるし。
「……どうしよ」
彼が天井を見上げながら思案していた、その時だった。
スマホが鳴った。
「っ⁉︎」
反射的にスマホを取り、画面を見る。と同時に落胆。
……差出人は《ドスケベコスプレシスター》。
「……ぶっとばすぞ」
『ッ、っ⁉︎ 何でですの⁉』
いきなりの暴言に慌てふためくディヴィナに、東条は苦笑してバルコニーに出る。
「冗談。どうした?」
『っもう、揶揄うのはおやめになってください! ……コホンっ、実は、教皇様が東条様に会いたいと仰っていまして。そのお誘いでございますわ』
「……は? 俺に?」
『はいですわ』
予想外の位置からのフックに、東条が一瞬固まる。
「教皇ってお前らのボスだよな? ノエルに会いたいとかじゃなくて?」
『東条様にですわ』
「何で?」
『さぁ? わたくしも分かりませんの、謎の多いお方ですから。でも東条様とノエル様にはとても好意的ですし、裏はないと思いますわよ?』
「まぁ、普通に二重スパイしてるお前を生かしてくれてるしな。バレてんだろ?」
『もろバレですわ! 嘘を吐かれている可能性もありますけれど、教皇様のお二人への好意は昔からですし。お優しい方ですわよ』
このタイミングで、俺に会いたい理由ねぇ。ノエルの傍にいるとか、選帝者だとか、王の眷属だとか、思い当たる節は色々あるが……。
東条は嫌そ〜うに眉間に皺を寄せる。
「それ、俺捕まって人体解剖とかされるんじゃないの?」
『そんなことしませんわ⁉︎ わたくし達を何だと思っているんですの⁉︎』
「ケモミミ変態コスプレ集団」
『っそれはわたくしだけですわ! あっ、わたくしじゃないですわ⁉︎』
何やら必死に弁明している声が聞こえる。面白いなーこいつ。
「はっ」
『っ何がおかしいんですの⁉︎』
「さっきお誘いって言ったよな? どこ行きゃいいの?」
『わたくしが飛行生物でお迎えに上がりますわ』
「お前がかぁ」
『何が不満ですの⁉︎ 光栄なことなんですのよ!』
「へいへい。で? 目的地は?」
『エジプトですわ!』
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