綻び




「エキド、おぉ、む?」


 転移した先で、ヒュドラは首をもたげ辺りを見回す。


 立ち並んだ仮説住宅と、小さな温泉?

 ドーム型の天井には幾何学的な術式が張り巡らされており、散らされた光苔が床を埋め尽くしている。


「ここは……」


 エルザも周囲を見渡し、訝しむ。

 ついさっきまで自分達が使っていたセーフハウスに、今更何の用があるというのか? エキドナの意図が図れない。


「ねぇ誰もいないけどー?」


「これをブッ壊せばいいのか⁉︎」


 仮設住宅を踏み潰すサラマンダーから目を逸らし、ヒュドラは表情を険しくする。


「エキドナ、エキドナよ。……」


「ヒュドラさん?」


「先からあ奴と連絡がとれん」


 ヒュドラの一言に、龍達の間に緊張が走る。


「嫌な予感がする。一旦戻るぞお主ら」


「戻ると言いましても、転移はできませんわ」


「走って戻るしかなかろうて」


「てかさぁ、……ねぇエルザ」


 キョロキョロと辺りを見ていたバジリスクが振り返る。


「君達って、どうやってここに入ってきたの?」


「え、それはあちらから、……?」


 自分達が通ってきた筈の入口が、……ない?


 その時だった。

 足元から吹き上がった魔力に苔が舞い上がり、裸の大地が露わになる。



 そこに刻まれた、真新しい術式が。



 ドッと重くなる空気に、彼らの龍鱗が一気に逆立った。


 ――これはエキドナが描いた物ではない。

 一緒に準備したヒュドラはそれを知っている。


 ――であれば、誰が何の目的で描いたのか?

 そんなこと、考えるまでもない。


 ――効力は? 威力は?

 彼女が用意した時点で、きっと碌なものではない。


「――ッ」


 ヒュドラが全員を大翼で包んだ。








 刹那――極光。









 景色が飛んだ。

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