7話



 ロサンゼルス郊外、新大陸ステラ社管理区域。


「……」


 巻き上がる強風に白衣とツインテールをはためかせるステラは、大翼を広げ一瞬で飛び去った黒龍から目を逸らす。


「帰るぞガンマ」


「うんっ。……私も行きたかったな〜」


「また今度な。お姉ちゃんが連れてってやる」


「わーい!」


 手を繋ぎ、二人並んでラボに帰る。


「でも凄かったねあのドラゴン! お家抱えてビューンって行っちゃった!」


「バカの発想だ。参考にするな」


「私もやりたい!」


「ダメだ」




 窓の外に映るのは、高速で流れる雲と、切り立つ山々。


「そろそろ降りるか」


「ん。お腹減った」


 植物で作ったソファから立ち上がった二人は、ゲームコントローラーを放り投げ部屋着を脱ぎ捨てる。

 強化合成繊維のインナーをピチッと着て、長ズボンを履き、ゴツいブーツの靴紐を結ぶ。腰後ろにナイフを装着し、ベルトに飲料水を固定。東条はジャケットを羽織り、ノエルはローブをスッポリと被る。

 開け放ったドアから吹き込む突風に、ノエルの髪が強く靡いた。


 凛々しいネロの顔から視線を下ろせば、眼下に広がるのは広大な森林と運河、火山地帯に砂漠地帯、様々な環境が混ざり合う極限大陸。


「ネロ! 飯にしよう!」


 返事を待たずして家の外に一歩を踏み出した東条は、高度数千mから垂直落下、音も無く着地する。遅れて降ってきたノエルを漆黒で受け止め、地面に下ろした。


「あ、」


「ブ、ブゥ」


 こちらを警戒していた、豚っぽいモンスターが一歩足を引く。


「目ぇ合ったし、お前な!」


「ブヒィイ⁉︎」


 森の中に消えていった東条を見送り、ノエルは降りてきたネロのツノを撫でる。


「ネロは休んでて。取ってきたげる」


「ゴルルゥ」


「ん。感謝はお互い様」


 トテトテと森の中に入ってゆくノエルを見送ったネロは、家を守る様にグルリと寝っ転がり、後ろの湖に尻尾を垂らして釣りを始めるのだった。



 その後も自由気ままにドラゴンログハウスの旅は続いた。



 〜〜昼飯を現地生物と取り合ったり。



 〜〜火山地帯に偶然湧いていた温泉で休んでいると、大量の湯煙ラッコが入浴しに来きてほのぼのしたり。

 彼らに湯上がりの天然フルーツジュースを振る舞ってもらったり。



 〜〜綺麗なビーチを見つけて皆で遊んでいたら、デカいタコにノエルが攫われたり。その後タコパしたり。



 〜〜途中ドラゴン達の縄張りに入ったせいで大規模な戦闘になってしまい、ネロとボス龍が激しい空中戦を繰り広げたり、ノエルが滑って落下したり、東条がドラゴンの大群にワチャワチャされたり、挙句の果てに縄張りの岩山諸共ログハウスがブレスの衝突で爆発炎上したり。



 その後なんやかんやあってドラゴン達と炎上するログハウスを囲んでキャンプファイヤーをしていると、お祭り好きの精霊達も集まってきたりなんかして、食って飲んで踊って数日間ドンチャン騒ぎしたり。



 えらく気に入ってしまったらしい、奇跡的に無事だったゲーム機をプレゼントして涙ながらに別れたり。


 そんなこんなあんなこんなぱんなこった。



 〜〜アメリカを出て約二週間後。

 予定日から更に一週間遅れてようやく、東条とノエルはイギリスの国域に入った。



「おっ、あれじゃね!」


「おー」


 東条が指差す先に現れる、美しく荘厳な石造の建築群。

 城塞や宮殿が生活に溶け込んだ、重厚感のある街並み。

 そこには歴史の調和の完成系とも言うべき、エディンバラの景観が広がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る