4話



 数日後。


「よう、何だよまた呼び出して」


 GATEから出た東条とノエルが、仁王立ちしているステラを前にあくびをする。


「……テメェら、せめて寝巻きは着替えてこいよ」


「こう何度も呼び出されてりゃ緊張感もなくなる」


「チッ、まぁいい。来い」


 三人はドアを潜り、近未来的なラボ内を歩いてゆく。


「あ、東条く〜んノエルちゃ〜ん。こんにちは〜」


「ちゃ」


「こんちゃっす。最近よく会いますねアルファさん」


「ね〜。きっと運命だよ〜、運命だからさ〜、ちょっとだけ遺伝子サンプルくれないかなぁ〜? ほんのちょっと、先っちょだけでいいからさ〜? ピュ〜って」


「嫌ですね」


「何でぇ〜」


 階段の下からドタドタと足音が響いてくる。


「っ『大地』! 頼む! 鱗を一枚! いや、髪の毛一本でもいい! 頼む‼︎」


「や!」


 本気で自分の体の一部を欲しがってくるベータに、ノエルがプイッとそっぽを向く。


「ちょっとベータさん、うちのノエルにセクハラやめてもらえます?」


「『混沌』、お前の心臓にも興味がある。少しだけ触らせてくれないか? 見るだけでもいい」


「っや!」


 ノエルがベータの手をはたき落とす。


「ベータ気持ち悪ぅ〜。そんなんだから嫌われるんだよ〜」


「黙れビッチが」


「はぁあ〜⁉︎ 私がビッチぃ〜⁉︎」


「もうやだこの人達」


 辟易としている東条の横から、またもパタパタと誰かが駆けてくる。

 金髪のショートカットを揺らし、ステラと瓜二つの顔にステラが絶対にしない可愛らしい笑みを浮かべジャンピング。


「っノエノエ!」


「グェっ⁉︎」


「わっ」


 ベータを蹴り飛ばしたガンマが、ノエルの手を取ってクルクルと回る。


「こんちゃ、ガンマ」


「こんちゃ! マサマサも、こんちゃ!」


「はいこんちゃ。相変わらず元気だなぁ君は」


「んへへっ」


 にへらっ、と笑う彼女が、東条とノエルの手を取ってグイグイと引っ張る。


「あのねあのね! この前私ドラゴン倒したんだよ! こーんなデッカいやつ!」


「そりゃスゲェ。強かったか?」


「うんっ! すっっごい楽しかった! あっちに保管してあるから見に行こ! 良いよねお姉ちゃん!」


 次々と来る遺伝子を分けた問題児達に溜息を吐いたステラが、ピョンピョン跳ねているガンマを撫でて止める。


「悪いなガンマ、俺達今から大事な話があるんだ」


「えーー分かった! 終わったら良い?」


「良いぜ。偉いぞガンマ」


「ん。よしよし」


「ガンマは偉いなーガンマは」


「んへへっ」


 ステラとノエルと東条にワシャワシャされるガンマに、はたから見ていた研究員達もニッコリと微笑む。


「ね〜ね〜ステラちゃん。私もぉっアイダァ⁉︎」


 ステラの前に出てきたアルファの頭が、スパァンッ‼︎ と良い音を鳴らした。



 自室の椅子にドカッと腰掛けたステラが、メチャクチャに散らかっているデスクの上をガサガサと漁りお菓子袋を引っ張り出す。


「テメェんとこの総理とフレデリックが、個人的な情報共有をしているだろうってのは前に伝えたよな?」


「ああ」


「そのせいで、俺がフレデリックの野郎から詰められたってのも話したか?」


「悪かったって」


 東条はチョコを剥き、口を開けて待っているノエルとガンマに弾き入れる。


「あいにく場所が場所だったからな、日本とアメリカ以外に漏れることはねぇ。ただ奴らにバレたのが痛ぇが、見て真似できる様な技術でもねぇ。そこはもういい」


「奴らねぇ。あいつら何なの?」


「知らねぇよ。テメェの方が接触してんだから詳しい筈だろ」


「へいへい」


「小型GATEを誰に渡したか問われたが、今んところテメェら二人だけってことになっている。ガブリエルのことは口に出すな」


「おけぇ」


 気絶したベータを部屋の隅に移動させたアルファが、小言を言いながらデスク周りを片付け始める。

 ステラは咥えていたロリポップを噛み砕き、空中に半透明のスクリーンを展開した。


「俺達の目下の課題は何だ? 言ってみろ」


「残りの選帝者を見つけること?」


「そうだ。そのために今、ガレオンとガブリエルには別々の場所を当たってもらっている。前にも言ったが、これは他の誰でもねぇ、俺達がやらなきゃいけねぇことだ。テメェにも協力してもらう」


「それはそのつもりだけど、中国で【色欲】見つけたじゃん。捕まえてこようか?」


「桐将テメェ、そいつ見て何感じたって言った?」


「嫌悪」


「そういうことだ。プレムは【色欲】じゃねぇ。次見かけたら必ず殺せ」


 そういうことって、どういうことだよ?

 無表情で新しい飴を咥えるステラに、東条は口を尖らせる。


「今回お前らに行って欲しいのはここだ」


 スクリーンに映し出された世界地図を、ステラが飴で指す。

 東条が首を傾げる。


「それは、どこだ?」


「イギリス」


 地理の苦手な東条に代わり、ノエルが呟いた。

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