第43話
彼の指令に合わせ、耳障りな雄叫びと地響きを立て不死の軍勢が地を駆ける。
視界を埋め尽くす汚物の大波を目に、カマエルは長剣をクルリと遊ばせながら歩を進める。
「駆逐しなさい」
瞬間9体の戦蛇の姿が搔き消え、1体が杖を振り上げると同時に異形の波の中で4つの特大火球が爆発した。
視界を爆発で防がれたアズラエルは、真っ赤に染まった前方に目を細め魔力感知を集ちゅ――
「――ッチィ⁉︎」
大きく身体を逸らしたアズラエルの眼前を、煌々と燃える剣が通過、皮膚が焦げる。
煙を靡かせ急接近したカマエルは、一刀目が躱された瞬間に逆手の剣を振り抜き胸部を袈裟に斬り下ろす。
対してアズラエルも即座にcellを発動、胸部の傷口から大量の触手を生み出――した瞬間にその全てが細断される。
剣の残像を視認すると同時に視覚がブラックアウト。――な、んだ⁉︎状況を把握するよりも前に、身体が後方に吹っ飛んだ。
「ふむ、」
正中線に六段突きを入れ人体に六つの大穴を穿ったカマエルは、ゾンビの群れの中に落ちてゆく死体を見つめそのカラクリを探る。
……戦闘が始まってからなぜか足を止めている約30万のゾンビ軍団も気になるが、まぁ止まっていてくれるなら好都合というもの。
「ギュァアアアあッッガビャ――」
横からカマエルに手を出そうとした異形に一般通過大盾の戦蛇が衝突し、バラバラになって吹っ飛んでゆく。
そしてその時、カマエルは見た。
アズラエルの身体が近くのゾンビを吸収し、一瞬にして全身を治癒したのを。
「……なるほど」
空中で復活し体勢を立て直したアズラエルは、着地と同時に下半身をタコの様に変化させ後退。薄ら笑いを浮かべるその頬を冷や汗が伝う。
「……ハっ、やはり目で追うのは不可能だな。敵わん」
「おや、負けを認めてくれますか?」
「ああ、認めよう。貴様の方が強い……」
カマエルは地面から突き出た触手を躱し、飛翔、
「……人の身では、な」
そして顔を顰めた。
アズラエルの身体に途轍もない速度で周囲のゾンビが吸収されてゆき、気色の悪い音を立てながら融合、巨大化してゆく。
肉が捻り合わさり、骨が砕け、臓器が破裂し腐った糞尿が飛び散り空気を汚染する。
その悍ましさたるや、形容し難い。
Azrael(偽名)――cell:
5万人を吸収し立ち上がる、全長20mの歪な巨人。
背中には翼の代わり大量の触手が生え、飛ぶことを放棄した代わりに力を得た唾棄すべき存在。
そんな存在を前にメモを取り出したカマエルに、巨人は首を傾げる。
「……何をしている?」
「醜さというものを、これ程間近に見れられる機会はそうありません。帰ったら絵に起こしたいと思いまして」
ラフを描き終わったカマエルが、パタンとメモを閉じる。
「……随分とナメているな。後悔するぞ」
「ナメてなどいませんよ。貴方は私が今まで戦った中で、2番目に強い。その理不尽な力は脅威と呼ぶに相応しい」
カマエルの手に再び長剣が生み出され、周囲には5本の大剣が旋回し出す。
「そうですね。題名は、」
カマエルが七刀をカマエル。
「……堕天、なんていかがでしょう?」
真紅の蛇眼が収縮し、その頬が獰猛に吊り上がる。
炎の蛇は、哀れな天使を目に心の底から嗤った。
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