第42話
粉塵と血肉が巻き上がる中、カマエルはふわりと地面に着地する。
近場のモンスターゾンビを食い散らしてきた10匹の炎蛇が彼に擦り寄り、揃って鎌首をもたげ爆煙を見つめる。
「今ので逝ってくれればいいのですが」
……しかし周りのゾンビは動きを止めない。Cellの効果は使用者が死ねば止まる筈。
そんなことを考えていた矢先、先の数10倍は大きくなった黒翼が粉塵を突き破り、一瞬にして視界を切り開いた。
巻き起こる突風に踏ん張りが効かず、数体のゾンビが宙を舞う。
「……ま、そう簡単にはいかないですよね」
瓦礫の丘の上で立ち上がる五体満足のアズラエルを目に、カマエルは小さく溜息を吐く。
……五体満足、あれだけバラして燃やしても死なないとなると、能力的に不死の可能性もあるか。
アズラエルはボロボロになったガウンをちぎり捨て、逞しい上半身を露にする。
その鍛えられた肉体に歳の衰えは見えず、修道者というよりは格闘家の方がしっくりくる。
「……驚いたぞ蛇、まさかここまでだとはな。デュエルでは手を抜いていたな?」
「お褒めいただき有難うございます。私の情報は共有されていないのですか?」
「したさ。だが現地人に聞いても有力な情報は上がってこなかった。それも今思えば当然のことだ、この地には貴様に匹敵する者がいない。
そも貴様に目を付けられた者は灰すら残らない。国の安寧と平和のためなら女子供すら当然の様に殺す。それが貴様の裏の顔だろう」
「……ふむ」
カマエルの蛇眼が暗く細まる。
「たった1年でメキシコの治安は劇的に向上した。なぜなら治安を悪くしていた人間や組織が、地域ごと消滅したからだ。
私は貴様の行為を否定しない。蛆は根本から断つべきだ、根差す風土ごと焼却するのは合理である」
「……」
大量のゾンビが集結し、グチャグチャと融合してゆく。
「しかしだ、それは貴様の否定する私の行為と何が違う?」
「貴方のこれは殺戮です。対して私のは、大義ですよ」
「ッフハハハハっ!滑稽なり!貴様のそれこそ殺戮であり、我が信念こそ大義である‼︎」
アズラエルの後方で、100体の異形ゾンビが立ち上がった。
体高は平均5m、1体1体形が違い、そこに規則性や造形美など皆無。
2足や4足のモノ、手に腐肉を硬化させたハンマーや大剣を装備しているモノ、獣やモンスターの特徴を色濃く残したモノ。
一目で嫌悪感を湧き立たせるそれらは、各々がLv5、6相当の自立型の化物である。
カマエルは目の前の男への脅威度を改めた。
……このままいけば、間違いなくこの男1人の手によって国は堕ちる。
「英雄と崇めていた者が殺戮者だと知った時、民は何を思うだろうな」
「問題ありません」
カマエルの周囲で鎌首をもたげていた大蛇達の身体が、更に筋肉質になってゆく。
胴体から4本の腕が生え、それぞれ炎の長剣、槍、斧、弓、杖、盾、鞭、大槌、大剣、鉤爪、刀を4本ずつ握りしめ、
10mはある身体を起こしカマエルの後ろに並び立った。
『
例えるならその姿は、ナーガの戦士。
「彼らがそれを知ることは、ありませんので」
「フッ、……ッ傲慢な蛇め‼︎」
微笑むカマエルに、アズラエルは目を見開き叫んだ。
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