準決勝 第1試合〜Star and Haze〜




 ……ドームの天井から覗く空は暗く濁り、闘技場を囲む大照明が四方から舞台を照らす。


 ……事実上の決勝戦。

 誰もが待ち望んだ今日は、生憎の曇り空。


 ……しかしそんな陰鬱な曇天も、観客達の熱気を前には1つの演出に成り果てる。


 司会の口上と会場の興奮を乗せ、


 ――一陣の烈風が天を突いた。



「……」


 四つの影を伴い、彼は中心へ向かって歩みを進める。


 ……人に見られるのは嫌いだ。


 ……あの人に近づくために経験してみようと思ったが、慣れない。

 やっぱり俺には向いていないらしい。


 ……まぁ、だからどうという訳でもないが。


「……」


 彼はしまっていた手をポケットから出す。


 ……与えられたタスクは1つ。


 勝利。


 ……何も難しいことはない。


 いつも通り行こう。


「……ふぅぅ」


 1度大きく息を吐いてから、朧はフードの下から対戦相手に目を移した。


「1戦目は君か」


 カウントダウンのホログラムを挟み、サムの黄色い瞳が朧を見定める。


「不服ですか?」


「そんなわけあるか。宜しく頼む」


「……」


 差し出してきた握手に、朧も応じる。


「……昨日のことだが、うちのカスがすまなかったな」


「……仲悪いんですか?」


「悪い」


 ……言い切るんだ。

 朧は心の中でツッコむ。どうやら、カリフォルニア陣営の全員が全員イカれている訳ではないらしい。


「俺に謝ったところで意味ないんで」


「そうか。まぁそうだな」


 互いに離れ、再び定位置に戻る。


「それじゃ、お互いやるべき事をやろう」


「そうですね」


 事務的な会話を終わらせれば、後の問答は必要ない。

 軽く笑いかけてくれるサムに、朧は無表情で返す。



 ――3、2、1



 第1試合 サム エヴァンスVS朧 正宗



 ――開始



(『輪廻』『perfectionペルフェクシオン』)


 朧の気配が完全に消えた。


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