45話




 ――プライベートジェットから降りたスーツ姿の紅は、厳重な検問を通り、眼前に広がる大規模な工業地帯に驚いた。


 ここは何を隠そう、現在進行形で開発が進められているカリフォルニア。

 紅は一足先にその心臓部へと飛び立っていた。


「……凄まじいな」


 自分達の保有している工場とは、スケールから何までレベルが違う。


 紅が言われた場所で待っていると、


「ごめんね〜待たせちゃった〜」


「謝るな。舐められる」


「わーカッコいい人!」


 白衣を羽織った2人の男女と、この場に似つかわしくないロリが迎えに来た。


 紅はその髪色、顔立ちが妙に似ている3人を一瞥し、恭しく一礼する。


「……Nice to meet you.本日は私の勝手な申し出を受け入れていただき、感謝します」


「良いよ〜私達も会いたかったからぁ〜」


 おっとりとした女性が手を振る。


「……して、失礼なのですが、どちらがアルファ殿で、ベータ殿なのでしょうか?」


「え、ステラちゃん教えてないの⁉︎ごめんね〜」


 気まずげに尋ねる紅に、アルファがプンスカと怒り、ベータが鼻を鳴らす。


「私がアルファ〜。ここの生物工学主任兼、医用生体工学主任だよ〜」


「私がベータだ。物理工学主任兼開発局副局長を務めている」


「私ガンマ!お姉ちゃん達の護衛で来たの!」


「承知しました。アルファ殿、ベータ殿、ガンマ殿。私は紅 焔季と申します。

 本日は日本の特使ではなく、Akaza corporationの幹部として参りました」


 2人と名刺を交換し、欲しそうにしていたガンマにも名刺をあげた紅は、案内され車に乗り込む。


「どう〜?凄いでしょここ〜?」


「はい。とても」


「紅、紅!日本ってどんなとこ?楽しい?」


「楽しいですよ。今度是非いらして下さい」


「そんなことは良い。紅、お前も今日の目的は私だろう。こんなのは放って早速話を聞かせてくれ、私は早くお前の話を聞きたい。貴国の魔法科学はどこまで進んでいる?使徒の特殊部位を武器化したというのは本当か?サンプルは?」


「うわぁ〜、そんなんだからモテないんだよベータはさぁ〜。女の子を全然分かってないよベータはさぁ〜。自意識過剰だしさぁ〜」


「かじょーかじょー!」


「黙れ!」


 仲の良い3人の言い合いに、紅もクスリと笑ってしまう。

 しかし、そんな自意識過剰な彼の発言は間違っていないのだ。先の自己紹介で理解した。自分の今日の目的は彼にある。


 とそこで車が工場群を抜け、同時に窓の外に巨大なドーム状の建築物が姿を見せた。


「……あれは?」


「あれがカリフォルニアの最重要都市型研究施設、通称cerebrumケレブルム。凄いでしょ〜」


 トンネルを通りドームの中に入ると、そこには今までの景色とは一変、


 白を基調とした近未来的な施設が規則的に立ち並んでいた。

 緑が美しい公園の1つでは、研究員や学生が談笑したりジョギングしたり、犬を散歩させている者もいる。

 流行りのレストランやブティックまである。

 天井を見上げれば、投影された人工の青空が、化学的な太陽光を降り注いでいる。


 まるで別世界。

 そこは本当に、1つの都市と称すに値した。



「ああ、……これは、凄い」


 紅の驚き様に、3人は誇らしげに笑うのだった。

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