44話



 ――場所はハンター組合ハワイ支部のVIPルーム。

 ソファに座り待機していた朧と葵獅は、支部長の入室に腰を上げる。


「Sorry to keep you waiting. Mr.Oboro, Mr.Tsutsugo」


「Please don't worry about it. It gave us time to relax」


「Hahaha, I've never seen you nervous」


 朧の軽いジョークに笑った支部長は、2人に「どうぞ座って下さい」と促す。


「では早速ですが、こちらが御2方のハンターカードになります。日本の銀行と紐付けてありますので、タッチ決済、アメリカ内では身分証としても使えます」


 葵獅はギルドの通訳に説明してもらいながら、朧はパネルをスライドしながら頷く。


「尚先日の試験結果から、ハンターグレードはSとさせていただきました」


「良いんですか?マs……東条は1番下からだったと愚痴を溢していましたが」


「ハハハ、上も反省したのでしょう。彼をDにした結果、lowerランクの殆どが全治1週間程の怪我を負いましたから」


「あぁ、予選の。……その時の映像ってあります?出来れば頂きたいのですが、」


「良いですよ。後で持って来させますね」


「有難うございます」


 支部長は従業員に指示してから、2人に頭を下げる。


「では改めて、この度はハワイ代表として参加して下さり、有難うございます」


「構いません、俺達も興味がありましたから。でも大丈夫ですか?参加者全員が日本人というのは、主催側的に」


「ハハハ、他州からはブーイングの嵐ですよ」


 しかし、と支部長は苦笑する。


「そうも言っていられないのですよ。観光業で財政の大部分を賄っていたハワイは、世界の変容と共に大規模な財政赤字に陥りました。比較的新大陸に近いのもあり、何とか素材の売買で凌いでいますが……正直厳しいというのが現状です」


「それで俺達を使って話題を掻っ攫おう、と」


「その通りです。加えるなら、日本とアメリカ大陸の中間に位置するこの島を、貿易の玄関口兼中継観光地として打診することも視野に入れています」


「……強かな人だ」


 朧は彼の目標に素直に感心した。本当にこの島を、ハワイを大切に思っているのだろう。


「ですので朧さんからも、この旨を貴国に伝えて頂けると助かるのですが、」


「俺にそんな権限はありませんよ」


「ご冗談を」


 互いに笑い合い、朧はドリンクに口を付ける。


「貿易云々の件は頑張って下さい。俺達は精一杯フェスを楽しみますので」


「はい。応援しますよ、州をあげて」


「では、」


 立ち上がる朧に、慌てて葵獅も立ち上がる。


「はい。本日は有難うございました。良いハンターライフを」


 支部長の見送りを後にし、朧と葵獅は組合を出る。

 そこで待ち構えていたマスコミに、朧は顔を顰めた。


「……じゃあ筒香さん、俺行きますんで」


「む、どこにだ?」


「観光です」


「俺も行こうか?」


「嫌ですが?」


 悲しそうな葵獅に、朧がジト目を向ける。


「あんた英語喋れなくて怖いだけでしょ。大丈夫ですよその見た目で凄んどけば」


「……それは褒めているのか?」


「褒めてませんよ」


「……。マスコミはどうすればいい?」


「知りませんよ。自分の所為なんだから自分で何とかして下さい。じゃ」


「……」


 消えた朧に周囲がざわつき、全てのマイクが葵獅に向けられる。



「……お前の弟子が冷たいぞ、東条」


 彼は諦めたように、どこか悲しそうに、天を仰いだ。


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