39話



 ――夜の月明かりが、ベコベコになったビーチを照らす。


 パーティもお開きになり、各々自分の部屋に帰って行った後。


「痛つつっ」


 東条は椅子に座り、紗命に血の滲む全身の包帯を剥がしてもらっていた。


「朧の奴、本気で殴りやがってっ」


 雷撃で罅割れ出血する掌を見ながら、東条は苦笑する。


「あんさんが挑発するさかいに。ほい、どないする?新しいの巻く?」


「いやぁ、どしよ、汗かいたしもう1回シャワー浴びるわ」


「ほなうちも入ろかな」


「お、いいじゃん」


「……まあ、何考えとるん?」


 互いに笑い合い、東条はバルコニーでバーベキューの片付けをしていた灰音とノエルを呼ぶ。


「おーい、風呂入らね?」


「入る入る!」「ん」


 血の滲む東条の身体から、プイ、と顔を背けるノエルに、東条は困った様に笑う。


「ごめんてノエル。まさか俺も翌日にこうなるとは思ってなかったって」


「ん」


「約束破っちゃったのは謝るからさ」


「ん」


「……あちゃ〜」「怒るのも当然やよぉ」


 東条はポリポリと頬を掻き、ぶすくれるノエルを抱き上げソファに座る。


「でもよノエル、今日葵さんとあそこで戦ってなかったら、俺はたぶん親友を1人失ってた。

 葵さんは気にしてないって言ってたけど、少なからずわだかまりみたいんもあったと思うんだ」


「……」


「俺達は自由に、好き勝手に生きる。そう決めて今歩いてるけどよ、それは仲間達に迷惑をかける好き勝手とは、また別だと思うんだ。

 仲間は選ぶ。でも選んだ仲間は大切にしたい。そうだろ?」


「……ん」


「俺達が追い込まれた時、灰音や紗命、沢山の仲間が俺達を助けようと動いてくれていた。それなのに俺達は、そんな奴らに礼も言わず日本を出たんだ。︎どんなに責められても文句は言えねぇ」


「……ん」


「だからさ、多少は付き合ってやりたかったんだよ。それで心が晴れるってんなら安いもんさ。葵さんは俺にとって、それくらい大事な人なんだ。

 ……今回ばかりは許してくれねぇか。この通りだ」


 彼女を下ろし頭を下げる東条に、


 正座したノエルも頭を下げた。


「ん。ごめ。ノエルの考えが足りなかった」


「許してくれるか?」


「ん。許す」


「ありがとよ!うし、」


 ノエルを再び抱き上げた東条は、待ってくれていた2人を引き連れ風呂場へと向かう。


「……ノエル達を助けようと動いてくれた、……」


「ん?どした?」


 道中、東条の肩に顎を乗せ、ノエルがジト目を向ける。


「……紗命、ノエルのこと殺そうとした」


「っちょ、ええ感じに締まったのに!」


「あははっ、そうだよね〜一生コスってやろうね〜」


「はいはい喧嘩しない」


 ワイワイと騒がしい笑い声が、洗面所に響くのだった。


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