38話




 ――「「「「「「「「かんぱ〜〜い!」」」」」」」」



 グラスが掲げられ、小気味良い音が鳴り響く。


 久方ぶりの日本勢の面々に、東条も上機嫌にシャンパンを飲みまくる。


「黄戸菊ピザ取って〜」


「ノエルも」


「はいはい」


 毒入りピザを2人が吹き出し、紗命に飛びかかった。


「……東条殿」


「はい?」


 シャンパンをラッパ飲みしている東条に、亜門が深く頭を下げる。


「あの時は申し訳なかった」


「もう良いですって。国がノエルを危険視するのは当然のことっす。ノエルも気にしてないですし、お互い忘れましょって」


「ああ、有難う」


「だからその、俺が京都でやったことも、ね?お互い、ね?」


「……承知した」


「流石亜門さんだ話が分かる!」


 苦笑した亜門が、「だが、」とスマホを彼らに向ける。


「……これは何だ?」


 画面に映る、極光と吹き飛ぶダイヤモンドヘッド。


「お前達のおかげで今日のミーティングは中止。言わずもがな日本上層部は頭を抱えてい」


 瞬間、


「ッモガ⁉︎」


 葵獅が彼を羽交締めにし、東条が亜門の口に酒瓶をブッ刺した。


「さぁ飲め誠一郎、今日はパーティだぞ?」


「亜門さぁん!シャンパンとワインとビールどれが良いすっか⁉︎ギャハハハ!」


「ッやめっ、おぶぁッちょっ、ガチべ⁉︎ゴボゴボ」


 ワイワイと騒がしい彼らを、朧はワインを飲みながら携帯で写メる。


「お前は混ざらなくて良いのか?」


 そんな彼の隣に、紅がグラスを揺らしながら座った。


「あれに?命が幾つあっても足りないですよ」


「ハッハッ、全くだ」


 紅と朧は互いに目を合わせ、周囲をチラリと見回す。


「……人前ですしね」


「……私も、飲みを邪魔されるのは好かん」


「任せても?」


「フっ、仕方ない」


 パチン、と紅が指を鳴らした瞬間、一瞬部屋の電気が明滅、再び元に戻る。


「っ焔李はん?感謝するわぁっ、く、ちょ⁉︎ノエル服の中入らんといあははっ⁉︎」


「やっちゃえノエル!アッハッハ、あ、焔季ありがとー!」


「フゥっ、フゥッ、紅殿かっ、感謝するっ」「ごボボ‼︎」「ごボボ⁉︎」


 両手に酒瓶、両脇に東条の葵獅の首を挟み、その口に酒をぶち込み注ぐ人狼が、汗を垂らしながら礼を言う。


 紅はグラスを軽く上げ、彼らに返事を返す。


「カメラは潰した。どうだ?もうお姉さんに甘えても大丈夫だぞ?」


「興味ないんで」


 スマホを弄る朧の頬を、紅がツンツンとつつく。


「クック、……新大陸では、あんなに気持ちよさそうだったじゃないか?(ボソ)」


「――っ、」


 飛び退く朧が眉間に皺を寄せ、歯を食い縛る。

 ニヤァ、と嘲弄に歪む朱色の唇の、何とムカつくことかっ。


「あれはアンタが無理矢理っ」


「抵抗しなかったじゃないか?」


「ッ、チっ」


 とそこへ、


「おいおいおい朧くぅんっ‼︎」

「――っ⁉︎」


 東条がタックルを食らわせ、朧に抱きつき床に倒す。


「おいッ、離せ酔っ払い⁉︎」


「いっつもクールぶりやがって、お前も年頃の男の子ってわけだぁ‼︎なぁどこまでやったんだ?ほれほれ」


「やってねぇッ、お前と一緒にすんモガ⁉︎」


 暴れる朧の口にカルパッチョを突っ込み、ニヤニヤと笑う東条。


「ほら、言ってごらん?師匠に言ってごらん?」


「ウッッゼェ⁉︎」


 蹴り飛ばされる東条を見ながら、紅は楽しそうに笑う。

 溜息を吐く亜門がソファに寄りかかり、葵獅も座りビールを呷った。


「そっちのグループの成果はどうだ?」


 紅が酒気に頬を染め、2人を見る。


「正直、予定の半分も進まなかった」


「途中で紗命が暴走してな」


「ククっ、こっちもだ。いやはや、次からは恋する乙女を同伴させるのはやめにしよう」


「「同感だ」」


 笑い合う3人に、今度は恋する乙女組が反論する。


「ちょっとぉ、聞き捨てならんなぁ?」


「まるで僕が悪いみたいな言い方じゃないか!」


「そーだそーだ」


 ふんすと鼻を鳴らす灰音に、紅も立ち上がる。


「今回の観測データとサンプルデータは、日本とアメリカのこれからの関係を決める、交渉材料でもあったわけだが、」


「そーだそーだ」


「ぅぐ、え、焔季と朧君がこっそりやってる時黙っててあげたじゃん!」


「ッ⁉︎オイ⁉︎」「ダハハハハ⁉︎」


 流れ弾を食らった朧は指を指して笑う東条を無視し、羞恥にキレ灰音に詰め寄る。


「元はと言えばお前の所為だろ⁉︎」


「はぁ⁉︎」


「毎夜毎夜テントで1人喘ぎやがって!うるっせぇんだよ!」


「っんな、な、なぁ⁉︎⁉︎」


「そーだそーだ」


「っノエルうるさい!」


 まさか聞かれていたとは思わなかった。顔を真っ赤に染める灰音の横を、瞬間物凄い勢いで何かが通り過ぎる。


「――っ⁉︎」

「朧テメェエっ、灰音の喘ぎ声聞いてんじゃねぇ‼︎」


「こっちの台詞だ‼︎あんなもん聞かせんじゃねぇ‼︎」


「もっと感謝して喜べやァ⁉︎」


「誰がッゥバ⁉︎」


「ぅぅぅもぅやめてぇぇ」


 オロオロと紅に抱きつく灰音。


 ぶん投げられプライベートプールに落下した朧が、ビキビキと笑いながら立ち上がる。


「……ブッッ殺すッ」


「ハッハッハ、いいぜ?どれだけ成長したか見てやるよ?」


 ホテル外のビーチで戦闘音が鳴り響く中、紗命は優雅にワインを嗜む。


「ふっ、はしたないわぁ。恋人でもない殿方の前で自分を曝け出すなんて」


 灰音を見下し悦に浸る紗命に、亜門と葵獅はそれぞれ気まずそうにグラスを傾け、頬を掻く。


「……」


「……紗命、お前も少し気をつけた方がいい」




「…………ふぁ⁉︎⁉︎」


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